【饂飩美味紀行】#39 素うどん 華ちゃん(福岡県福岡市南区)
"揚 げ た て 丸 天 に 筑 前 男 衆 が 集 う、 粋 な 饂 飩 飯 処"
❖ 福岡県福岡市南区の位置
福岡市南区なる地は、福岡城下を離れ、静寂と安らぎを求むる者の集う地ぞ。その趣き、まさに武士の隠棲にふさわしき佇まい。西鉄の通る路は、かつての街道を思わせ、天神や博多へとひと跳びに至る利便あり。されど、この地には都会の喧騒は届かず、緑豊かなる自然と、穏やかなる暮らしが広がるのみ。
この地の誉れは、花畑園芸公園にて四季の彩りを愛でるもよし、油山に登りて天下を一望するもよし。まるで日々の務めを離れ、心の剣を研ぎ澄ますがごとき清々しさを覚えん。
また、大橋なる町は市井の人々の集う処。商家の軒を連ね、良き食と品を供するところなれば、往来の人々は皆、笑顔にて語らう。古きより伝わる野間の地には、池を囲む静けさがあり、水面に映る月は、かつての侍が想いを馳せたものであろうか。
この南区、ただ住まう地としての価値にとどまらず、歴史と自然、そして人情とが織り成す一幅の絵巻のごとし。されば、剣を収めた侍が、心静かに筆を執るにも、これ以上の地はなきかと、そう感じるものぞ。
❖ 店舗外観
❖ 饂飩絵図
❖ 饂飩膳の記録
◎ 暖簾をくぐれば、賑わう昼餉の戦場
筑前の町を巡る旅の途上、侍が一軒の店に目を留めた。飾り気のない暖簾、そしてその向こうから漂う芳しい出汁の香り。剣士の勘は鋭い。
「これはただの店ではあるまい」
侍は腰の刀を軽く直しながら暖簾をくぐる。
中では現場作業帰りの男たちや、袖をまくった商人たちが、湯気立つ丼を前に黙々と箸を動かしている。喧騒が渦巻くこの光景は、さながら戦場。
侍は周囲の様子に少し圧倒されながらも、静かに席に腰を下ろした。とはいえ、椅子を引く音が少し大きく響き渡り、数人がこちらを振り返る。
「む…失礼」
侍は小さな声で呟き、目線を下げつつ姿勢を正した。
◎ 丸天とたぬき、店主のおすすめに託す
着席後、店主が近づいてきた。
「店主、ここは何が一番の人気か?」
「ごぼう天が定番でございます」
しかし、侍は少し考えた末
「ならばあえて、そちらは外そう」と笑みを浮かべ、
「店主が本当に推したい品を頼む」
店主は一瞬驚いた顔を見せたが、
「では、丸天うどんとたぬきのおむすびはいかがでしょう」
侍は頷き、「それで頼む」と一言。軽く笑みを浮かべる。
◎ 汁一口、筑前の味わい
湯気を立てる丼が供されると、侍は慎重にレンゲを手に取り、汁をひと啜りする。
その瞬間、舌の上で広がるカツオ節、昆布、イリコの調和に思わず目を細める。塩気は控えめながらも力強く、後味の甘みが舌に優しく残る。
「ふむ、これぞ筑前の味わい」
と内心で唸り、続けてもう一口。
慣れぬレンゲの扱いに少し手を滑らせ、汁を少しだけ袂にこぼしてしまう。周囲の視線を感じつつも、動じた素振りは見せぬ。
「落ち着け、これはただの汁だ」
と自分に言い聞かせながら、何事も無かった様に手元を整えた。
◎細き麺、剣のごとし
次に箸を取り、細身の麺を引き上げる。その見た目の繊細さに反して、噛むほどに小麦の香りが広がり、腰の強さに驚かされる。茹で加減の妙が成す食感は、まさに剣士が鍛え上げた刃のようだ。
湯気が顔にかかる熱さにも耐えつつ麺をすすり上げると、汁との絡みの妙がさらに引き立つ。周囲の男たちが無言で麺をすすり上げる様子を見て、
「これがこの店の日常か」
と感心しながら箸を進める。
◎ 丸天、揚げたての粋
次に目に入ったのは、丼の中央に鎮座する丸天。その揚げたての香ばしい衣と、中の柔らかな魚の旨味が見事な調和を成している。箸で慎重に割り、一口頬張ると、
「これほどまでに贅沢な一品が、この飯屋にあるとは」
と、思わず目を見開く。
熱さに驚きつつもその美味に笑みを浮かべ、噛むたびに広がる魚の旨味に心を奪われる。
「この味を知れたこと、旅侍として幸運なり」
と独りごち、再び箸を進める。
◎ 締めのたぬき、粋な一品
最後に供された「たぬきのおむすび」。
塩昆布、刻みネギ、天かすが混ぜ込まれた素朴な一品だが、その味わいは実に深い。汁を添えて口に含めば、さらなる調和が引き立つ。
「これほどの計らい、実に粋だ」
と感心しながら、箸を止めることなく食べ終えた。
◎ 男たちの飯、旅侍の心に刻む
丼を平らげ、静かに箸を置いた侍は、代金を置き、店主に深々と一礼。
「良き一椀。この味、忘れませぬ」
と短く告げて店を出る侍。
背後ではなおも男たちが丼をすすり、店内の熱気が続いている。侍はその熱気を背に受けながら、次の目的地へと歩を進める。道すがら、丸天の香りとたぬきのおむすびの余韻が、旅の記憶を優しく彩る。
この一椀、このひと時は、筑前の旅路の中で特別なものとなった。
❖ 店の評判帳
❖ 食通評判帳
❖ 詳細な絵図
❖ 推奨取り寄せ(宣伝)
❖ 過去の巻物
美味を求む饂飩侍、風の如く歩みし味巡礼の記録なり
❖ 饂飩美味紀行全集
饂飩道の記録(マガジン)、これにて全てが揃い申す
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