デジタルが病気を治す。強力なビジョンに突き動かされた事業開発の挑戦
「持続可能な医療」をビジョンに掲げるサスメド。治療用アプリの自社開発や、臨床試験効率化のためのシステム開発を手がけ、現代の医療を取り巻く課題の解決を目指しています。今回は事業開発部の長井さんに、今後のビジョンやサスメドならではの仕事の面白さを聞きました。
プロフィール
長井 奏貴(事業開発部)
東京大学卒業後、住友商事でヒト用・動物用の医薬品関連のトレード、事業管理、医薬品の開発、ベンチャーとの協業等を担当。IT系スタートアップに転職後、大企業向けのソリューション営業に従事。現在は事業開発として治療用アプリの共同開発パートナーとの提携構築、治療用アプリ・ブロックチェーンシステム・医療データ分析の営業戦略立案・実行を担う。
アプリで病気を治す。医療業界に新たな風を送る事業
── サスメドは現在どのような事業を展開しているのでしょうか?
もっとも進展している事業でいうと治療用アプリの開発です。特に注力しているのは不眠障害治療のアプリで、実用化に向けた臨床試験を進めています。日本には1,700万人もの不眠障害の患者さんがいるといわれていますが、実際に睡眠薬での治療を受けているのは500万人で、1,200万人の方は様々な理由から治療を受けていません。睡眠薬には依存性があることから、薬に抵抗がある方が多いのも理由のひとつです。薬を飲まずとも治療が可能になれば、不眠に苦しむ多くの方の生活をより良いものにできると考えています。
── 睡眠の記録など、ライフサイエンス系のアプリは世に続々と登場しているかと思います。サスメドが開発するアプリは既存のものとどう違うのでしょうか。
「身体の状態が分かる」アプリではなく、「病気を治せる」アプリである点が明確な違いといえます。一般に配布されているアプリは身体への効果はありませんが、サスメドが開発するアプリは治療効果が見込まれるものとして当局からの承認を受けて販売していくものです。専門用語でいうとデジタルセラピューティクスという分野にあたります。
── デジタルで病気の治療ができるとは驚きました。長井さんはどういった業務を担当されていますか。
製薬企業とアライアンスを結んだり、共同開発プロジェクトを推進したり、治療用アプリの販売戦略を立てたりする役割を担っています。治療用アプリは最新鋭の分野であり、現在は世の中のスタンダードになる前の段階です。開発には5年から6年もの長期間を要し、法律も厳しく、開発が成功したとしても医療機関が使いやすいものでなければ世の中には広まっていきません。乗り越えなければならない多くのハードルがあるなか、製薬企業という「仲間」が加わることで、社会実装の実現可能性は一気に高まっていきます。
── 新しい分野とのことですが、製薬企業からはどのような反応があるのでしょうか?
現代では既に主要な病気の薬は開発され尽くされているため、製薬企業は次の開発の一手を探しています。デジタルセラピューティクスは新しい領域ということもあって、ポジティブな反応を示されることが多いです。ただ、この領域で大成功したと呼べる企業はほとんど出てきていないため、様子をみている製薬企業が多いのも事実ですね。事業開発としては挑戦しがいのあるフィールドです。
日々知識を深めながら、難易度の高いプロジェクトを推進
── 実際に事業開発として働く上で、ライフサイエンスのバックボーンはあった方がよいのでしょうか?
正直今のフェーズでは、何らかのライフサイエンスの知見がある方の方がフィットします。専門知識が求められる領域のため、ゼロベースだと何よりもご本人がきついかなと。医学部、薬学部、理学部、農学部などのライフサイエンス系学部を卒業していたり、製薬企業やコンサル、商社でライフサイエンスを仕事にしていた方など、一定の土台がある方が理想です。逆にITの知識については現段階でなくとも問題ありません。
ただ、ベースの知識があっても日々キャッチアップは必要になってきます。私自身製薬系の知識は強いのですが、医学系の知識はまだまだで……。とある研究センターとのディスカッションの際、社長の上野さんと先方がお話している会話がほとんど分からず、その場で調べながら聞いたり、上野さんから教科書をお借りして勉強したりしました。専門知識の不足は誰しもがぶつかる壁ですが、ベースとなる知見がひとつでもあれば都度キャッチアップしていけるので大丈夫かと思います。
── 事業開発としての今後の展望はありますか?
