【読書記録】地方にUターンしたライターの奮闘記
藤井聡子『どこにでもあるどこかになる前に』(里山社)
「Uターン・アラサーライター」である著者が、故郷で迷走しつつも、自分の道を見つけていくまでの「奮闘記」です。東京から地方へと環境が大きく変化し、フリーライターとしてどのように道を切り開いていくのか、興味深い一冊でした。
著者は、18歳で生まれ故郷の富山を離れ、東京でDVD情報誌や音楽情報誌の編集者をしていましたが、29歳を目前にUターンします。
故郷での再スタートを胸に帰郷したものの、変わらないと思っていたかつての同級生はほとんどが家庭持ちで話が噛み合わない。未婚・子なしである著者は、「家族はもちろん友達もたくさんいる故郷にいながら自分の居場所がない孤独」を味わうことになります。
一方で、再開発により街の風景が変わり、かつての名残が失われつつあることを肌で感じたり、地域のフリーペーパーが東京で見たものと同じようなものだったりと、街が均質化され「どこにでもある」様変わりしたことも実感します。
そこで、著者は、富山県の日常に転がっている希少なものや、身近すぎて気づかないことにスポットをあてることで、地域の魅力を発信しようとします。時には迷走するものの、様々な出会いを通し、自分の道を切り開いていく姿が描かれています。
著者が富山で自分なりのスタイルを見つけていくまでの過程が、ストレートな言葉で伝わってきます。普段は「ピストン藤井」という名前で活動されていますが、あえて本名を出すことで「富山でライターとしてやっていく」覚悟を感じました。
私ごとですが・・・地方に住んでいると、「首都圏に比べて、地方は出会いも少ないし、チャンスが少ない」「人間関係が狭いから、人の目が気になり、新しいことをする勇気がわかない」などと思い込み、やる前から物事をあきらめていた面がありました。著者の思いに触れ、そんな自分が恥ずかしくなりましたし、「今いる場所でできることがまだまだあるかも」と勇気づけられました。
藤井さんの地元愛に溢れた記事を読んでみたいです。
【追記】
※作中に登場する、著者が出会った人たちのユニークなこと。添えられているエピソードがおもしろいし、時に泣ける。実際に富山に行ってお目にかかりたい!お話をいろいろ聞いてみたい!
※「みんなのフォトギャラリー」で拝見した、富山の写真を使わせていただきました。(ありがとうございます!)美しい街だと感じました。