軟骨夫妻 〜なんこつふさい〜②
漫画「軟骨さん」単行本出版記念
副音声的夫婦対談(というかお茶会)
コミックMeDu にてWeb連載されていた漫画「軟骨さん」(作者:佐藤達木)が企画の始まりから5年目の2023年4月28日についに単行本化されました。
このテキストは2023年5月4日に作者夫婦(結婚14年)がお菓子を食べながら録音した軟骨さんにまつわる2時間の雑談をAIに文字起こししてもらったやつに手を加えたものです。なおここでは作者自身は「私」、妻は「妻さん」など呼称を変換していますので(恥ずかしいから)ご了承下さい。漫画「軟骨さん」単行本(紙でも電子書籍でも)ご購入の方向けの特典副音声的なものとしてお読み下さい。なお長いので何回かに分けて更新する予定です(忘れなければ)。
今回はこの5年間をざっとふりかえります。そして点描の話も…
前回はこちらから
目次
●コミティア出張編集部へ持ち込み
●絵本みたいなネーム
●制約なしの良さ
●点描地獄のはじまり
●点描のスキル開発
●コミティア出張編集部へ持ち込み
夫「軟骨さん完成までに5年かかったけども。企画の話が決まってから5年。この5年間の話をちょっとしてみようか。」
妻「うちらが子供と盛岡から東京に戻って来てから5年経ったってことだけどね。」
夫「戻った年の最初のコミティア(2018)の出張編集部に見せに行ったのが始まりだよね。前日にね、妻さんとの共通の友達の、先に漫画家になってたボウツハルミさんとうちで皆んなで飲んでて、そこでボウツさんに持ち込みをすすめられたのがキッカケだったね。」
妻「そもそも、最初二人で東京に住んでた時も、本当に出版社にも行くことがなかったので、 なんで全然やらないんだって思ってた、私は。東京に住んでて地の利はすごくいいのにさって思ってさ。 もっと積極的にやらなきゃダメでしょって思ってて。」
夫「 自信なかったんだよね(笑)。なんか出版社のWeb漫画のサイトに漫画投稿したけどそれもパッとせずとか、当時の自分のイチオシと思って描いた漫画がウケなかったから、これダメだろうなと。それをボウツさんに話したら、それはあんま気にしない方がいいって言われて、明日コミティアの出張編集部あるから、そこにどっか持ってったらいっすよみたいな感じで言われて、そうなのかねーみたいに思って、妻さんにも『そうだよ、持ってったらいいじゃん』て。」
妻「 それまでもコミティアの出張編集部に一度だけ見せに行っただけっていうのが、 かなり消極的だよなっていつも思っていたし。どういう風に漫画家になるつもりだったの?」
夫「いや、もう商業とかあんま考えてなかったよね、正直、ちょっと諦めてたとこあった。コミティアの出張編集部には2回行ってて、 1回目は同人誌版の軟骨さんができた後だったんだよね。」
妻「 同人誌版の軟骨さんを見せに行ったんだ。 そうだったんだ。」
夫「 装丁がいいですねって言われたり。」
妻「 あれね、凝ってたよね。」
夫「で、 何社か見せたけど『面白いけど、ちょっとあまり絵柄が一昔も二昔も前すぎる』って言われてそうかと思ったり、『うちには合わない』とか、『一応見ますけど』とか、『自分は好きだけどちょっとね』って感じだったりでね。 だから出張編集部も実はちょっと諦めてたところもあったの。 で、ボウツさんに言われて、そうかじゃあもう一度見せてみるかとコミティアに持ってったら、コミックMeDuの、編集の今(こん)さんが気に入ってくれて、名刺もらって、そこで描かせてもらえる感じになって。 」
●絵本みたいなネーム
妻「あのー、この5年間についてだけど結構初めの頃の話をずっと言ってるなと思って。 話が決まってからどうなったのかな? 」
夫「あ、いいよ、話が決まってからでも。 話が決まって、そしてネームを描くことになってね。 まず今さん(担当編集さん)にとにかく自由に枚数も気にせず描いてくださいと言われて描いたネームが2〜300ページちょいくらいだったの。」
妻「 1年かかったっけね?、ネームだけで最初。 200ページくらいだったのかな。 もっとあったかな。 」
夫「もっとあるよ。 」
