『エイリアン ロムルス』は監督の洗練された「ゲーム感覚」と戯れる楽しいホラーアクション! #映画感想
『エイリアン ロムルス』を見た。巨匠リドリー・スコットが監督をした1979年の『エイリアン』以来様々な続編やスピンオフが生まれている人気シリーズの新たな一本である。メガホンをとるのは『ドント・ブリーズ』でその手腕を買われ、『蜘蛛の巣を払う女』でも監督と脚本を担当したフェデ・アルバレス。
本作は1作目『エイリアン』の直後から始まると言って大げさではないほど時代設定が近く、1作目で創造された世界観・デザインがかなり踏襲されている(といってもパンフレットの説明によれば1作目から約20年後の世界が舞台らしい。でもこの世界の人間たちは平気でコールドスリープするし、20年くらい大した時間には感じないのでノー問題)。
なお私は「エイリアン」シリーズは1979年の『1』から1997年の『4』、および『プロメテウス』と『コヴェナント』まで主要作品は全て鑑賞済みだが、ずいぶん前に1回ずつ見た程度でぶっちゃけあまり記憶がない。それでも本作『ロムルス』は大満足だったので、1作目や他のシリーズを見ていないと楽しめない作品ではないということは先に書いておきたい。
レイン(ケイリー・スピーニー)は、「弟的存在のアンドロイド」であるアンディ(デヴィッド・ジョンソン)とジャクソン星で暮らしているが、劣悪な生活環境とウェイランド・ユタニ社の労働搾取に苦しんでいた。ある日、レインはジャクソン星の上空に廃船となった宇宙ステーションがあることを仲間から知らされる。その宇宙ステーションに残っているであろう物資を入手し、ジャクソン星から逃れてもっと環境のいい惑星に移住する作戦にレインとアンディは参加することになるのだが・・・。
まずは『ドント・ブリーズ』を振り返る
初めて『ドント・ブリーズ』を劇場で見たとき、こんなに面白い映画があるのか!とたまげた記憶がある。サクッと配信で見られるので未見の方はぜひ見てほしい。この作品で感心したのはスリラー映画と呼ばれるジャンルにおいて「驚かせること」と「怖がらせること」を混同せず、観客の興味を持続させ続けるフェデ・アルバレス監督の演出力だった。
『ドント・ブリーズ』では生活が困窮している若者たちが盲目の老人の家に侵入し、強盗を企む。しかし盲目の老人は超人的な殺人スキルと聴覚の持ち主であり、少しでも音を立てると容赦ない攻撃をして若者たちを返り討ちにする。
こう書くと「苦しい生活を強いられた若者が状況を打破するため大仕事に取りかかるが、待っていたのは想像を超える恐ろしい敵だった」というあらすじは『ロムルス』と結構似ているが、似ているのはあらずじだけではない。
『ドント・ブリーズ』は若者たちが老人の家から生きて脱出できれば勝ち、という「ゴール」が明確に提示される。同時に「音を立てると容赦ない攻撃を受ける」という「ルール」も設定される。ずっと同じ一軒家にいるはずなのに、暗闇の納屋や地下室など巧みに舞台を移し、さながらテレビゲームの「ステージ1」「ステージ2」のように若者たちの「ゴール」までの難易度を高めることで観客の興味を離さない。
そして『ドント・ブリーズ』で観客の興味を持続させる最大のポイントは、終盤で老人の異常な本性が明らかになるところである。よくハリウッド製のホラー映画では「暗い所から突然何かが大きな音と共に登場する」という演出がされるが、これは生理的に「驚かされている」だけであって実は「怖い」とは似て非なるものだ。
『ドント・ブリーズ』にも「暗所から突然老人が!」というお化け屋敷のような「ビビらせ」演出はあるが、終盤の展開は完全に観客を「怖がらせる」方向にシフトしている。見た人ならわかると思うが、ちょっと同情しかけていた老人のヤベェ本性が明るみになってからは「怖っ・・・ていうかキモいんですけど・・・!」と観客に冷や水を浴びせてくる。フェデ・アルバレス監督は「驚かせること」と「怖がらせること」を見事に使い分ける名手なのだ。
