ESG評価機関からの評価を「対話の始点」と考えてみる
お仕事でお会いした方にもれなく、年末のご挨拶をする時期になってきてしまいました。そして、私のタイムラインには「MSCI/DJSIに採用されました」というリリースがあふれています。これってこの界隈ではきっと、年の瀬の風物詩なのだろうなぁ…と思いながら眺めている新米サステナビリティ担当者です。
本日はESG評価機関についてnoteを書こうと思います。
ESG評価機関の銘柄入れ替えが株価に影響?!
先日、MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の銘柄入れ替えが株価に与える影響について検証した論文(注1)が出ていると知りました。
「イベントスタディの結果、ESG評価が高い新規採用銘柄の株価は売買高を伴って上昇し、指数から除外された銘柄の株価は売買高を伴って下落することが確認された」とのことで、実際のところは別にするとしても、企業さんとしては心中穏やかでないですよね。
冒頭のリリース合戦もこうした現象を見越してのアナウンスメントなのでしょうし、思うような結果にならなかった企業さんは「なんとしても我が社の評価を上げなくては!」となるのは想像に難くありません。
評価機関の需要と存在感が増す一方で課題も
ESG評価機関の存在感は近年、ますます高まっています。
金融庁が昨年(2022年)12月に発表した「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」では、
サステナブルファイナンスの急速な拡大を受け、ESG評価・データ提供機関の影響力が拡大していること
ESG評価・データは、エンゲージメント対象の選定や、エンゲージメントの内容・方法等を検討するに当たっても広く参照されていること
などが指摘されていました。
しかしながら一方で、ESG評価サービスの提供のあり方については、
サービスの信頼性確保
評価手法の透明性確保
利益相反への対応
企業とのコミュニケーション
などの面で課題が指摘されており、これが行動規範の策定と公表につながったようです。
賛同・受け入れを表明した評価機関等のリスト
策定・公表から半年強が経過した今年(2023年)7月27日、金融庁は、
「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」の受入れを表明した評価機関等リストの公表について(令和5年6月30日時点)
を発表しました。リストに載っているのは下記の機関等です。
ESG評価機関はさまざまありますが、今後はこうした行動規範の賛同や受入が、企業が機関を選ぶひとつの目安になっていくのかもしれません。
評価機関ではなく企業への提言にも注目
さて、行動規範と聞くと、金融庁が一方的にESG評価機関に「申し渡す」ものであるかのようにも思えてしまいますが、実はこの行動規範、本文末尾には企業に対する提言も載っており、私はここに注目したいと思いました。
以下、要約してお伝えします。
具体的な提言
企業は、自らのESG関連の情報について、リスクと機会双方の観点から企業全体としての重要事項を整理し、市場関係者が確認し易い形で提供するなど、わかり易く整理し開示すべきである。また、適切な体制の下で、開示するESG情報の品質を確保するべきである
企業は、ウェブサイトや出版物において、開示する内容について、更新日等の時期に係る情報を明らかにすべきである
企業は、電子メールアドレスの開設など、国内外のESG評価・データ提供機関からの企業の戦略・方針等に関する問合せに対応する窓口を開示すべきである
考え方(提言の背景)
ESG評価・データの対象となる企業においては、サステナビリティに係る課題を中長期的な企業価値の維持・向上に重要なものとして捉え、適切に対応を進めること、その上で、自らの経営戦略や方針・取組みについて、わかり易く情報を開示し、充実させていくことが重要
評価機関で開示される企業開示データの質は、(転記ミスを除けば)企業の責によるもの。したがって、適切な体制の下、開示するESG情報の品質を確保することが重要
ESG評価・データ提供機関を利用者として下記を行うことが重要
- 企業自らが重要と考える情報を適時に提供する
- 非財務情報も含め企業グループ全体を対象とする
- 情報を確認・検索しやすいウェブサイトを構成する
市場関係者との対話は重要。特に評価機関とは、評価の考え方等が各機関によって異なることを前提としつつ、各機関が明らかにしている方針に照らして評価等に課題がある場合には、建設的な対話を通じ、改善を働きかけていくべき
情報提供や対話を緊密なものとするためにも、ESGデータ・評価機関が企業情報等に不明点等がある際に問合せできる窓口等を設置・開示しておくことが重要
評価は対話の出発点との認識を今一度新たに
上述の、企業への提言内容を見ても強く感じるのは、金融庁が「対話」を重視しているということです。
そもそも行動規範策定の背景のひとつとして、ESG評価が
ことを挙げていましたし、
ESG評価機関の現状に課題が指摘されていることは認めつつも、
評価の元となるデータは基本的には企業の責任において作り、わかりやすいように開示するものであることを指摘するとともに、評価等に課題がある場合は企業側から「建設的な対話を通じ、改善を働きかけていく」「コミュニケーションを図」ることを明確に求めています。
※この点、欧州のESG格付け規制とは方向性がちょっと違うのかなという印象を受けています…まだ詳しくはわかりませんが。
日本企業が一般的にあまり得意ではないと言われる分野、でも、サステナビリティ開示でも今後は不可欠であり(例:ISSB基準も基本は原則主義)、コーポレートガバナンスの実質化という観点でも避けては通れないのが「対話」です。
サステナビリティ担当者としての私の2024年の目標は、この「対話」分野で少しずつ経験を積み、力をつけていくことです。
少し早いですが、来年の抱負を述べたところで本日はおしまいです。サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・71日目(Day71) でした。それではまた明日。
(注1)奥泉正樹・加藤政仁・砂川伸幸「ESG株価指数の銘柄入れ替えと株価の動向─MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の採用と除外における株価の動向─」アナリストジャーナル2023年12月号