ビビッドピンクな私
ビビッドピンク、薄いピンク、
イエロー、ホワイト…
ダイニングテーブルの上に置いた花瓶の中の
カラフルなガーベラに部屋が華やぐ。
自宅の最寄駅にある花屋さんには、一本売りの花の他に、660円のサービス束が毎日売られている。お店の人がいろんな種類の花を何本か組み合わせたサービス束は、日によって使われている花や色合いが異なる。
いつも店頭に何種類か用意されているサービス束から、そのときの自分のフィーリングにしっくりくるものを選んで購入する。
今回選んだサービス束は色とりどりのガーベラの集まりで、私がその束を選んだのは、いろんな色の中でも特に目立っていたビビッドピンクのガーベラに惹かれたからだった。
私はビビッドピンクが好きだ。
ここ数年一番好きな色であり、なんとなく一番自分らしいと思っている色。ビビッドピンクの服や身の回りのアイテムもいくつか持っている。
ガーベラを家に持ち帰った日、花瓶に活けてダイニングテーブルに飾ったら、不意に目の前のビビッドピンクの色から何年も前のあるエピソードを思い出した。
私は小学生から中学生の半ば頃まで、なぜか水色の服を着ることが多買った。
私が自ら選んでいたのか、母が選んで買ってきていたのか、細かくは覚えていないけれど、なぜか水色の服が多かったことを覚えている。
そして当時の私はといえば、自分の顔が大嫌いだった。
まだメイクで自分の顔を補正することもできない年頃。ただニキビ多い素の肌を晒すしかない自分は、とてつもなく不細工で、かわいくなくて、眉毛も太くて男顔で。
そんな自分の見た目が大嫌いだった。
だからあえて男の子が着るような水色を身につけていた気もする…。
自分を「女の子」と分類するのはなんだか申し訳ない気がして、私なんかが前面的に「女の子」を出したら、誰かに何かを咎められるような気がして。
水色の服なら、許されそうな気がしたのかもしれない。
でもそうやって水色の服ばかり着ていたある日、母と服の買い物に行ったとき、お店でふと目にしたあるTシャツに目が釘付けになった。
それはビビッドピンクのTシャツだった。
胸元に少しデザインが入っていたけれど、それよりもとにかくビビッドピンクの色に吸い寄せられるように、そのTシャツを手にとった。
あの服を手にとったときの高揚感はあれから何年も経った今でも鮮明に思い出せる。
「これだ」と思った。
それまでの私からしたら、私みたいに男の子みたいな子が、こんな派手で女の子らしい服を着るなんてあり得ない、と思ってもおかしくなかったのに…。
でもそのときの私が思ったのは…
「ずっとこれを探してた…!」
「これ、私…!」
迷う隙などなく、これを買いたい、と母に差し出した。
母は一瞬、
「あら、(佳菜子しては)珍しい色」と実際に口にしたか、もしくは明らかにそんなニュアンスの表情をした。
でもそのまま笑顔でそれを受けとって、買ってくれた。
手に入れたそのTシャツは気に入りすぎて、外出着として着るには少々ヨレヨレになったあとも、
家の中で何年も部屋着として着ていた。
何回も洗濯されて生地が透けて見えるレベルになっても、部屋着として着るにもクタクタになってしまったあとも、数年間はクローゼットの中に大事にしまっていた。
今思えば、あのビビッドピンクのTシャツを、自分の分身のように感じていたのかもしれない。
本当はずっと求めていた私。
ビビッドピンクにときめく私。
本当に欲しいものを見つけた私。
それを手に入れてあげた私。
ありがとう私。
今私の目の前にはビビッドピンクのガーベラ。
嬉しい。
私の大切なビビッドピンク。