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【映画感想】『ダム・マネー ウォール街を狙え!』

あらすじ

コロナ禍の2020年、マサチューセッツ州の会社員キース・ギルは、全財産5万ドルをゲームストップ社の株に注ぎ込んでいた。アメリカ各地の実店舗でゲームソフトを販売する同社は時代遅れで倒産間近と囁かれていたが、キースは赤いハチマキにネコのTシャツ姿の「ローリング・キティ」という名で動画を配信し、同社の株が過小評価されているとネット掲示板で訴える。すると彼の主張に共感した大勢の個人投資家がゲームストップ株を買い始め、21年初頭に株価は大暴騰。同社を空売りして一儲けを狙っていた大富豪たちは大きな損失を被った。この事件は連日メディアを賑わせ、キースは一躍時の人となるが……。

https://eiga.com/movie/100278/

所感

アフター6ジャンクション2』の課題映画になるまで知らなかった作品でした。しかし『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ギレスピーが監督だと知り、これはきっと面白いに違いと思ったら想像以上の面白さでして。

せっかくなのでメールを送ってみたら、「要約」という形ではありましたが番組内で紹介されまして!アトロク2になってからは初採用だったので嬉しかったですねえ。

ほとんど何も読まれてないのにステッカーを入手。しのびない。

宇多丸師匠から「凄すぎて要約すらできない」「このメールを読めばもう俺の評論なんて要らないんじゃないか」と評される名物リスナーの方もいらっしゃいますが、「後から評したいことと重なるので抜粋という形にしました」と言われるのもこれはこれで嬉しいものですね。

送ったメール全文

『ダム・マネー ウォール街を狙え!』観てきました。

実際に起こった金融騒動を題材にしていること、「空売り」が重要なキーワードになっていることから、私は2015年のアダム・マッケイ監督作品『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を連想しました。『マネー・ショート』も好きな作品なので甲乙つけがたいですが、今回の『ダム・マネー』の美点は「今、観ておくべき映画」になっていることだと思います。

市井の人々のなけなしの資産を富裕層が食い物にしているというシステムへの怒り。富裕層が結局は司法で裁かれず、ほぼ無傷でいることへの怒り。これらは2作に共通して受け取れる主張です。しかし明らかに違うのは作劇の怒りのトーンで、『マネー・ショート』はスティーブ・カレルが途中で見せる「頭の血管がブチギレそうなほどの煮えたぎるような怒り」をぶつけてくるのに対し、『ダム・マネー』はどことなくテンションが低く感じます。

私はこのどことなくテンションの低いトーンに好感を持てました。なんとなくテンションの低いフラットな語り口は、これがパンデミック以降の映画だからだと思います。まだコロナが落ち着いたとは言い切れない頃に製作された本作は、あの頃の寄る辺なさが映画の裏側に透けて見える気がするのです。あの頃の混乱した気持ちを新鮮に思い出せるうちに観ておかないと本作の真の価値にはたどり着けないと思います。

その象徴ともいえるのが仇役といっていいセス・ローゲン演じるゲイブの描き方ではないでしょうか。彼をいくらでも嫌な悪奴として描けるところ、あえて中間管理職のような悲壮感が漂う人物像にしており、彼には彼なりの苦悩があるという側面を見せてきます。悪役の側にも寄り添おうとするフラットで少しだけ優しい目線は、コロナ禍の混乱を経て私たちが得た教訓のような気がするのです。

コロナ禍(&トランプ政権下)では有象無象の情報が溢れ、「一体何が起こっているのか誰にもわからない」というカオスな日々が続き、国家も民主主義も機能不全になるのではないかという不安に襲われました。ゲイブは情弱ならぬ"情強"ともいうべき人物で、おそらく情報を武器に成功を収めてきた人物です。しかしたとえ情報という武器をもっていても「一体何が起こっているのか誰にもわからない」状況を前にジタバタと七転八倒をします。

パンデミックの混乱と今回のゲームストップ株騒動を無意識にシンクロさせながら観れるのは、今が最後のチャンスといったところではないでしょうか。本作は「持ってるヤツに持ってないヤツがたまには勝つと思ってたいヤツ」映画としてアガるのはもちろんですが、私はコロナ禍を経過したいま改めて「大切な人を失った喪失感」や「人恋しくてオンラインで誰かとつながっていたい気持ち」を思い返す作品としてとても魅力的だと思いました。


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