クラシカルな江戸前の仕事が光る #松野寿司
半年に1回のペースで通っているお気に入りのお店。普段は握りのおまかせ(5000円前後)だが、今回はつまみから握りまでの一通りを頼んでみた。「おまかせ全部レビュー」は以前に書いているので、今回はクラシカルな江戸前の技術を感じられるネタとつまみをいくつか紹介することにする。
軽く酢で締めているようで、しっかりした質感の身が咀嚼を誘う。脂をしっかりと感じさせながらもしつこくないメリハリのある味わいが、これから始まるコースへの期待を高める。
煮鮑の身と肝を一片ずつ。むちっとした身に歯をめり込ませて嚙み切る食感の楽しみ、貝の甘みとミルキーさを感じさせる味覚の新鮮さ。肝はほろ苦く、辛口の日本酒に合わせるつまみの王道。
海苔が湿気てはいけないと急いで撮る写真。もはやこれも磯辺焼の楽しみの1つになっている。直前に炙った平貝の熱で上る海苔の香り。食感と香りを補完し合う、相性の良い組み合わせ。
いつもは握って煮詰め(タレ)を塗る穴子。普段なら隠れていた穴子が、今回は白焼きで全面に主張してくる。身は弾力があり、皮目はプリっと。嫌な泥臭さはなく、ほくほくの穴子“そのもの”が美味しかった。
赤身を冊のまま湯霜で表面だけに熱を入れ、漬け地に漬ける「本漬け」。浸透する漬け地の香りは赤身を引き立たせ、湯霜は過度な水分のロスを防ぐ壁の役割に。追加で注文してしまう美味しさ。
車海老より一回り小さい「巻海老」を使い、シャリとネタの間に朧(おぼろ)を噛ませているのがおいしさの秘訣。こうした方が車海老の甘みもより強調されるように感じる。
2年近く寿司屋を巡っていても中々出会うことのないクラシカル代表の煮烏賊。煮詰め(タレ)の濃い香りの向こうにあるワイルドな烏賊の香り。寿司ネタとしては固いが、咀嚼があるおかげで香りが生きる。
生と違い、煮た鮑はむちっと張りがあってプチンと切れる潔い食感。これなら握りとしても十分楽しめる。普通はこの価格帯で食べられる味ではないので、もし見つけた際は思い切って頼んでもらいたい一貫。
最近の高級店はプリンやカステラのようなスイーツ系の玉子焼きが多い一方、松野寿司の玉子焼きは常に「鞍掛け」でシャリと握る江戸前スタイル。最後までシャリを感じられる、一貫した姿勢が魅力的。