妻「ものすごいあって、それドンって持って行って見てもらって、 ちょっと長すぎるという風だったんだよね。夫さんの考えでは誕生編だけで1冊分で、残りでもう1冊ぐらいのイメージもあったからそうやって出したけど、 それだと長すぎるということで、 結局ネームをまたギュッとするのに1年くらいかけたのだっけ?。 」
夫「なんかかかったよね。 半年?かな。」
妻「最初のネームまでで半年か。 そこからギュッとすることで更に半年で、全部で1年かけてネームを仕上げてやっと制作開始になったんだよね。」
夫「 そうそう。 だから、なんかね、自分も商業とかさ、まず人にネームとか見せるってことなかったから、 そもそもネームの描き方もよくわかってないんだよ。」
妻「 半年くらい与えてもらって最初のネームを300ページくらいあるすげえの描いたけど」
夫「 なんかページ数のこと考えなくていいからって言われたから。え?いいのって。 」
妻「本当に夫さんに描かせるとダラダラ描くの知らないからね、今さんもね(笑)。」
夫「 ドーンと見開き、ドーン!ドーン!見開き!見開き!見開きばっかりで描いてて、本当に絵本かってくらい(笑)見開きばっかりで描いてったらね、今さんは 『面白いは面白いけど、なんかこんなに見開きいりますかね?』みたいなさ、自分では別にここも見開きの方がいいと最初は思って描いてるんだよね(笑)。」
妻「 そうだよね。 」
夫「『いやー佐藤さん、1冊の本に入るようにしないと。 』って言われて」
妻「だからもうそこで2冊分考えてたのを、1冊にしたんだよね。」
夫「 そう。やっぱそうなんだーと思って。 で、削って1冊に入るように2百何十ページに収まるようにしてくれっていうことで、 そこから削って削って100ページぐらい削って。元のネームを編集するような感じだよね。 それにまた半年かかったっていう。 」
●制約なしの良さ
妻「そうそうそう。結構ね、大変だった。 でもさ、やっぱり何の制約もなくネームをまず描くってすごい大事なことだよね。」
夫「 そうだね、そう思う。 」
妻「私も同人でしかやってないけれど、まず何も考えないで制約とか一切なしで描くんだよね。 で、このぐらいのボリューム数だったら何ページのしたての本になるかなって印刷所の料金表見て、 うわ、あと何ページか、2ページとか削るとちょっと入るなって。 ちょっと削ろうとかね。まずは何も考えないでバンバン描くのは、いっぱいインスピレーション出るから、イマジネーション?それが大事で、最初に描いたネームの線がいい時があるんだよね。それ使ったり、あん時の絵の方がいいなって使えたりするんで、とにかく何も考えず描くことかなって。」
夫「うん、うん」
妻「アイデアをどんどんどんどん。」
夫「そうやってやるとさ、いざじゃあ削るって言った時にさ、削るけどでもやっぱここは残したいんだよなって部分が見えてくるじゃん? ここ絶対描きたかったとこなんだよなってとこが逆に見えるから」
妻「そうなんだよね」
夫「そこを生かすために、ていうかその優先順位が分かってくる。」
妻「そこでね、大小つけるっていうかね、そういうことができるから物語もメリハリつくと思うし。」
夫「今さんに言われたもん『佐藤さん、こんなに見開きあるけど、佐藤さんこれ全部描くんですよ?』って言われて。自分じゃそん時は全然分かってないから『え?描きますけど??』みたいな(笑)。今考えたら『描きますけど??』じゃないだろって(笑)。死んじゃうだろこんなに見開きばっかりやってたら。何もまだよく分かってなかったから。大変さが。」
妻「(笑)」
●点描地獄のはじまり
夫「それで短くしてさ、描き始めて、最初のね、誕生編の出だしのとこちょっと描いてさ、今さんに見せたら『ちょっとなんかまだ薄い』って感じだったよね。『佐藤さん、もっとこう、わーっと点をね、描き込んでこう密度のある、扉絵みたいな感じに』みたいに言われて。」
妻「あー扉絵、あれはすごいよね、密度があってね。」
夫「あーいう感じで統一した方がいい、みたいなさ。えー!!?みたいな。自分そんなに実はね、点描を今までそこまで描いてなかったのよ。」
妻「ガス漫画でたまにね、やっとったけど、あんなにたくさん(今みたいに)描いてなかったよね。」
夫「そう。で、あ、自分としてはさ、メリハリっていうかさ、密な絵があって他んとこ別に密でもなくて、こうキメの絵だけ密にすりゃいいかなって思ったんだけど、なんかどうもそうじゃないっていうかさ、編集さんの考えでは、そこは統一感があった方がいいってことで、全然『薄い』ってことで、今見直したら確かに薄いんだよね、そのまだ点を入れる前のやつは。」
