『侍タイムスリッパー』は楽しい!笑える!んだけど・・・【映画感想】
あらすじ
レビュー
TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の人気コーナー【週間映画時評 ムービーウォッチメン】課題映画になったので感想メールを送りました。このレビューはそのメールの全文です。
以下、作品の内容に触れています。あまり事前情報を入れずに映画を鑑賞したい方は映画鑑賞後にご一読くださいませ。
自主制作と思えないルックの強さはある!
『侍タイムスリッパー』見てきました。自主制作映画とは思えないルックの強さ、チャンバラ劇の魅力が伝わってくる作品だったと思います。ダサいと思ってしまうような「画」がないという時点でかなりの力作ではないでしょうか。
ちらりと顔をのぞくトム・クルーズ精神
この作品は小規模の上映から口コミで火がついて全国に拡大公開されている点や、映画愛に溢れた映画という点で『カメラを止めるな!』と比較されているようですが、私は良くも悪くも『トップガン マーヴェリック』の影響が強い作品だと思いました。クライマックスで「いつかは忘れ去れるだろう、でもそれは今日じゃない」といった意味合いのセリフを主人公に言わせていることからも明らかだと思います。
時代劇・チャンバラに詳しくない私でも、クライマックスの「真剣」勝負の迫力は目を見張るものがありました。俳優陣に関しては文句なしです。朴訥とした演技、貫禄ある演技をそれぞれの俳優がきっちりと果たし、殺陣のシーンも充実していました。大資本が入っていながら駄作と言わざるを得ない先週の『スオミの話をしよう』よりも笑える箇所も遥かに多かったです。
ただし、「楽しかった」というのは前提なのですが、とはいえ私は世間の熱量ほどは「大絶賛!」というテンションではないのが正直なところです。
(※余談)「スオミの話をしようぜぇ…」がアトロク流行語大賞を獲る可能性も高そうなので、記事のリンク貼っときます。みなさんもぜひ劇場で見てスオミの話をしようぜぇ…。
「真剣」勝負は取り扱い注意!
この映画は先述したとおり『トップガン マーヴェリック』の影響が強く感じられる作品です。「時代劇」という産業、および「斬られ役」という役回りについて、今は斜陽かもしれないけれど「魂」は残っている、「魂が忘れ去られる日はいつか来るけれどそれは今日じゃない」というメッセージは理解できます。しかしクライマックスで展開される「真剣」勝負は、時代劇と侍の生き様の「魂」が混同されていてノイズに感じました。
「真剣」勝負、つまり「本物だからこそ観客に熱量が伝わる」というのは『トップガン マーヴェリック』で俳優が本当に戦闘機に乗り込んでいるといった「本物志向」に近いと思います。とはいえこの『侍タイムスリッパー』のクライマックスはあくまで「時代劇」の撮影シーンです。時代劇への愛や魂を謳うのであれば、時代劇の撮影で主人公と相手役が「真剣」勝負を選択するのはいくらなんでも無理がある気がしました。助監督がビンタをしますが、エクスキューズとしては全然足りていないと私は思います。
武器はたゆまぬK.U.F.U
「侍の生き様」にケリをつける勝負としてあの殺陣を見られたなら素直に興奮できたのですが、「時代劇を撮影している現場」だと考えると「真剣じゃなくてもK.U.F.Uでいいシーンは撮れるっしょ」と思うし、普通に危なすぎるだろ?とかなりノイズになってしまいました。殺陣を演出したアクション・コーディネーターを無視した行動をとっているわけですし、回りまわって、それって時代劇への愛があるって言えるの?と感じてしまいました。
その他、チャンバラはめちゃくちゃ多いけれど「これは一体どういう時代劇なのか?」という疑問が湧いてくるのもノイズでした。もう少し劇中劇に触れてもよかったのではないかと思います(侍としての信条とリンクした物語らしい、というのは幕末の歴史に疎い私でもなんとなくわかりましたが)。
ただ傑作とされる『トップガン マーヴェリック』も「これって侵略作戦じゃね?」的なノイズはあるので、気になる/気にならないは人それぞれかと思います。質の高い自主制作映画の盛り上がりに水を差すのは本意ではないですし、多くの人にオススメしやすい作品なのは間違いないと思っています。
※あとがき※
映画の感想が「普通」だったときが一番困るのですが、さすがに「普通でした!」と書くのも芸がないので結構悩みました(苦笑)
某人気ブロガーさんの感想もかなり参考にさせていただいています。私が引っかかっていたのはそれだッ!と記事にしてくださっていて、ちょっと感想がそちらに引っ張られたのは少し反省です。ただ「巨人の肩に乗る」も決して悪いものではないはずなので、悪しからず…。
正直、欠点として挙げたところは目くじらをたてて怒り狂うレベルのものではないと思っています。そう読めてしまわないように気は遣ったつもりですが、この作品が好きな人や関係者が嫌な思いをしないことを祈っています。
宇多丸さんの評論の中で「第3幕に違和感を抱く人がいるのは、それだけこの映画に没入しているからではないか?」と言っていたのには納得しました。やっぱり作り手が本気で作っているからこそ抱く疑問や違和感は、ネガティブなものではあるけれども「呆れる」「怒る」「時間の無駄だった」みたいなものではないんですよね。
ですので私はやや否定的なことも書きましたが、話題になって拡大公開されているこの状況には非常に好意的に受け止めています(←お前なんで上から目線やねんというツッコミも受け止めます)。
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