【エッセイ】親知らず、3本目いっとく?

歯が痛い。
2023年12月初めの事でした。
昼食中、左奥歯で食べ物を噛むとピリッとした痛みが走りました。おそらく左下奥歯から3番目の歯が痛い。
仕事帰りにかかりつけの歯科へ当日予約をしました。空きがあったようですぐに診察、レントゲン。
内装は古く、レントゲンも小さな板みたいなのを口に含み写す、今思い起こせばレトロなもの。その道何10年も歯科を営んでいるお爺さん医師のもとで3ヶ月毎の定期検診を長く受けていました。

「虫歯はひとつも見つからないから、噛み合わせかな? ちょっと削ってみるね」

器具が少し削るだけで飛び上がるほどの痛み!
「我慢してねー」
予想だにしない頭を突き抜ける痛みにあぶら汗が吹き出します。治療は15分きっかりで終わりました。
「そんなに削っていないのに大げさだねー。まだ痛いようなら来週来てください」

もちろん翌週も行きました。痛みがひどくなった気がします(怖くて左奥歯で噛むのを避けていました)
医師曰く、原因不明、おそらく歯の見えない所にひびが入っている。来週、神経を取りましょう。と提案されその日は薬を塗られ帰されました。やはり15分。

不信感をもった私はネットの口コミを調べ別の歯科を探しました。
評判も良く、最新の設備が揃い、スタッフも多い新しい歯医者を見つけ、即ネット予約しました。しかし1週間後しか空きはありませんでした。

その間に鈍痛は悪化していき、顎がぽっこり腫れ、口を開けるのも痛みでできなくなりました。箸でご飯が食べれず、薄いスプーンしか前歯を通らないのです。(もちろん硬い食べ物は食べられません)
夜間に痛みのピークが来るので何度も深夜に目を覚まし、ロキソニンを飲む毎日でした。

待ちに待った診療日、物腰柔らかな先生にモゴモゴと症状を伝えると、すぐにレントゲン室へ案内されました。
重いチョッキみたいなのを着せられ、目の前にある機械から飛び出たプラスチックを前歯で挟み、輪っかのような機械が私の頭の周りを旋回します。
すぐにレントゲン結果が医師のiPadに写され、原因も判明しました。
左奥の下歯茎に埋没した親知らずが隣の歯を押し込んでいました。それが周囲の歯に影響して健康な歯に痛みを与えているそうです。
厄介なことに、その親知らずは顔の神経と重なっているため、大学病院の口腔外科でしか手術できないとの事。
すぐに紹介状を書いてもらい、週末には大学病院へ向かいました。平日しか診療していない為、仕事は休まざるを得ませんでした。

口腔外科ではたくさんの書類の記入を求められ、特に『抜歯時、神経を傷つける可能性があります。その際、あごの周囲に麻痺が残る場合があります』には署名をためらいました。
その後、簡単な診察とCT検査があり、親知らずによるあごの重度の炎症もわかり、手術の日程の段階でまたもや私は悲観に暮れます。
ことごとく予約が入っており、年明けの2週目しか空いていなかったのです。
2024年が始まってもこの痛みと付き合うのか、と憂鬱になりました。いつになったらまともなご飯を食べられるのだろうか。
抗生物質3日分と痛み止めを大量にもらい帰路につきました。

抗生物質が効いたのか、あごの痛みは軽くなり、顔の腫れもほぼ治りました。

待ちに待った手術当日、怖さ半分、痛みから解放されたい気持ち半分です。
最初に血圧を測ったのですが緊張からか、140を超えていた覚えがあります。

いざ抜歯! 麻酔が効けば痛みはないと聞かされていましたが「腫れがまだ残っていたので麻酔は効きづらいかもしれない」と告げられます。そうなったら2回に分けて抜歯しましょうとの事でした。
もう、怖いことばっか! 勘弁して!
そんな事を考えながらも麻酔はしっかり効いてくれました。
手術時間は30分くらいだった気がします。
あれ? もう終わったの? 
縫合もいつの間にか終わっていて、予想外にあっさりでした。
1週間後に抜糸の予約をします。

