果たして厚底シューズは規制されるのか?②
VF規制について1/16のTwitterトレンド上位になるなど、世間がざわついている。それもそうだ。多くのランナーの2019年のPBをアシストしてきたであろうシューズだから、今回の件を自分ごととして考える人が多いのだろう。
それでもビクビクしているあなたへ。心配なかれ。招待選手レベルならまだしも、一般のランナーのシューズが規制されるということは法律の観点からいえばかなりリスクの大きいこと。それに10,000人以上が出場するロードレースで出場者全員のシューズを規制するなんて、それを検査する膨大な時間とスタッフのコストを考えれば、直近では実現できやしないだろう(近未来的にそういう風になることはあるかもしれないが)。
陸連登録レベルなら規制されるのでは?とかも言われているが、それでも相当な数。そのようなことにコストと時間を費やすなら、ドーピング対策やその他の課題面に予算を回すほうがよっぽどいい。今回の件はエリートレベルの選手(特にプロトシューズが配布されるレベルの選手)が対象になることがあっても、一般ランナーのシューズが制限されることは考えにくい。
そんなことになったら世界陸連(WA)のSNSやメールや電話が大変なことになるし、相当めんどくさいことになるよ。。。(WAは仕事増やしたくないでしょ...)
競技の公平性を保つためのレギュレーション
陸上競技の競技会においては細かなレギュレーションが設定されている。
(JAAF競技規則第2部:競技会一般規則)
例えば、トラック種目ではスパイクのピンの本数や長さの規定があるように、ある一定の規則があるおかげで競技の公平性が保たれている。陸上競技の歴史に沿えば、68本のピンがあるスパイクによって競技結果に隔たりをもたらすことがないようにするためだ。
出典:The forbidden Shoe - PUMA CATch up
参考:果たして厚底シューズは規制されるのか?①(IAAFによって1968年に禁止された68本ピンのスパイク:サクラメントブラッシュスパイク)
この競技の公平性については、↑のnoteでも書いたが、キプチョゲやセバスチャン・コー会長や、日本郵政の高橋監督もその重要性を説いているから、どれだけ大切なことであるかは、このnoteを読んでいただいている方は理解されていることだと思う。
(↑の今はありませんが、というのは↓)
陸上競技では長距離選手がロードレースで使うシューズについてはこれまでに、細かなレギュレーションが設定されてこなかった。それは、長距離競技において、シューズの性能差で競技結果に大きな隔たりをもたらすこと(サクラメントブラッシュスパイクの例など)が歴史的になかったからだろう。
これを読んでいる皆さん、トラックレース(公認競技会)ではシューズチェックあったけど、ロードレースや駅伝はシューズチェックなかったでしょ?
それについて「なぜ?」と、疑問を持つことが大切。
陸上長距離でレギュレーションが持つ意味
現状の陸上競技のルールというのはそれぞれにきちんと意味がある。例えばペーサーや給水は重要な役割を果たすが、そのどちらにも規定がある。そして、その規定を超えていたのがBreaking2やINEOS 1:59であり、2:00:25と1:59:40の記録は当然ながら非公認記録である。
このような“エキシビジョンレース”であれば、とことん速さを追求しても良いと思うし、どんなシューズ(例えばαFLY)でも、ドラフティングでもあの手この手で記録を追求して欲しいと思う(これについて私は、エキシビジョンはもちろん“陸上競技”とは違うジャンルだと考えている)。
ロードレースでは、2004年に国際陸連が記録公認への規定を作って、それまで「世界最高記録」と呼ばれていたものが「世界記録」と呼ばれるようになった。このような規定を作ることによって、様々なロードレースで記録の価値のバランスが取れるようにし(不均衡にならないようにし)、それによって公認レースと、非公認レースの境目ができた。
例えば以下の公認コースの条件。
・スタート地点からゴール地点までの標高の減少は競技距離の1000分の1以下(マラソンでは 42m 以下)(下り基調のコースは該当しない)
・スタート地点とゴール地点との距離は、直線で競技距離の2分の1以下(片道コースで追い風が助力になり続けるのを防ぐ)
これに該当しない非公認レースとして、有名なもので以下のレースがある。
ボストンマラソン(アメリカ・プラチナラベル)
・大会記録:2:03:02(2011年:ジョフリー・ムタイ)
・片道のダウンヒルコースで非公認(コース)
ローマオスティアハーフ(イタリア・ゴールドラベル)
・大会記録:58:44(2016年:ソロモン・イェゴ)
・片道のダウンヒルコースで非公認(コース)
グレートノースラン(イギリス)
・大会記録:58:56(2011年:マーティン・マサシ)
・片道のダウンヒルコースで非公認(コース)
これと同じように駅伝も基本的には区間ごとに片道コースになることがほとんど。風の影響を受けやすく再現性が低くなるので、駅伝は実質的にはWA(もしくはAIMS)非公認コースで行われている競技。
そして、記録ラッシュに沸いた今年の箱根駅伝の以下の記事には違和感を感じた。
59分25秒は、森田歩希(青学大)が保持していた1時間1分26秒の区間記録を一気に2分1秒も更新。ハーフマラソン(21・0975キロ)に換算すると58分35秒前後で、ハーフの世界記録(58分1秒)に迫るようなタイムだった。
これは都合の良すぎる解釈。
箱根3区というスタート地点からゴール地点まで約50m下っているコースでの記録を、公認コースでの記録と比較すること自体が...。それなら、箱根3区は約50m下りの片道コースという記載を記事に明記すべき。
ヴィンセントの走りは素晴らしかった(1月3日に彼と少し話をした。彼はほぼ日本語が話せないので英語とカレンジン語で彼の快走を労った)。とはいえ、箱根3区でのヴィンセントの走りはハーフで実質59分台前半だった(単独走だったが)。
こういった「陸上競技におけるより正確な尺度」をメディアの人間が理解していなければ、世間一般にこういった例が拡大解釈されていく。ロードレースにおける記録公認へのレギュレーションが2004年に設定されたのは、公認条件を定めて、こういった記録の価値のバランスを取るため(不均衡をなくすため)のものである。
ライアン・ホールの言葉
選手時代はアシックスのプロ選手として活躍したライアン・ホール(アメリカ)。
北京、ロンドンオリンピックにマラソンで出場、ハーフマラソン全米記録保持者(59:43・2007年)、マラソンの最高記録は2:04:58(2011年ボストン・非公認)、公認の自己記録は2:06:17(2008年ロンドン)という実績の持ち主。
そんな、ライアン・ホールがINEOS1:59でキプチョゲがサブ2をした後に以下の投稿をして、シューズについての新しいレギュレーションを作ることを唱えた。
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