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これはシャマラン流「演技」の面白さの追究だ!『トラップ』【映画感想】

あらすじ

クーパーは溺愛する娘ライリーのため、彼女が夢中になっている世界的歌手レディ・レイブンが出演するアリーナライブのプラチナチケットを手に入れる。クーパーとともに会場に到着したライリーは最高の席に大感激の様子だったが、クーパーはある異変に気づく。会場には異常な数の監視カメラが設置され、警察官たちが会場内外に続々と集まっているのだ。クーパーは口の軽いスタッフから、指名手配中の切り裂き魔についてのタレコミがあり、警察がライブというトラップを仕組んだという情報を聞き出す。しかし優しい父親にしか見えないクーパーこそが、その残忍な殺人鬼だった。

https://eiga.com/l/1cAvU

レビュー

TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の人気コーナー【週間映画時評 ムービーウォッチメン】課題映画になったので感想メールを送りました。このレビューはそのメールの全文です。

以下、『トラップ』およびシャマラン監督の過去作『オールド』『スプリット』の内容に触れています。

あまり事前情報を入れずに映画を鑑賞したい方、、、というか「シャマラン映画」なので先にレビューを見るのはオススメしません。

ネタバレありレビューと思って、映画鑑賞後にご一読くださいませ。 



1:意外に剛腕だった新作

『トラップ』見てきました。

リアリティーそっちのけで俳優の演技力と演出の巧さだけで105分を飽きさせずに駆け抜けてみせた、シャマランの腕力が感じられる面白い一本でした。


正直、いわゆるツッコミどころを挙げたらキリがない作品だとは思います。

とにかくFBIの作戦は正気の沙汰とは思えません。

え?その程度のヒントだけで犯人を捜すの?誤認逮捕しすぎだろ!とか色々思うところはあるのですが、それでもなんだかんだ面白く見れてしまうからシャマラン映画はたまらんなあと改めて思いました。


2:映画の根源的な面白さの追究

 今回の『トラップ』は久々に原作のないオリジナル脚本ですが、前々作の『オールド』とも共通する本質的な映画の面白さの追究、もっと言えばヒッチコック的スリラーのシャマラン流アレンジをお披露目する「シャマランの映画論的映画」の系譜にある作品だと思います。

『オールド』ではビーチを舞台のように見立て、人間の一生を自由自在に操れる時間芸術こそが映画であり、観客はそれを覗き見している存在、そして映画監督はそれを記録している存在だとわざわざシャマラン本人が『裏窓』のジェームズ・ステュアートのオマージュをして提示していました。

ヒッチコックの傑作『裏窓』より

本作『トラップ』は感情移入しがたい人物をあえて主人公に置いたクセのある設定ではありますが、「逃走と追跡」という古典的な映画構造を前半と後半に分け、1粒で2度楽しめるエンタメに徹しています。前半と後半で映画のトーンが変わることもあり、確かな演技力のある人物が主人公を演じないとこの映画の面白さはまったく成立しないのですが、今回クーパーを演じたジョシュ・ハートネットは見事な仕事をこなしたと思います。

本作最大の功労者ジョシュ・ハートネット
娘ライリーを演じたアリエル・ドノヒューも良かった

3:「2つの人生を生きる」

クーパーは「家族愛に溢れた優しい父親」と「残忍な殺人鬼」の二面性を持っているのですが、シャマランの過去作『スプリット』のアイツのように人格が変わるスイッチのON/OFFがある雰囲気ではなく「2つの人生を生きている」という感覚の持ち主なのが実はこの映画のキーポイントだと思います。

『スプリット』のアイツ(ジェームズ・マカヴォイ)

俳優たちは当然ながら俳優本人の人生とはまったく無関係のキャラクターになりきって演技をするわけですが、そのとき俳優は「2つの人生を生きている」と言えます。

本作では、従業員たちは「いつも通りの従業員」を演じているし、クーパーが変装して従業員を演じるくだりがあるし、実際にシンガー・ソングライターとして活動する娘さんに架空のポップスターを演じさせているし、シャマランは本作で「映画における演技の面白さ」の追究がやりたかったのではないかと思っています。

だからこそ、うまくいっているかは若干あやしいところはあるものの、本作最大の「トラップ」がある人物の「演技」だったことは必然的な着地といえるのではないでしょうか。


4:やっぱり顔を出すシャマラニズム

どうしてクーパーはずっと上半身裸なんだろうという疑問や、レディ・レイブンとコラボしているアーティストたちの絶妙なリアリティーとか、どこで笑わそうとしているのかなんなのかよくわからん部分も含めてやっぱりシャマラン映画でした。良かったです!


※あとがき※

メールには書かなかったのですが、やたらと俳優を真正面から捉えるカットが多いのも印象的でしたね。これも俳優にフォーカスを当てる狙いでは?と思っています。

それにしても相変わらずギャグセンスとかが独特ですよね……笑

ライリーがクラスメートと不仲で親同士で喧嘩してるってくだりとか、コラボミュージシャンが床から登場した場面で「ねえ?この下に潜り込んで見ようぜ!」とクーパーが娘に提案したら「は?なんで?」ってなるくだりとか……笑


てか採用されてましたねぇ……わーい。

ただこれ、愚痴でもなんでもないんですが、過去も採用されたときに何故か宇多丸さんから褒め方向なのにダメ出しされることがチョイチョイあります(笑)

そうなのか、上半身裸なのは返り血対策だったのか。シリアルキラーへの知識が無いことが露呈してしまいました。精進します。


ネタバレを段階的に解除していく親切設計の宇多丸さん評はこちら。

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