止血の為にガーゼを強く噛み、抗生物質と痛み止めをもらい会計して帰宅しました。

帰宅後、ゆっくりやって来る鈍痛。
医師からは「3日間くらいは腫れと痛みと発熱があります」と伝えられていたのですぐに薬を飲んで安静にしていました。
言われた通り、再び腫れ、熱を出しました。

抜歯後、絶対にやってはいけない事があります。飲酒、喫煙、入浴は血行の問題なのでわかるのですが、辛いのは歯磨き、強いうがいができなかった事です。

抜いた歯の穴に血液が固まり、血餅というプルプルした膜ができます。それが歯磨きやうがいで剥がれるとドライソケットという症状が起こり、骨が剥き出しになります。
そうなると常に激痛に苛まれるそうです。
それを避ける為、歯磨きは歯磨き粉をつけず反対側のみ磨き、水を少量含んでゆっくり吐き出す事しかできません。
口の中は血生臭く、とても気持ち悪い日々が続きました。
口が開かなくなってから食事はずっとお粥とウィダーインゼリーを約1ヶ月続けていました。治ったら絶対焼肉を食べると決めました。

その後、無事に抜糸も終わり、麻痺も残らず、今年2月に入る頃には食べたいものを食べられるようになりました。
経過も良好で、1年くらいで抜いた穴も塞がるそうです。

安心した日々を過ごしていた今年10月。
歯磨き終えた後、右上奥歯にささくれのようなものがあるのを舌が見つけました。
何か挟まってるのかな? と舌でいじっていたらベリっと取れました。
手のひらに乗せてみると大きな白い固形物。
もしやと思い、舌で同じ場所を確認すると奥歯が割れていました。

悪夢が蘇ります。寝る前の夜です。
すぐに大学病院を紹介してくださった歯科にネット予約をいれ、偶然次の日に診察してもらえました。

診察後、物腰柔らかな医師は「親知らずですね。抜く以外方法はないです」とおっしゃいました。
また2ヶ月近くあの生活になるのか、と絶望しましたが、続く言葉は「この歯は真っ直ぐ生えてるので簡単に抜けますよ」とおっしゃり、その日に10分もかからず抜歯しました。縫合の必要もなく、出血も控えめでした。
「前回のは相当大変だったでしょう。今回のは少し腫れるかもしれませんが、すぐ治りますよ」
とは言っても前回同様、歯磨き、うがい、血餅に気を使い、10日間はお粥、ウィダーインゼリー生活でしたが。

そして昨日、11月某日、口内の歯石除去をしていただいた後、恐ろしい言葉を受けます。
「左上の親知らずだけ虫歯になりかけてます。近いうちに割れると思いますが、どうしますか?」

1年のうちに3本の親知らずを抜くのか。ちょっと続きすぎじゃね?
迷った挙句、「来年でもいいですか?」と言うと、医師は笑って「まだ痛くならないだろうし、いつでもいいですよ」と言ってくださいました。

たかが歯、1本痛くなるだけで、日常生活にかなりの不便をきたしました。
食べたい物を食べれず体重も体力もかなり落ち、ストレスは計り知れなかったです。
通院の為に仕事も何日か休んでしまいましたしね。
私の考えとしてはやはり、比較的新しい設備の整った歯科に行くのをお勧めします。

昔ながらのやり方の町医者にも、もちろん名医はおられると思いますが、やはりデータや数値を可視化してくれ、麻酔の段階から気を使っていただける今の歯科には感謝しかありません。

歯石除去は丁寧に1時間もかけてくれ、診察だけでも30分以上詳しく説明してくださります。
歯間ブラシの使い方もレクチャーしていただきました。
支払う金額は以前の歯科より多少安くなっています。

もしも、今まで通っている歯科の診察に疑問を持たれた場合は、セカンドオピニオン的に別の歯医者さんを試してみるのもありですね。事前に聞けばおおよその金額も教えてくれます。

今の私は恐れる事なく肉や野菜を噛み締められています。
私が通っているような歯科が増えれば、70歳や80歳になっても自分の歯で食事ができる人がもっと増えるんだろうな。
そう思います。

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