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『フォールガイ』はエンドロールで完成する!影のヒーローたちに敬意を捧げよう!【映画感想】

あらすじ

大怪我を負い一線から退いていたスタントマンのコルトは、復帰作となるハリウッド映画の撮影現場で、監督を務める元恋人ジョディと再会する。そんな中、長年にわたりコルトがスタントダブルを請け負ってきた因縁の主演俳優トム・ライダーが失踪。ジョディとの復縁と一流スタントマンとしてのキャリア復活を狙うコルトはトムの行方を追うが、思わぬ事件に巻き込まれてしまう。

https://eiga.com/movie/100947/#google_vignette

レビュー

TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の人気コーナー【週間映画時評 ムービーウォッチメン】課題映画になったので感想メールを送りました。このレビューはそのメールの全文です。

以下、作品の内容に触れています。致命的なネタバレはないとは思いますが、あまり事前情報を入れずに映画を鑑賞したい方は映画鑑賞後にご一読くださいませ。 


「We Love 映画産業♡」 に大共感!


『フォールガイ』見てきました。
みんなが愛する「映画産業」をすべて愛で包んだ大傑作でした!

私が最も素晴らしいと思ったのはその構成です。

「本物志向」潮流もやや飽和気味では?


メタ構造を持つ本作は「スタントマンが命懸けで凄いことをやっているなん百も承知だよ!」と言ってきそうなうるせぇ映画ファンが納得いくような、刺激的なサプライズを提供する必要があります。

このハードルは以前よりも数段高くなっています。『ジョン・ウィック』シリーズや近年の『007』のアクションは高い評価を得ていると思いますが、その成功が皮肉にも「CG・VFXを多用せずに"本物のアクション"を提供する」潮流それ自体に、最近は若干の既視感が漂い始めているのではないかと思っていました。

スタントマンへのリスペクトは大切だけど、「映画制作」はスタントマンだけでは成り立たないよね?


そんな中で本作の一番の発明は、ストーリーの骨格をスクリューボール・コメディ風味のロマコメにしたことにあると思います。本作の超絶アクションは確かに素晴らしく、刺激的なサプライズを提供していると思います。しかしそこだけに観客の興味が行き、既視感を抱かせないようにするK.U.F.Uが見事でした。

スプリットスクリーンを使ったコミカルな会話や、『ノッティングヒルの恋人』『ラブ・アクチュアリー』など恋愛映画への言及があるなど、明らかにアクション映画以外の文脈からもこの映画は作られています。

下手すると「アクション映画は最高だ!スタントマンをリスペクトせよ!」と一方的なメッセージになりかねない本作ですが、何かと軽視されがちなロマコメ映画の文脈も上品に取り入れることで、一方的な押し付けがましさを回避しています。脚本家・美術・録音・俳優のアシスタントなど、直接的にはスタントに関わらない裏方にも光を当てることで、アクションに限らない「映画制作そのもの」へと観客の関心を見事に誘導しています。

そしてエンドロールでこの映画は完成された


そしてなんといっても、劇中セリフでオマージュが捧げられていた『ロッキー・ザ・ファイナル』を思わせるエンドロールに、私は涙を流しました。この世界に『ロッキー』が何をもたらしたのかを示す最高のエンドロール『ロッキー・ザ・ファイナル』のように、「影のヒーローたちがなにをこの世界にもたらしているのか」を示すエンドロールをもってこの映画は完璧なものになったと思います。

まだ未見の方はエンドロールまで刮目していただきたいものです!最高でした!


※あとがき※


メールではスタントアクションの凄さには触れませんでしたが、俳優たちが実際にスタントをしているシーンの迫力、特に市街地のカーチェイスは度肝を抜かれましたね。でも「俳優が本当にスタントをしている」の凄さを前に出しすぎると、極論ですが「スタントマンは不要では?」となり、この映画の最もキモであるテーマがブレますよね。メールでもそういう書き方はしたくなかったし、鑑賞後に最も心に残ったのは「ド派手アクション」ではなかったので、素直な気持ちで書いたつもりです。

かつてのジャッキー・チェン、最近のトム・クルーズのように「命がけのスタントも俺がやる!」イズムや、「CGは極力使っておりません!!」的なアクション構築は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が世に放たれて以降アクション映画においてかなり重要なフックなのは間違いないですが、今はそれだけではなんとなく新鮮味を感じられない自分がいるんですよね・・・。これは個人的な感覚なので世の中の人がどうかわからないですけど、MCU疲れにも似た感覚というか・・・。

この映画の主たるテーマは「スタントマンに敬意を!」ということですし、この映画がきっかけでアカデミー賞にスタント部門なんかができれば本当に最高なんですけれど、私はこの映画が愛を注いでいるのはスタントだけではないと思ったところに惹かれたんですよね。

うまく言語化できませんが、スタントマンの偉大さをたたえる映画なのに意外とそれがこれ見よがしではなく、よくも悪くもロマコメの「添え物」みたいになっているのがいいなあと思いました。宇多丸さんが言っている「オフビート」ってことのような気もしますが、どうなんでしょう。


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