サンプル1

スヴォーロフと射撃について

この翻訳をするにあたり、オルマ・メディアグループの先行研究を部分的に参考にしましたが、スヴォーロフが射撃に関してどのような考えを持っていたかという点において、それは非常に有益なものでした。

現存するスヴォーロフ軍団の使用していた銃は大変に少ないそうですが、その銃を用いてスヴォーロフの行った実際の射撃訓練を再現したデータによると、弾道は300歩の時点で30-35㎝浮き上がり、その命中精度は非常に低かったそうです。

過去の多くの出版物にはこの節の以下のような誤訳があります。

「もしお前たちが地面に銃床をつけたら、込め矢を跳ねさせ、弾込めをしっかり行うことができなくなる」

近年のロシアのスヴォーロフ研究と照らし合わせると、実際の意味は、

「込め矢の跳ね返りは銃床を地面につけるかどうかが原因ではない」

と考えるのが自然だと思います。込め矢の跳ね返りとは弾薬の暴発のことです。つまりスヴォーロフは演習の観察と繰り返しから実戦においてどうすれば適切な射撃ができるかということを研究した結果、銃弾と火薬の入った包み紙は込め矢で強く突き過ぎると包み紙から銃弾が飛び出して、結果、銃が使用不能になったり、銃弾があらぬ方向へ飛んでいくのでなるべく弾込めは柔らかくした方が良いというのが彼の真意だったと考えられます。事実、当時のスヴォーロフ軍団の軍規には以下のような注意書が残っています。

「込め矢を銃身へ急激に落とすことにより、弾薬の包みが破裂して込め矢が半分ほど跳ね返ることがあります」

恐らくこのことがスヴォーロフは銃剣を重視して射撃を軽視したという誤解に繋がると思われますが、彼は優秀な射撃手を1中隊から4-6名を選抜し、その任を与えたという記録もあります。ただし一斉射撃は戦闘に不向きであるとは考えていたようです。つまり、当時のロシア帝国の徴兵制度では兵士は主に農民より徴発されたため、スヴォーロフの目指した用兵術の単純化にとって、彼らには複雑な銃よりも単純な銃剣による白兵戦が適していたと考えていたと思われます。

平成30年1月24日 有馬貴臣

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