横光利一「笑われた子」朗読のための、作品考察
横光利一の初期作品の「笑われた子」を朗読し、Youtubeに公開しました。
朗読の準備にあたって、「笑われた子」を以下の通りに作品を読み込み、
考察しました。
作者情報
横光 利一〈よこみつ りいち、1898(明治31)年ー1947(昭和22)年〉
代表作は「日輪」「蠅」「機械」「旅愁」など。
菊池寛に師事し、川端康成と共に新感覚派として大正から昭和にかけて活躍しました。
作品成立の背景
「笑われた子」は1922年に「面」というタイトルで執筆され、
1924年に「笑われた子」として改題して発表されました。
横利一はこの作品の完成度を追求し、3年の間に5回もの書き直しを行ったと言われています。横光自身も「一番良い作品」と評価しており、彼の文学的才能が開花した時期の重要な作品です。
物語の要点
物語の主人公は吉という少年です。彼の家では毎晩、家族が吉の将来の職業について話し合い、彼自身はその議論に加わることがありません。吉が抱える不安は、彼が見る夢として、吉の運命が象徴的に示されています。
象徴的な夢の描写
作品の大きな魅力は、吉が見る象徴的な夢です。
夢の中で登場する大きな仮面や、家族が吉を笑うシーンは、
彼の内面的な葛藤や周囲の期待に応えられない不安を象徴しています。
最終的に吉はこの仮面を叩き割り、自分自身に対する意識の変化を示唆しています。
テーマとメッセージ
「笑われた子」のテーマは、以下の通りと考えました。
運命と自己決定: 吉の夢は彼の将来を暗示し、運命と自己決定の関係性を問いかけます。
社会的制約と個人の自由: 吉が親や社会から将来を決められる様子は、個人の自由と社会的制約の当時の時代背景が投影されています。
成長と自己認識: 吉が夢や現実を通じて自己を認識し、成長する過程が描かれています。
笑いの象徴性: タイトルにある「笑い」は、「喜び」ではなく、社会や運命による嘲笑を象徴しています。
物語の構成
「笑われた子」は朗読しても10分余りの短編ですが、構成は深いです。
起: 家族会議で吉の将来が話し合われるが、吉は自分の意見を言えずに不安を抱える。
承: 吉が大きな仮面に笑われる夢を見る。この夢は彼の葛藤を象徴しています。
転: 吉は自分の無自覚さに気づき、内面的な変化(屋根裏部屋で面をこしらえ始める)が起こります。
結: 仮面を叩き割ることで、吉は自らの才能を否定しつつも、自らの人生に対して主体的になることができました。。
象徴的な一文
「吉は仮面を引きずり降ろすと、鉈を振るってその場で仮面を二つに割った。」
この一文は、作品のクライマックスです。
吉の自己否定や社会的制約(親の期待)からの解放、そしてようやく自分を認め、成長したことをを象徴する重要なシーンです。
朗読における工夫
この作品を朗読する際には、特に以下の点に注意しました。
夢のシーンや仮面の描写に入る前には間を取り、雰囲気を変えることを意識しました。
主人公の吉は、セリフが少なく、彼の抱えている不安や葛藤を表現するのは非常に難しかったです。少ないセリフには声のトーンや速度を工夫しました。
夢と現実を区別するために、声質や読み方に変化をつけ、仮面が笑う場面では不気味さを強調しました。
吉が仮面を叩き割るクライマックスでは、彼の今までの人生の中で抱えていた怒りを込めました。そしてラストでは、仮面を割る前の気持ちの変化と、成長を感じさせるよう工夫しました。
おわりに
「笑われた子」はその深い象徴性と内面的な描写によって、
強い印象を与える作品です。
朗読にまで落とし込むのには時間がかかりましたが、かかった時間の分だけ、魅力をさらに深く理解でき、他の横光作品にも挑戦したくなる作品でした。
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