中距離ランナーからマラソンランナーまで効果をもたらす「坂ダッシュ」の重要性。
私は中長距離走のトレーニングで、老若男女のどのレベルの選手でも恩恵を受けることのできる【ランニング】の練習を挙げるならば、
① ジョグ(有酸素能力、回復力向上)
② ロングラン(有酸素能力、筋持久力向上)
③ 坂ダッシュ(神経筋への刺激 / ランニングエコノミー向上)
④ 不整地・起伏を走る(クロカン、ロングランなど)
の4つを挙げる。
ペース走やインターバルは?と突っ込まれそうであるが、これらは主に距離が正確に分かるようなトラックでなくても行えるので、老若男女のどのレベルの選手でも恩恵を受けることができると私は考えている(例えば、GPS時計を持っていなくてもできる)。
坂ダッシュの目的とは?
坂ダッシュと言っても、正確には上り坂を使った練習は「坂ダッシュ」と「登坂走」の2つに大きく分類できる。
【坂ダッシュ:Hill sprint】
・上り坂を8-10秒程度(40-60m)、最大努力で4-12本程度走る。
・老若男女、どのレベル、どの種目のランナーにも有効である。
・上り坂をスプリントをすることによって高強度練習以外で稼働できていないタイプIIx繊維(速筋繊維:持久性に乏しいが瞬発性が高い)を刺激する。
・多くの運動単位(Motor Unit)を動員する(サイズの原理):運動単位が増えると筋肉量が増えなくても筋力や筋持久力が向上する研究結果がある。
・神経筋を刺激しウェイトやプライオメトリックに似た効果をもたらす:ウェイトの基礎作りからの「トレーニング効果の転移」の局面で非常に重要。
・下肢を強化して爆発性を高めるだけでなく、坂道の傾斜を利用した走りながらの「ウェイトトレーニング」である(故障の減少に繋がる)
・坂ダッシュは最大速度よりも加速度を高めるアプローチであり、一定期間坂ダッシュで培った能力はフラット(例:トラック)でのスプリントの最大速度を高めるのに有効(平地でのスプリントの前の良い準備練習である)。
・全力の「高強度練習」であるが、上り坂なので平地よりも着地衝撃を抑えながら最大速度のスプリント練習ができる(故障のリスクが少ない)。
【登坂走:200m〜数km】
・タイプ I 筋繊維(遅筋繊維)内のグリコーゲンが枯渇すると、次はタイプIIa筋繊維(速筋繊維:中間筋)内のグリコーゲンが使用される。上り坂を利用した30秒程度、または3-5分程度の登坂走ではタイプIIa筋繊維を刺激する(持久性と瞬発性の中間の性質を持ち、CVインターバルや登坂走などの持久系練習で酸化能力を高めることによって中間筋の持久性を伸ばせる)。
・数kmの登坂走は「筋持久力の向上」がメインで、マラソンを含む中長距離走のための基礎練習として行われる(勿論ロングランよりも距離は短い)。
・30秒以上の登坂走となればケイデンスを出しながら(ピッチを高めながら)持続していくことは困難(疲弊してしまう)。30秒程度であれば7-8割程度の努力度で↓フォームが崩れないことを意識しながらストライドを保つ。
(東海大陸上部↑の中距離選手)
「坂ダッシュ」と「登坂走」のそれぞれにメリットがあるが、野外で行うとしたら登坂走では長い坂があるところでしかできない。その一方で「走るウェイトトレーニング」や「走る筋トレ」とも言われる「坂ダッシュ」はジム等でウェイトトレーニングを行うよりも比較的簡単に行える練習である。
マラソンランナーでも「坂ダッシュ」の恩恵を受けるのはなぜか?
マラソンでは「ダッシュ」をする局面はほぼない。
仮にレースの途中でダッシュをすれば、そこでリードできてもその後疲れてしまうし、ラストスパートも「ダッシュ」のつもりで走っていても、正確には「ダッシュではない」スピードで走っているだろう。
では、なぜマラソンランナーが「坂ダッシュ」の恩恵を受けることができるのだろうか?
(動画5:30〜:大迫傑も坂ダッシュの効果を感じている選手の1人である)
陸上の世界大会で数々の金メダル、世界記録を収めた中長距離選手を指導してきた名コーチのレナート・カノーバは「坂ダッシュ」を中距離選手からマラソン選手まで、それぞれの専門の種目に関わらず取り入れている。
そこで、マラソンレースについてカノーバコーチが「坂ダッシュ」と関連することで話していることは以下のことである。
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