【小説】コンビニポリス
1 コンビニポリス始動!
どうしてこんなことになっちゃったんだろうなあ。
『KOBAN』で、深夜、ワンオペ……。
店内には、お客は四人。
交番なのに。
無言で雑誌を読んでいる男たち。
常時監視カメラが映像を録画しているから、万引きする者はいない。
耳に着けたインカムに無線が入る。
緊急出動。
「すみません、出かけますんで、一時閉店にいたします」
客たちは無言で外へ出る。
シャッターを下ろし、雨具を羽織り、白塗りの自転車にまたがる。
小雨交じりの夜風が、むき出しのほほに当たる。
ちくしょう。ミニパトが恋しい……。
「これ以上、交番を維持していくことはできません」
経理部長の抑揚のない声が響く。
「と言っても、数を減らすのも限界がある」
警ら部長の陰気な声。
一同沈痛な面持ち。
「例の話を飲むしかないんですかね」
広報担当部長が沈黙を破る。
「いや……」
本部長が言いかけた言葉を飲み込む。
町が一望できる県警本部の本部長室。
無言で顔を見合わせる男たち。
それから遡ること六か月前。
県議会本会議の終了後、よく言えば重厚な、はっきり言ってだいぶ古びた知事室で向き合う男二人。
「最近、交番に誰もいないという話をよく聞くんだけど」
丸顔で、福耳の男が、言いづらい話をオブラートに包もうとしてか、不自然な笑みを浮かべて話を切りだす。
「いいえ知事、たまたま警らに出ているだけで、通常、警官は常駐しています」
細面で切れ長の目をした、まだそれほど年のいっていない男が、反論する。
「しかしね、本部長。私もよく交番の前を通るんだけど、からっぽの時が多いように感じるけど」
「どこの交番ですか」
「どこというわけではないが、まあ、いろいろなところのね」
「警らや通報そのほかで、出ているものと思いますが」
「正直、人員が不足しているんじゃないのかな」
「盤石とは言いがたいですが、必要数は確保しております」
「そうかな。どうだろう、ここらで思い切った手を打ってみては」
「と言うと、採用を増やすと」
「君も知ってのとおり、今現在の予算ではそれは難しい」
「まさか、交番を減らせと?」
「いやいや、そうもいくまい」
「では、いったい……」
それから更に遡ること二か月前。
経済協力協定を締結すべく訪れた東南アジアの某国にて。
夕食を食べにお付きの者たちとホテルを出た知事。
繁華街から少し外れているその高級ホテル。一歩外へ出るとずいぶんと通りが暗い。
「ちょっと物騒だな。このあたりの治安はどうなんだ」
「あまりいいとは言えないと聞いております」
「店が一つも開いていない。日本なら深夜でもコンビニに煌々と明かりがついているもんだが」
夕餉の用意されたレストランに向かう迎えの車に乗り込みながら知事は独り言つ。
「うーん。コンビニというのは、夜の灯台のようなものかも知れないな…」
そして……県警のお偉方が頭を抱えていた日から四か月。知事の東南アジア訪問からちょうど一年後、県警記者クラブにて。
「よって、この六月一日をもって、大手コンビニエンスストアチェーンと連携し、交番をコンビニとして活用する」
晴れやかとは言えない顔で高らかに宣言する本部長。
次々と訳の分からん施策を打ち出す知事の発案を受け、本部長が発した号令一下、信じられないことが、あっという間に現実になる。
ことの成り行きは……東南アジアを訪問した際に、夜の街の薄暗さが犯罪の温床と解釈した知事。ニッポンのコンビニは夜の灯台、真夜中のオアシス、闇夜の駆け込み寺とかなんとか、勝手なキャッチフレーズをひねくり出して、あげく、財政難の県警に交番コンビニ化を働きかけた。おかげで、DJポリスならぬコンビニポリスのご誕生という次第。