ゲーム的アクション構築センス
ここまで『ドント・ブリーズ』のことばかり書いて申し訳ない。
しかしどちらも鑑賞した人はもうピンと来ているかもしれないが、実は『ロムルス』は『ドント・ブリーズ』の拡張版と言っても言い過ぎではない作品だと思う。
「主人公たちの動機」「密閉空間からの脱出(一旦脱出できてもなかなか終わってくれない・・・も含む)」「ビビらせることと怖がらせること(≒キモいこと)の両立」などが共通項として挙げられる。
もちろん他の『エイリアン』シリーズとの整合性の問題もあるため、フェデ・アルバレス監督の作家性が存分に活きているとは言い難い部分もある。
しかし先述したような単純明快な「ルール」を観客と共有し、そのルールに沿って、制限時間以内に次のステージへ、そして次のステージへと進んでいく感覚はアクションゲームのようであり、それがこの『ロムレス』では『ドント・ブリーズ』よりもさらに洗練されて冴えわたっていた。
こういったアクションの場合、爽快なのはそれまで厄介だと思われた「ルール」を逆手にとって反撃をする場面だと私は思う。詳しく書くと未見の人の楽しみを奪うので伏せるが、『ロムレス』での「無重力のアレ」は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(1作目)での「無重力のアレ」レベルで感動した。
内容を伏せるために「アレ」ばかり多用している・・・これは「アレ逃れ明美」ですね。
ストーリーとキャラクターも良いぞ
しょうもないことを書いてしまった。
だが最後にもう一つ、念押しでこの『ロムレス』を推したいのは、ストーリーやキャラクターがしっかりしているからこそ、前述のアクションが楽しく見られるということだ。
非常にシンプルかつタイトな時間、ミニマムなセリフで主要登場人物のバックグラウンドを伝えることで「彼らにどうしても別の惑星に移住してほしい、この宇宙ステーションから無事に脱出してほしい」と思わせることに成功している。それも人間ドラマが重すぎてウェットにならない見事なバランス感覚で。
つまりアクションゲームっぽいんだが、ゲームではなく「映画」として面白かったんだということはしっかりと書き残しておきたい。いくらアクションが楽しくても、どうでもいい奴らが主人公だったら途中でどうでもよくなっちゃうもんね。
なお『エイリアン』シリーズにアンドロイドはお約束だが、今回のアンディは露骨なアンドロイド差別を受けていたり、アッシュ・・・じゃなかったルークから「人間とアンドロイドの共存」について揺さぶりをかけられたりと、なんとなくPS4の名作ゲーム『Detroit: Become Human』の影響があるのではないか・・・というのは考えすぎだろうか。
完全な余談
TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の人気コーナー【週間映画時評 ムービーウォッチメン】課題映画になったのは知っていましたが、どうしても予定が合わずに放送までに本作を観ることが出来ませんでした・・・。
感想メールで番組に貢献したいという思いはあるのですが、なかなか難しいです最近は。
ただ今回は宇多丸さんの評論を聴かず、先入観なく鑑賞し、自分の持てる力を振り絞ってここまで『ロムルス』の感想を書いてみました。
メールだとコンパクトにまとめようとか、発音しやすい言葉遣いにしようとか考えてしまうのですが、「これはこれ」「それはそれ」で楽しんで書きました。
私はこの『ロムルス』は賛否でいうと「賛」なんですが、果たしてアトロクリスナーや宇多丸さん本人の評価はどんな感じなのか、今から聞くのでドキドキです。私が絶賛しているのにみんなが酷評してたらどうしよう(笑)
あと、毎回長尺なのでなかなか見られていないのですが、今回ばかりは【BLACKHOLE】も見てエイリアンシリーズを勉強したいと思います。
以上、長々お付き合いいただきありがとうございました。