妻「あー、そうなんだ。」
夫「スカスカしてんの、してるんだけど、当時はそんなもんなんじゃねーのって、実際自分が同人で最後に描いた、妻さんとの二人誌のベビスタの時に描いた『ベビー・イン・ハー』ってやつでも密なとこは密で、抜いてるとこは抜いてるって感じなの。あの頃は。だからそういう感じで描きゃいいのかなって思ったら『全部密に。ある程度密に。ちょっとした会話のシーンでも背景にちょっとトーン的なものを入れないと、何もない空白に人物がいるだけだとちょっと』って感じだったんで、あー、そんな感じなんだプロの世界はって。」
妻「今さんから見た夫さんの絵はその方が合ってるって思ったんでしょうね。シンプルなのが合ってる人もいるじゃないの。」
夫「そうそう。」
妻「だから夫さんのやつの場合はその方が合ってるって思ったんだろうね。」
夫「で、そっからなんだよね、ハッキリ言って、あの点描地獄におちいっていくのは(笑)」
妻「(笑)」
※ガス漫画は作者が2009年あたりから2013年頃まで描いていた、漫画の「効果線」など、漫画の「線」を使ってムードを表現するシリーズ。線描の技術を開発する狙いもあった。
●点描のスキル開発
夫「だから最初の頃、まだ点描の描き方を会得してないから。誕生編の始まりの所でも。」
妻「今さんのせいか。へっへっへ(笑)」
夫「せいっていうか(笑)、いやー、たぶんね、今さんは私の絵を見た時、そこが目について」
妻「いいと思ったんだろうね。」
夫「密度があっていいなって思ったんだと思うんだけど、私はそういう絵はさ、イラスト的にバチっと一枚絵で描く時はそういう描き方もしてたけどさ、まさかそれで全部漫画はっていう感じだった。」
妻「うん。」
夫「でもまあ結局、技術もまだそこまで無くて。点描に関してはね。線の方はね、ガス漫画で、ドローイングの線の技術は色々あるんだけど。」
妻「そうだね。」
夫「点に関しては全然ね、たいしてなくて、普通にただひたすら点を打ってるって感じだったんだけど、だからそこからどうやって効率的に『点で埋めてるように見えるのか』っていうのをやり出して。」
妻「うん。」
夫「それで、なんかね、何回も試行錯誤して。もう紙に書いたよね。①『まずベースにこうやる』とか②『次にこうやって』とか③とかって、それ見ながらね、しばらくね、やってたのよ。それが見なくてもできるようになって。で、なんか点描を真面目に本当に点を打つんじゃなくて、ちゃんと密に見える、で、パッと見、点描をビッチリやってる様に見えるんだけど、でも効率的にやるやり方を見つけたの。そのやり方だとムラができにくいんだよね。グラデーションがあんまり変にならないで、点描をちゃんとキレイに打ててる様に見えるっていうテクニックを見つけたのよ。原稿を描きながらね。だから、あれ本当見つけてなかったらね、ホントえらいことになってたと思うね。もうなんか、どうなってたかわかんない。」
妻「ほー。」
夫「 でも結果的にやっぱり今さんがイメージしてた画面にしてよかったなと思うよ。 なんかやっぱりちょっと他と違いすぎるぐらいじゃないと、なんかポッと出のさ、50、40後半の男が出てってもさ、なんにも、誰の印象にも残らないで終わった可能性がすごい高いっていうかさ。 」
妻「最初の、Web連載の1回目出たの48歳?49歳?」
夫「 うん、なんかその辺りだったから。 やっぱなんかこう、爪痕じゃないけどさ、『何これ?』っていうのがないとさ、なかなかね、難しいとは思う。 だから、まあ大変だったけど、そういう意味でもよかったとは思う。でも最初の年は本当にもうだから、最初の出だしの、あのー、誕生編とかはやっぱり探り探りの部分もあるけど、 なんか本当にもうあれだよね、真剣勝負みたいな感じ。ずっと真剣勝負だったけど、最初は特に。もうだから、あんまりこう、焦りたくなかったっつうかね。 なんか焦って変なコマを作ったらもう終わりだと思ってたから。そこで崩れると思って。 でもできるだけそれ崩さないように、だからもうどんだけせっつかれてもちょっともう、ここはすみません慎重にやらせて下さいって感じだったよね、最初は。 」
次回に続きます