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雑文・三島 新潮2025年2月号三島特集について


 文芸誌は毎月、結構買ってます。その中でも純文学系文芸誌と呼ばれる『文學界』『新潮』『群像』『すばる』は毎月購入しています。(もちろん季刊誌の『文藝』も発売したら購入してます。)
 最近、『文學界』と『文藝』は電子版に切り替えました。かれこれ10年以上は毎月律儀に純文学文芸誌を購入していますが、特に文句も言わず購読している読者の私に出版社はなんかくれないでしょうかと思う次第です。純文学文芸誌って、そう売れるもんでもないんで表紙や誌面のデザインも極めてシンプルだったりするんですが、さすがにここ数年で各誌リニューアルを機に表紙や誌面デザインを一新していますね。元々斬新だったり若い書き手を積極的に採用していた『文藝』は、一時期のおっさんくさいシンプルなデザインから一転して派手なデザインにリニューアルしました。『群像』は良い感じにシンプルなデザインから、シンプルすぎてジジむさいデザインになり、総ページ数の増えたリニューアル後は、デザインがオシャンティーな感じになりました。ページ数が増えたぶん、紙質が悪くなったのは残念。『すばる』はリニューアル前がこれ以上ないくらいシンプルなデザインだったのですが、現行デザインも地味です。文芸誌の中ではいちばん奥ゆかしいイメージがありますが、紙質はいちばん良い気がします。『文學界』は長年、文豪のイラストの表紙が続いていましたが、遂に最近リニューアル。レトロ感あるロゴのシンプルな表紙デザインに、誌面デザインもリニューアル前から品の良さを感じるもので好きです。『新潮』、私が購読した頃からシンプルなデザインが延々と続いてきましたが、遂に2025年度からリニューアルしました。そこまで大胆に変わったわけではないんですが、フォントがシャープな感じになり、デザイン性が増しました。

 長々と表紙や誌面デザインについて語ってきましたが、本題は今月の『新潮』、生誕100周年を迎えた三島由紀夫特集なのでした。新潮社では、芥川賞の新潮社版ともいえる新人賞の三島由紀夫賞を主催しています。というわけで独占的に三島特集が誌面を飾るわけです。私はといえば、太宰、漱石、谷崎の文章は好きなんですけど、三島の人工的な文章はいまいちピンと来ず、エッセイとかの軽妙な文章はやはり上手いなと思うのですが、そこそこ代表作品などを集めたにも関わらず、深く読み込んだことは無いのですね。もうすぐ青空文庫入りするぞ!入ったら気軽に読めるぜ!と思ってたら、著作権が50年から70年に延長されたのは残念でした。そんなわけで熱心な三島ファンではないんですが、今回の『新潮』の三島特集は今、楽しく読まさせてもらってます。特別企画のひとつめ、三島由紀夫への手紙という企画。三島の作品『金閣寺』を下敷きにした作品『東京都同情塔』で芥川賞を受賞した九段理江さんの三島への手紙が、やはり突出していると思いました。芥川賞受賞時に『文學界』に掲載された受賞記念エッセイもブッ飛んでましたが、今回の文章も凄い。とにかく全文読んでほしいんですが、一部引用すると『あなたを敬愛する男性作家からの熱烈な手紙が並んでいる誌面は、まるで楯の会の集合写真みたいにあなたを満足させることでしょう』みたいな愉快なフレーズを見たとき、私は正直笑ってしまいました。三島への手紙を書いてくださいという依頼で、タイトルは『私へ』、書き出しは「三度断りました。」。九段さんの文章は、太宰の『女生徒』をモチーフにした作品を書いてるからか、太宰的なユーモアも持ち合わせてるんですよね。この独特なセンス、今の純文学界ではやはり希少だと思うんで、ゆっくり次回作を執筆していただきたいですね。
 もうひとつの特別企画は、「三島由紀夫の文章」という企画で、文学界中心の各著名人に三島作品から、お気に入りの一文を選んでもらい、それにまつわるコメントを寄せてもらうというもの。なぜか俳優の東出昌大さんもコメントを! なんでと思ったら三島のファンかつ、三島関係の舞台や映画に出演されていたのだった。それに、私が映画館までわざわざ観に行ったものの微妙な評価だった実写版デスノートの続編映画での東出さんの役名が三島だった! あれ松田が死んだりして原作ファンからは評判悪かったですが、私は結構好きでした。新人の頃の菅田将暉さんが出てたりしましたね、後に大活躍されるだけあって、やはり演技は上手かったなあ。
 他には、アナウンサーの宇垣美里さんなんかも寄稿しておられる。三島の文章を評して、『その幾重にもデザインを施し磨きあげられた江戸切子を見るような繊細かつ美麗な文体にうっとりすると共に、濃密に重ねられる比喩表現に圧倒され、なによりあまりにも鋭い"美"への眼差しにひれ伏してしまいそうになるのだ。』と書きながら、選んだ一文はそんな文章ではなく女性キャラクターの台詞から選ぶ流れ、この優等生的感溢れるコメントよ! あの美貌に、破滅に突き進む女性に憧れを抱いちゃいます的なコメント! (一個前の雑文でネタにしましたが)こいつはなかなか魔性の女ですよ! 旦那!(こんなこと書いてるが、宇垣さんについては詳しくは知らないんで許してください)
 他にも、色々見所はありますが、石原慎太郎との関係について触れた山田詠美さんのコメントは、なかなか興味深かった。若き日の三島と石原慎太郎は仲良かったんですよね。慎太郎の激しいツッコミにも、笑って応えるような良好な関係だった。文壇から距離を置き、政治家として活躍する慎太郎に、もう間もなく自決するという三島がいちゃもんをつけるが、逆に慎太郎が、三島の危うさを指摘する。政治活動を主軸に置きつつ、小説も晩年まで書き続けた慎太郎はかつての友である三島をどう思っていたのか、、、
 今ではそれぞれ文学の人、政治の人、としてのイメージが付いた2人だけど、大文学者でありながら政治的な方面に舵を取り自決した三島。『太陽の季節』で芥川賞を受賞し、文学界に衝撃を与えるも後年は都知事としての印象が強く、文学的には語る者が少なくなった慎太郎。慎太郎は政治家としてよりも、作家としてもっと評価されたかったのではないだろうか。色々、考えてしまいますね。今では、天国で三島と慎太郎、仲良くやってるとよいなあ。

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