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漫画感想・『透明と残像』ジャンプ+より ーその手を離さないでー

※画像はジャンプ+ 足丘乱魚作 『透明と残像』より

 漫画アプリに掲載される読み切り漫画って、なかなかクオリティが高くて、これは! って思う良い作品も多いんですが、いかんせん漫画感想もひとつの記事にすると意外に執筆に時間が掛かるもんで、しかも批評的な内容にはそれなりに責任をもって真摯に作品と向かい合わなければいけないこともあり、適当な事は書けません。なので、ジャンプ+やマガジンポケットで発表されてる読み切り漫画には毎日のように唸らされつつ、あーこれネタに一本記事を書こうかな、でも時間相当掛かっちゃうから、残念だけどやめとくか的な結果になる事が多いのですが、今回は書きます! なぜなら太宰がネタにされてるから!!


 今回紹介する作品はジャンプ+に掲載された読み切り作品『透明と残像』。作者は足丘乱魚さんという方で、これまでにマガポケで『ふたり。』、ジャンプ+で『こよりの帰り道』という作品を発表しています。少なくともこの名義では、この読み切り3作しか発表されてないみたいです。どれも無料で読むことができるので、まずは読んでみてください。どの作品にも死の匂いが漂っていて、ぶっちゃけていうと今回の『透明と残像』はキャラクター名が太宰関連で一貫しているので、そこがまず気になって内容はそこまであまり入って来なかったのですが、前2作品の方がわかりやすいインパクトはあります。『ふたり。』は、父親から虐待されてるいじめられっこの少女尾崎と、家庭内で両親の喧嘩が絶えないぼっち少女の吉岡の二人の少女の殺人逃避行のロードムービー的ストーリー。どこか突き放した最終1ページは旧エヴァ劇場版のラストシーンを思い出しました。作中で尾崎の母親は入水自殺しているのですが、2作目の『こよりの帰り道』でも、こよりの母は亡くなってしまう。(作中は「病気で」としか説明されていないが、もしかしたら、、、)3作品の中では、『こよりの帰り道』がおそらく評価がもっとも高く、比較的わかりやすい感動を得られる作品です。「赤い糸」という、古来からある逸話のように謎の糸が体から出てきた主人公のこより。糸がどこに繋がっているのか探し求める旅が始まるのですが、その終着地点で明かされる意外な事実とは、、、! という話。


 今回メインで紹介する3作目『透明と残像』は、前2作より絵柄が洗練され、シンプルになりつつもどこか危うい空気感は健在。映画的な演出も多く、さらっと読み飛ばすと気付かないような伏線も。主人公は、津島ショウコという、似顔絵描きで生計を立てている少女。とはいえ、彼女の似顔絵なかなり独特で、まともに売れているとは言い難い。今日も、お客さんから「これのどこが私なんだ!?」と激怒されてしまう。そんな彼女の前に、大庭(おおば)という包帯グルグル巻きのHUNTER×HUNTERのボノレノフさんみたいな男が現れる。大庭は、ショウコに自分の絵を描いてもらいたいという。大庭は包帯を取り始める、なんと彼は本物の透明人間だというのだ!! といった感じで物語が始まるのですが、津島、大庭と出た時点で勘の良い方ならわかると思いますが、主人公津島ショウコの名前は太宰治の本名、津島修治から。透明人間の大庭は、太宰治の代表作『人間失格』の主人公、大庭葉蔵からです。人間失格の主人公も作中で絵を描いていて、漫画家として生計を立てていくことになるのですが、この作品の主人公ショウコは売れない似顔絵描きで今後どうやって生計を立てていくのかというと、なんと偶然にも彼女の絵を売れっ子画家の井伏さんが見つけ、彼女の絵を井伏氏の個展で紹介してくれる事になるのですが、、、思いもよらない悲劇がショウコを襲うのです。この先の物語は、是非とも皆様ご自身で読んで確かめてください!! 

 なお、井伏さんといえば、太宰治の師匠である作家、井伏鱒二が元ネタですね。また、作中後半で失意の底にあるショウコに、とある言葉を投げかけてくれる人物には山崎という名前が! 太宰と心中した愛人の山崎富栄が由来ですね。

 掲載されたジャンプ+のコメント欄では、今作の評価は賛否両論といった感じです。太宰ネタが使われているだけあって、今作は読者に純文学のような読解力を求める難解さがあります。透明人間が比喩的な意味ではなく、そのまんま透明人間な事についても、「見えない×見えない」をやりたかったのはわかるが、別のやり方があったのではないかという思いも正直、あります。今作は何度か繰り返して読むことを推奨します。ショウコの手について注目しましょう。ひとりで強かに生きていた彼女が、本当は他者との繋がりを強く求めていた事がわかります。クライマックス見開きに描かれた絵をよく見てみましょう。また、彼女が子供時代に母親に見せた絵はどんなものだったかを。たとえ見えなくても、彼女はその手につかみ取る事ができたのだった。どうか、その繋いだ手を離さないで、いつまでもそのままで。そう願わざるを得ないラストでした。


 おまけの雑感。途中の、延々続くとあるシーンは、やはりHUNTER×HUNTERの蟻編を参考にしたのかなあと思いました。蟻も出てくるし。冨樫と太宰が好きなんて、同志として応援せざるを得ないじゃないかあ! 明確な作家性を持っているという意味で、小説家的な作家さんとも感じました。前2作品と合わせて読むことを強くおすすめします。最新作は、ジャンプ+の方向性に合った絵柄になっていて、作家さんの勤勉な姿勢がうかがえます。今作のラストには、海が描かれてるのですが、元ネタの太宰が入水自殺経験者、また過去作でも入水自殺を扱ってるだけに不穏な空気が、、、 作者さん、私はあなたの次回作を楽しみに待ってるんで、素晴らしい作品を描いてくださいね! 私も創作頑張ります!

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