スイスでのあだ名は「お寿司の裕子ちゃん」仕事が子育て以外の生きがいと刺激になった
2009年8月にディプロマコース85期(現:江戸前寿司集中特訓コース)を卒業した石井裕子さん。卒業後約9年間、スイスで2人のお子さんの育児をしながらケータリングや握りレッスンの仕事に携わる。
現在はすしアカデミーの英語コースで講師アシスタントを務める傍ら、観光客向けの握り体験レッスンでインストラクターとして活動中。
編集部:アカデミー卒業後はスイスに行ったんですよね。現地での生活はいかがでしたか。
石井さん:実は言葉はあまり分からない状態で行きました。住んでいたところはフランス語圏で、最初はコミュニケーションが難しかったですね。
一番初めに始めたのが自宅での料理教室で。定期開催でやっていました。現地に住んでいる日本人や、英語でのレッスンが大丈夫な知り合いとか近い人に教えるところからで。
あと同時くらいで主人の会社の同僚の人たちに週に1回、お弁当を作るというのを始めました。練習のために主人に弁当を持たせていたのを周りの人が見て、「僕も欲しい、僕も欲しい」っていう感じで。ビジネスというよりは友だちに作るという感じで始めて。
そうしていくと、小さい地域なのでだんだん「お寿司できる人がいる」ということが広まっていき、たまたま知り合いの知り合いがケータリング会社をやっていて。
そこでお寿司を必ず入れなきゃいけないビュッフェがあるから手伝ってくれないかという話がきました。割とスイスに行ってからすぐでしたね。
そこのケータリング会社でそれ以来、不定期でお寿司の注文が入ると作りに行くっていうのをしたり、知り合いの中国人経営の和食レストランがあって、そこで手伝ったりくれないかと。
あとは料理教室の会社があって、そこで外部講師としてお寿司を教えてくれないかという話もありました。その間に妊娠と出産があったので、どこにも正社員として就職しなかったですし、ただいろんな縁でいろんなお仕事をいただき、それをひとつひとつやるという。
編集部:ケータリングはどういった場所でするんですか。
石井さん:多かったのは結婚式の着席前のガーデンパーティーで。お酒を飲みながらのビュッフェの中にお寿司が入ってますね。
それが終わってから会場の中に入って、着席してからコースを食べるんですけど、お客さんによっては「この後フルコースだよ!そんなにお寿司を食べて大丈夫?」という方もいましたね(笑)
あと、どの会社もクリスマスパーティー、日本でいう忘年会みたいのが12月にあって、いろんな料理が並ぶ中、前菜の位置づけでお寿司が入ることが多くて。
だいたい1人3~4ピースを計算して作るんですけど、みんなが1人で5つも6つも持って行っちゃうので、最後の人までたどり着かないんです。
編集部:その場で握っていくんですか。
石井さん:基本はその場で握ります。巻きものなんかはある程度、作り置きをしといて作りながら出していきます。間に合わないと本当に列になっちゃいます(笑)
編集部:仕事は楽しかったですか?
石井さん:楽しかったですね!やっぱり毎回、現場の場所が違うので。それこそ素敵なお屋敷のガーデンだったり、船でやったり、ギャラリーだったり。横に値札が付いたお高い置物が置いてあったりして。
例えば、会場まで車で行くんですが、何もない山の中にポツンと体育館みたいな大きい仮設施設があったりして、でも中に入ると素敵にデコレーションされているような現場もありましたね。
編集部:それはどれくらいやっていたんですか。
石井さん:2009年からなので9年くらいはやっていましたね。季節にもよりますが、月2回~4回はこなしていました。
リピーターがついて毎年同じ時期に同じ現場に行くこともありましたね。地元の音楽フェスティバルであったり、時期が近づいてくると「そろそろ来るかな」みたいな(笑)
あと子どもたちに日本語を教えている教室があるんですけど、そこでは毎年2月に節分祭りをやるんですね。そのときに恵方巻を作ったりとか。バザーでお寿司を作ったりとかしてました。
なので仕事じゃなくても、海外に行く予定がある方は、ホームパーティであったりとか地域のイベントとかでお寿司ができるとすごい重宝されますし、持ち寄りパーティーがあるときは「裕子ちゃんがいるからお寿司があるよね」みたいな(笑)
編集部:石井さんのお寿司を楽しみしてるんですね。
石井さん:まぁお寿司の人みたいな(笑)海外にいる日本人の方ってそれぞれ特技があって、それこそ自分で着物を着られてお茶ができるとか、自宅でエステをやってるとか、元々日本で美容師をやられた方が出張でカットしたりとか。結構皆さんそれぞれ特技があって、私はその中の「お寿司の人」でしたね。
節分の時には、お母さんたちみんなで巻けるようにするんですね。そうすると私が住んでいたところでは日本人皆、巻きはできるようになってます。
握りも一部できる人もいます(笑)握りまでできて私みたいに会社の人や知人に弁当を作ったり、ケータリングしている人が3人くらいいますよ!