次の柱となる新規事業の推進ですね。現在新規事業として着手しているのは、臨床試験の効率化を目的としたブロックチェーンシステムの開発です。実は、医薬品の開発には一品目あたり数百億円から一千億円近いコストがかかっています。コスト高騰の要因には「人手」と「膨大な検証時間」がありますが、サスメドのシステムを導入することで、そこが改善されると想定しています。
しかし、業界として簡単に受け入れられない実情もあり、本プロジェクトは最高難易度に位置すると言ってよいかもしれません。医薬品の開発には莫大なコストがかかるため、製薬企業からはリスクを懸念する声があります。さらに、命や健康が関わるものなので、何かあったら取り返しがつかないとの指摘も。関係するステークホルダーも多く、みなさん医療のプロフェッショナルなので、やすやすとプロジェクトを進めることは困難です。しかし、これが成功した場合、医療における影響力は大変大きいと思っています。患者さんに1日でも早く、適切な価格で医薬品を届けることも可能になるでしょう。私自身も治療用アプリと並行して、この新規事業に取り組んでいます。
── これから新しく入るメンバーも、こういった新しい取り組みに入っていくことができるのでしょうか?
サスメドにはもはや新しい仕事しかないです。治療用アプリにはまだ「正解」と呼ばれるものはなく、ブロックチェーンシステムの開発もサスメドが特許を取得している独自の事業です。新しいことだらけの会社なので、自分で切り拓く環境が好きな方はすごく楽しいんじゃないかなと思います。
個を尊重する環境で、社会課題の解決を本気で目指す
── 専門知識が必要かつ新しい領域を切り拓くお仕事ですが、正直なところ「つらい」と感じる場面はないのでしょうか?
それが、入社してから一度もつらいと思ったことはないんです(笑)。誇張しているわけでもなんでもなく、本当に楽しさしかないんですよね。
そう感じられているのはおそらく、「意味がある仕事」しかしていないからです。ベンチャーであるがゆえに、自分の一挙手一投足が何らかの形で事業に影響を与えると感じられているので、自己効力感があります。過去の仕事だと、様々な制約があるために「これが良い」と思ってもその通りに動けず、悶々とすることがありました。年長者に気を遣う必要があったり、大企業ゆえに承認プロセスに時間がかかったり、自分ではどうしようもないところに神経を使うことも多かったです。
現在は、社長やCOOが近くに座っているので、提案スピードもかなり早いです。なぜ良いと思うのか説明し、しっかりとロジックが通っていると判断されればNOと言われることはありません。しかも、自分が最も良いと思った提案内容から、さらに良いものになって返ってくるので毎回学びになります。個の意見を尊重してもらえて、アクションもすぐに取れるので、職場環境に対する満足度は高いですね。突然仕事が舞い込んできて「今日中に資料作らなきゃ!」とバタバタすることもありますけど(笑)、それもそれで楽しいです。大きなビジョンを形にするために必要なピースを埋めていく作業だと思っているので、どんな仕事も苦と感じずにやれていますね。
── サスメドは「持続可能な医療」をビジョンに掲げていますね。ビジョンの背景と、長井さんが事業開発としてどのように実現しようとしているのか教えてください。
衝撃的なお話かもしれませんが、日本の社会保障システムはいずれ崩壊してしまう可能性があると言われています。高齢化が進んで社会福祉の支出が増え続けていますが、税収が増えるわけではありませんし、何かを切り捨てるような施策を打つことも政治的に難しいです。崩壊する可能性があることが分かっているけれど、打ち手がない……崩壊のXデーを待つしかないのが社会保障システムのリアルなんですね。サスメドが目指すのは、そんな避けては通れない社会課題の解決です。
デジタル医療の導入で、医療業界のコストを抑える。それによって、崩壊待ったなしと思われた医療を持続可能な状態にしていく。
私はサスメドが掲げるビジョンに心底共感して入社を決めましたし、私と同じようにビジョンに強く共感したメンバーがここには集まっています。とはいえ我々はまだ30人のメンバーなので、業界を変えるパワーが足りていませんし、アプリやシステムを作ればすぐに持続可能になるような単純な話でもありません。事業開発の役割は、この強力なビジョンを実行可能な状態に落とすことです。社内外に新たな仲間も迎えながら、医療業界の景色を変えるべく走り続けたいと思います。
取材・執筆/早坂みさと