事業の芽が花咲く日のために。プロフェッショナルたちの「協働」に迫る
サスメドが開発しているのは、治療用アプリという名の「医療機器」。人の命に関わることもあるプロダクトゆえに、世の中に提供するには厳しいハードルを幾度となく乗り越えていかなくてはなりません。
今回は、臨床開発を通して治療用アプリの安全性と有効性を確かなものにしていく黒木さんと、エンジニアとして手を動かしながらアプリ開発を進めている高城さんに、開発プロセスの裏側やサスメドならではの仕事の面白さを聞きました。
プロフィール
社会課題解決に向けて、最高難易度のハードルを超えていく
── サスメドが開発する不眠障害治療用アプリと、他の睡眠サポートアプリの違いを教えてください。
高城:「医療機器としてPMDA(*1)審査、厚生労働大臣承認を目指している」ことが他のアプリとの一番の違いです。臨床試験を経て科学的なエビデンスを証明し、国からお墨付きをもらった上でエンドユーザーに届けていきます。睡眠に関する認知行動療法をはじめとした非薬物療法が盛り込まれており、これまでにないほど不眠障害治療にまっすぐ向き合っているアプリなんじゃないかと思います。
(*1)PMDA……厚生労働省所管の独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
── 「科学的なエビデンスを示す」とはどういったことでしょうか?
黒木:まず「科学的なエビデンスがある」と一言でいっても、私たちのように国・厚生労働省の厳しい基準のもとで治験の結果として証明するものもあれば、独自の研究結果から示唆・証明するものもあります。同じように「効果」を謳っていても、実際のところはどのような臨床試験を実施して、届出・認証・承認のどれを取得して世の中に出すのかは、患者さんや医師にどのようにアプリを使ってもらって、治療に貢献していきたいかで変わってくるんですね。
私たちの場合は、PMDAと治験計画を立て、数年かけて開発・治験をし、医療機器としてPMDA審査・厚生労働大臣承認を得るというプロセスを経ます。最終的に医療機関で処方していただき、患者さんにアプリでの治療という選択肢を届けていくことを目指しているので、最も難易度の高い国の承認を得ることが必要なんです。非薬物療法を提供する一つの方法として、日本のスタンダードになることを期待したいですね。
── 効果を証明するためにどのような臨床試験を行っているのでしょうか。
黒木:一例を出すと、プラセボ用のアプリ(シャムアプリ)をつくって、実際の治療用アプリとの効果の違いを見ていきます。プラセボとは、医薬品でいうと実薬との違いを見るために使用する、有効成分が入っていない「偽薬」のことです。サスメドのアプリは医療機器なので「飲む」わけではないですが、アプリを試してもらってその効果を確かめていくんです。このシャムアプリの開発も結構大変でしたよね。
高城:一見同じようなアプリに見えるのですが、中身は全く別物なんです。シャムアプリとして別で設計をして、実薬と偽薬で機能を分岐させて……と、かなり複雑な仕様でした。この辺りはサスメドで特許を取得している技術だったりします。
── 治療用アプリならではのシステム開発の難しさもありそうですね。
高城:一般のアプリはダウンロードしてから誰でも利用開始できるものですが、治療用のアプリでは医師の処方がないと利用開始できないので、一般ユーザーには使えない仕組みを組み込む必要があります。
また、絶対にバグが起こらないようにする、という緊張感もあります。治験は大変コストがかかるものなので、バグなどで治験が中断してしまわないよう、テストは入念に行っています。裏を返せば、しっかりとした要件定義のもとで、質の高いプロダクト開発に臨めているとも言えますね。
専門性を尊重しながら、相手に寄り添ったコミュニケーションを
── 開発を進める上で、臨床開発とシステム開発ではどのようにコミュニケーションを取っているのですか。
高城:フリーアドレスのため、必要に応じて関係者同士で直接会話しながら進めています。コミュニケーションの特徴としては、「相手の意見を尊重する」ことが挙げられるかと思います。互いに我を通して火花が散るようなことは、過去を振り返ってもなかったですね。
サスメドは専門性の高い方が集まっているので、各領域のプロの意見を聞きながら落とし所を探っていけるのも特徴かもしれません。各々の専門性については、みなさん信頼を寄せているところだと思います。
黒木:各領域のプロフェッショナルが揃っているのは心強いポイントです。また、時にはどうしても答えが出ないこともあるのですが、そういう場合はファクトに基づいて最終決断が出されます。持ち寄った情報を細かく解析し、その内容に基づいて決めていくんです。また、ファクト・データを活かしてどう意思決定するかは人・チームに依存するところだと思いますが、そこにもサスメドらしさがあるなと思っています。臨床開発・システム開発とバックグラウンドは異なるのですが、現時点でのベストを突き詰めてる姿勢はみなさん同じなので、個人的にも気に入っている部分です。
──相手を尊重したコミュニケーションをとっているというお話がありましたが、チームによって見ている景色が違う中で、何らかのギャップが生まれることはないのでしょうか?
