フィルムはライフルよりも強し『シビル・ウォー アメリカ最後の日』【映画感想】
あらすじ
レビュー
TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の人気コーナー【週間映画時評 ムービーウォッチメン】課題映画になったので感想メールを送りました。このレビューはそのメールの全文です(一部誤字修正あり)。
作品の内容にまったく触れていませんが、あまり事前情報を入れずに映画を鑑賞したい方は映画鑑賞後にご一読くださいませ。
とりあえずIMAXがおすすめ!没入感が違う
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』IMAXレーザーGT字幕版で見てきました。没入感のある戦闘シーン、迫力のある音響効果、オスカーで主演女優賞じゃなくていいからせめてノミネートはしてほしいキルステン・ダンストの名演、劇中の人物の慟哭・絶叫をあえて声として聞かせない演出など様々な魅力がある作品でした。
その中で特に印象に残り、そして見終わったあとも考え続けていたのは「報道の力」についてです。
戦争映画の型で「報道」を問う
「ペンは剣よりも強し」とよく言われますが、本作は「フィルムはライフルよりも強し」と言わんばかりのジャーナリズム色が強い作品です。リーとジェシーがレンズを向けるとき、まるで兵士がライフルで狙撃するときのような鋭さで被写体を狙います。
「報道の力」に失望しつつあるリーと、悲劇的な体験も重ねながら皮肉にも戦場カメラマンとして成長し続けるジェシーの姿は新兵モノのようでもあり、こちらもある種、記者の物語ながら「戦争映画」にありがちな枠組みを使っているのが面白いなと思いました。
たしかに「ペン」は剣より強い
さらにこの映画が素晴らしいのは、ややねじれた視座を持っているところだと思います。「ペンは剣よりも強し」という言葉の元々の原典は、エドワード・ブルワー=リットン卿作の戯曲『リシュリュー』にあります。ここでは「言論の力は暴力に勝つ」という意味合いではなく、権力者であるリシュリューが「自分に歯向かうものがいたとしても、自分が書状にサインさえすれば下剋上はなくなる」というものだったそうです。
そう考えると、この映画で仄めかされているこの内戦が起きてしまった原因が、大統領の暴挙、権力の暴走であることは非常に意義深いと思います。ちなみにトランプ氏は大統領になったあかつきには連邦議会議事堂襲撃の受刑者に「恩赦」を与えると公約で掲げているそうです。ペンでサインするだけでなんでも出来る人間がいる。そのそもそもの不均衡について考えさせられました。
言論の力が揺らぐ昨今に、即物的な「画」の力で反戦を訴えるこの映画の力に感動しました。傑作だと思います。
※あとがき※
読み返してみて、公開するのをためらうようなヘッポコさだなと思ってしまいました…。そのためしばらく公開を躊躇っておりました。
この映画のジャーナリズム精神に感化され、自分なりに知識や周辺情報を集めているうちに段々時間がなくなっていきました。お昼休みや就業中にトイレにこもってコソコソ慌てて書いた結果、個人的には不完全燃焼なメールになってしまいました。
付け焼き刃の知識を中途半端にひけらかしただけで批評にはなってねえよなあ、、、と。私は未熟です。
でもさ、、、感想メールを募集!って言ってんだから、アマチュアですらないただの映画好きの戯言なんだし、批評性とか要らねぇか!…と今は元気に開き直ってます。
もしこの企画に弱点があるとすれば、映画で起こっている事態を現実が超えてしまわないか?ということだと思います。パンフレットの監督インタビューで言及されていましたが、有罪判決を受けた人物が大統領選に立候補し、しかもかなりの支持を得ているのが現実です。また自国民(兵士ではなく一般市民)の犠牲者を出しながらジェノサイドを続けている軍隊があるのも現実。
しかしこの映画は緊迫感のある映像で没入させ、ただし戦意高揚のような間違ったカタルシスを生まないような配慮ある着地になっている。とてもクレバーだし、これがこのタイミングで公開されていることはとても意義深いと思います。
日本でも近々選挙がありますね。こういうとき、私は大林宣彦監督の「正義ではなく正気でいることが大事」という主旨の言葉を思い出すようにしています。
正義だと思うとライフルで誰かを撃ち殺しても何かと理由をつけて正当化してしまうかもしれませんが、正気で考えるならやはりライフルなんかでは解決できないってすぐに思えるはずなんです。
ちゃんと考えて投票に行かなきゃですね。
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