【東北ぐらしエッセイ】ビジネスマンに囲まれて春を感じたできごと
4月のとある平日のお昼近くのことだ。私は、仙台駅構内を歩いていた。
その日は風が強くて肌寒い日だった。寒さに震えていた上、少しお腹がすいていた。
すると、めんつゆの匂いがした。
気がつくと立ち食いそばのお店の前だった。
スーツをまとったビジネスマンたちが、入口の券売機の前に列を作っている。
さらに券売機の横には、「期間限定 春そば・うどん」の写真入り看板が。
思わず食欲がそそられた。
まだお昼には早いけど…春うどんなるものを食べたい!
早速、食券を買うために並ぶ。
気がつくと私の前後はバリッとスーツを着たサラリーマン。
私は休日だったので、ラフなワンピース姿。ちょっぴり肩身が狭い。
食券を買った後、店内へ。もともと広いとは言えないスペースに人がぎっしり。なのに会話はなく静か。
無言で食べているお客さんたちの姿が目に入ってきた。みんな忙しいのだ。
人をかき分けてカウンターの店員さんに食券を出した。「ありがとうございます。83番でお待ちください」と笑顔で番号札を渡され、思わずホッとする。
数分後、「83番の方~!」と自分の番号が呼ばれて、春うどんを受け取った。
タケノコや菜花といった旬のものがのっている。今までうどんでは食べたことがない組合せだ。
つゆを一口飲むと、冷えた体にうどんの温かさがしみわたる。ここからは夢中になって食べた。
タケノコは柔らかい食感、菜花はほのかな甘みを感じる。
そして、もちもちしたうどんの麺もまた美味しい。
極めつけは出汁のきいたつゆ。醤油味が濃いめで、ずっと飲み続けたくなる味だ。東北人が好きな味だと思う。
結局、麺や具を食べ終わった後も飲み続け、しまいにはどんぶりは空っぽになった。
食後は満足感に包まれた。思わずホッとするひとときだった。気がつくと周囲のスーツ姿の人たちから浮いている自分が気にならなくなっていた。
春うどんでひとり、春を感じていたのだった。