マチネの終わりに/平野啓一郎
なんて言うんだろう、大人になってここまで入り込める恋愛小説に出会えると思っていなかったというか。
(恋愛小説と言っても一言で片付けられるような物語ではなく、恋愛小説という言葉で括ってしまうのも勿体無い気もするのですが。)
お互いを思う気持ちだけでなくて、それ以外のキャリアとか家族のこととかも同じくらい、もしくはそれ以上に大事な段階もあるっていう部分を描かれているところに現実味を感じて好きだった。
読んでいる時だいぶしんどかったのは、もうこの状況じゃ再会は難しいだろうなって思うしかない感じで時が進んでいっていたから。
だけど、物語の鍵ともなるこの言葉が気づきをくれたしとても好きで。
「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。」
人生全てこれな気がしました。
今なんてほんの一瞬で、その瞬間に持った感情に尊さはあると思う。
けれどそれがそのままずっと保存され続けることなんて、ないと言っても間違いではないんじゃないかな。
たとえばその時の感情を反芻して心が温まることも、その反芻するっていう行為がまたその過去を良いものにしていると思うから。
こうやってその時の感情を未来が増幅させることもあれば、逆に一変させることもある。
物語の終わりで、女性の脳裏に男性と出会ってからの五年半で起きた出来事が一気によぎった時、今の状況がまたそれら全ての捉え方を変えていっている感じがした。
このシーン大好きでした。
過去は常に未来に変えられているっていうので、何年か前に愛する吉本ばななさんのエッセイを読んで「思い出は美化される」って良いことなんだなって感じたことを思い出した。
当時と比べてより良く今捉えられるなら、それって素敵なことだよね。
まあその反対もあるだろうから、全てのことはただ起きたと考えて意味を持たせない、っていう考えもそれはそれで好きなんだけど、常にそこまでフラットでいるのはなかなか難しかったりもするし。
少し話が広がってしまいましたが、
この小説、このリアリティの中で結局運命の人的な相手と再会を果たすことができて、さらに自分の中の運命を信じる憧れの気持ちが増してしまった気がする!
好きだったので、映画も観たいし平野さんの他の本も読んでいきたい。