高城:ギャップはありますね。例えば、ひとえに「ユーザー登録」といっても、システム開発としては多くの技術を使い、様々なフローをたどる必要があります。しかし、そういった技術的な部分は他部署では理解しづらいですよね。知識やコミュニケーションのギャップを埋められるように、まずはこちらからしっかりと説明する、ということを心がけています。
黒木:「ギャップは当然ある」という前提で話を進め、背景も含めて説明してくれるので、私たちとしてもありがたいです。
高城:サスメドには積極的にITを理解しようとする文化があるので、技術的なことも真剣に聞いてもらえています。私自身も、自分に分からない領域のときは正直にお伝えしていますが、毎回分かるように教えてくださるので、「ギャップがある前提で相手に寄り添ったコミュニケーションをとる」というのは、全社的に浸透する考えなのだと感じますね。
これまで味わったことのない、「効果」が見える達成感
── 治療用アプリは現在、社会実装可能なラインのどのあたりまできていますか。
黒木:最終ゴールを花が咲いた状態と表現するなら、現在は芽を大きく育てているところです。PoCと呼ばれる「種から芽が出るか」を見る検証は完了しているので、現在は検証試験を実施しており、国の承認取得、保険点数がつく「保険収載」とどんどん高いハードルを越えていきます。
高城:システム開発としても、社会実装を意識すると治験版とは違った機能の開発が必要となってきます。患者さんはもちろん、導入していただける医療機関にもなるべく使いやすい形で届けていきたいです。
── 最後に、サスメドだからこそ感じられるやりがいを教えてください。
高城:サスメドに入社してから、これまで味わったことのない達成感を味わっています。前職までは、システムをリリースしてうまく運用できればそこで終わりでしたが、現在は治験を通して「効果」を見ることができます。自らが手がけているアプリが患者さんの治療に効果をもたらしているとすれば嬉しいことですし、やりがいを感じられますね。
黒木:私も高城さんと同じ目線の達成感を味わっています。サスメドの目指す治療用アプリの場合、医薬品の臨床開発とは異なり、世の中にプロダクト(アプリ)が出るまでに機能などの改善に向けたフィードバックをすることができます。臨床試験を通してより良いプロダクトとなるよう働きかけられるのはやりがいを感じる点ですね。
また、効果があるかどうかは一目瞭然なので、治験のあとにはシステム開発の方から「どうでしたか?」と声をかけられることも多いです。やっぱりみなさんアプリの効果が気になるんですよね。
高城:最初は数値の価値がよく分かっていなかったので、結果を見て「こんなものなのか」と思いました。黒木さんから「ものすごいことなんですよ!」とつっこまれましたね(笑)。
黒木:僕が興奮気味にお伝えしても、最初はみなさんあまりピンときていなかったようです(笑)。
高城:今では笑い話ですね。黒木さんをはじめとして、同じ部分に達成感を持って、同じミッションを掲げてプロジェクトを進められるメンバーが多いのは、組織として誇れるところじゃないかと思います。ここまで育ててきた事業の芽が大きく育って花開くときまで、チームの垣根を越えて協働し続けられたら嬉しいです。
取材・執筆/早坂みさと