編集部:教え方が上手だったんですね。
石井さん:みんなどんどんやんなよ!みたいな。海外に行って仕事がある人はいいですけど、言葉の壁と子育てがあって、なかなか正社員とか正社員じゃなくても外で働けないこともあるので。
狭いコミュニティの中でお寿司やお寿司じゃなくてもいいんですけど、何かできることによって子育て以外の生きがいとか人との関わりとか、あとお小遣い程度だけど自分で稼ぐことができるっていうのは、すごいプラスだなって思います。
じゃないと子どもが小さい内は、ママ友と集まって子供を遊ばせながら、お茶してっていう。それはそれで楽しいですけど、他に刺激がない感じですよね。
編集部:お子さんが小さいときにもやってたんですよね。
石井さん:そうですね!お腹にいたときもやっていましたし、抱っこ紐でおんぶしながらやってましたね。早朝に起きて子どもの面倒を見ながらも、なんとかお昼のお寿司を準備してました。
編集部:子育てしながらお仕事していくのは大変ではなかったですか。
石井さん:意外と大丈夫でなんとかなりました!
海外で働くためには「寿司」が必要だと思った!
編集部:アカデミー入学前はどんな仕事をしてたんですか。
石井さん:もともと料理が好きで高校くらいから料理を仕事にしようと思っていて、でもいわゆるレストランの厨房で働こうというよりは、ケータリングとかフードコーディネーターとかカフェ運営とかに興味があって。
大学で食物学科を専攻して、その4年間で料理実習があったんですね。それで和食・中華・イタリアン・フレンチとかをひととおり全部やって、その中でフランス料理がやっぱり新しくて、家では作らないので結構面白くて。
卒業してしばらく経ってからちゃんとフレンチを勉強したいと思って。フランスの料理学校に1年間行ったんですね。帰国してから食品会社の営業兼開発というポジションで働いていました。
編集部:そこから寿司を学ぼうと決めたのはどのタイミングだったんですか。
石井さん:そうした中で結婚することが決まり、主人がスイスに転職することになりました。仕事を辞めて、スイスに一緒に行ってから仕事をするためには「お寿司」が必要かなと思ったんです。
というのもフランスにいた時に、同じ料理学校の友だちが「日本人だからお寿司作れるのが当たり前」と思い込んでいるので「お寿司作ってよ~」って。
「いや。お寿司って普通、家で作る家庭料理じゃないからできないよ」ということが結構あって。寿司学校があるっていうのをパリで知り合った日本人に聞いたことがあって、それをスイスに行くってなったときに思い出したんです。
スイスに行くときに寿司を仕事にできると思ったので、インターネットで調べて申し込みました。
編集部:アカデミーでの授業やクラスメートはどうでしたか。
石井さん:楽しかったですね!海外移住したい方とか。日本に一時帰国中で海外にまた戻る方とか。海外関係なく飲食店の店長をやっていて、スキルアップのために来た方とか。いろんな目的を持った方がいて。
みんなお寿司を身につけたいという同じ目標があって、試験もありそういうのをクラスメートと楽しみながら協力し合いながら頑張るというのが楽しかったですね。
だいたい自主練習が終わるのが17時で片づけて、その後、飲みに行き、夜、家に帰って握り練習をしてから寝て、起きてまた学校行く生活でした。
それが楽しかったですね!10月の頭が結婚式だったので、その準備をしつつ、その間はずっとお寿司の勉強に集中していましたね。
編集部:テストとかはいかがだったんですか。
石井さん:一発で合格しました!ただ、いっぱい練習しました。
編集部:苦戦したこととかあったんですか。
石井さん:とにかく出刃包丁と柳刃包丁を使ったことがなかったので。それが一番です。洋包丁と和包丁では魚の皮引き方をひとつ取ってもやり方が全然違うので。
そういう意味では変に先にやってしまっていたがゆえに慣れるまで大変でしたね。でもとにかく楽しかったという記憶が一番ですね。
でも、努力はしました(笑)シャリ玉を持って電車の中で握りの練習をしたり、アジを買ってきて、家でも練習してましたね。
もし女性でお寿司を学んでみようかなと迷っている方はやったほうが良いと思います!お寿司は難しいですけど、真面目に学校通えば、基本的なことはちゃんとできるようになりますし、ヨーロッパではまだまだちゃんとしたお寿司を知らない人がほとんどなので。
学校で学ぶことで、外国の方に抑えるべきポイントを伝えやすいですし、より近い立場で教えられることも強みになると思いますね。なので是非やってほしいなと思いますね。
※この記事は2019年12月に東京すしアカデミーのWEBサイトで公開されました。
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