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【分解する物語(4)】同伴
整数を分解する際、±1による分解と、符号のみ異なる2つの整数による分解に相当する概念を考えよう。それらは「可逆元」や「同伴」という概念でまとめられる。
1.±1による分解
整数の世界で考えると、任意の整数xは1でもー1でも常に割り切る:
1|x,-1|x
しかし、これは
x=1・x
x=(-1)・(-x)
ということだから分解としては進んでいない。
刀で竹を斬ろうとしたが空を斬って実質何も斬ってないようなものである。
例えば素数の定義に1を入れないのも、分解の一意性よりも、分解が進まないからと考えるのが自然なようである。整数を1で分解しても、それは空を斬っているのと同じである。
2.可逆元による分解
このことは、一般の可換な単位的半群Rにおいて言えば、
aは可逆元 ⇒ 任意の元xについてa|x
であるが、これの逆も言えて、
任意の元xについてa|x ⇒ aは可逆元
が成り立つ。従って、
aは可逆元 ⇔ 任意の元xについてa|x
である。
【証明】
(⇒):
xをRの任意の元とする。aが可逆元なら、その逆元をa’とすると
x=1・x
=(aa’)x
=a(a’x)
である。よって、a|xである。
(⇐):
仮定により特にRの単位元1に対して
a|1
を満たすから
1=ab
となるRの元bがある。従ってaは可逆元である。■
今、Rの元xを分解したいとする。上の事からaが可逆元であればa|xであるから
x=ay
となるyがある。このyはaの逆元a’を使って
y=a’x
である。これを代入すると
x=aa’x
となる。(注意1)
(注意1:Rでは結合法則を満たすので( )は省略した。以後も特に断らず( )を省略することがあるだろう。)
以後、これを繰り返すと、
x=aa’aa’・・・aa’x
という、いくらでも分解が走って永遠に止まらない。竹の話でいえば空を斬りまくっているだけである。そこで、この方向で分解し続けることはもう十分わかったので、今後は可逆元を除いて分解を扱いたい。つまり可逆元自身は分解要素として認めないことにする。
これは冒頭でも述べたように、素数の定義に1を除く理由に通じる。
3.同レベルの分解
次に、分解の進み具合が同レベルの分解もある。例えば、整数の世界で12を2で割るのと、その可逆元(-1)倍であるー2で割るのとでは、
12=2×6
12=(-2)×(-6)
であるから、分解した相方である6とー6は単に可逆元倍(符号)の違いだけである。整数の範囲で12の約数は
±1,±2,±3,±4,±6,±12
とあるが、この符号(±)の違いに関しては上記で確認したように、可逆元が”無駄な”分解要素に当たるから、これらは分解の上で「同レベル」だと考えられる。
次にこのことを明確に定義しよう。
4.同伴の定義
元a,bが互いに可逆元倍の違いでしかないとき、つまり、
a=ub かつ b=u’a
(u,u’はお互いを逆元としあうような可逆元)
となるとき、
b|a かつ a|b
となる。
ところで、整除関係”|”には反射律と推移律を満たしていた。それゆえ前順序集合と名付けられていた。この順序の意味で「分解が進む」という表現ができた。しかし、反対称律は必ずしも成り立つ訳ではなかった。
反対称律とは、
a|b かつ b|a ⇒ a=b
という性質であった。この命題の仮定を満たすようなa,bがあっても、いつでも
a=b
とは限らないため、常に反対称律が成り立つ訳ではないのであった。
しかしこの命題の仮定を満たすa,bというのは、まさに元a,bが可逆元の違いでしかないときに成り立った。
そこで、次のような定義をしよう:
Rは可換な単位的半群とする。Rの元a,bについて
a|b かつ b|a
が成り立つとき、
a~b
と書き、これをaとbは互いに同伴であるという。
5.同伴の性質
同伴”~”もまたRの上の2項関係であるが、今度は反射律、対称律、推移律を満たす。(証明は定義からすぐ帰結する。)従って、同伴”~”はRの上の同値関係である。Rを同値関係~で割った集合をR’とおく。このR’では具体的にRの元の何と何を同一視したのか調べてみよう。
a~bとすると、その定義より
a|b かつ b|a
である。よってあるRの元x,yが存在して
a=bx,b=ay
と書ける。すると、
a=bx
=(ay)x
=a(yx) ・・・(♠)
となる。
ここで、我々はRに次の簡約条件を付帯させていた:
(I)簡約条件:
Rにおける零元0以外の任意の元aについて、
ax=ay ⇒ x=y
が成り立つ。
そうすれば上記の(♠)より
xy=1
を導く。これはx,yはそれぞれお互いを逆元とする可逆元である。
6.結論
よって、簡約条件が成り立つ可換な単位的半群Rの元a,bについて
a~b
⇔ aとbが互いに同伴である
⇔ aとbが互いに可逆元倍の違いでしかない
ということがわかった。
同伴な関係にある2元は、分解を考える上では同レベルな分解要素ということである。
特に、1と同伴な元全体は可逆元全体である:
u~1
⇔uは可逆元である
これは竹を斬る話でいうところの、空を斬るような元を意味する。
従って、無駄な分解とは1と同伴な元であって、それ以外の元(1と同伴ではない元)が実質的に重要になってくる。
こうして、同伴という同値関係を導入することで、分解の元で非本質的な部分はそぎ落とされて、すっきりと表現される。
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