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旅#12 ガイドに無いイタリア

過去にイタリア旅の事を数回書いているが、振り返ってみて一番楽しかったのは寄り道やらネットに情報がほぼ無い田舎の村。田舎といっても都市部から1・2時間ちょっと車を走らせたら『秘境的』な村につけるのがイタリアの醍醐味。プラン通りにいかない、思いがけない歴史・文化に遭遇する、底なしに深い人情に触れ合える。

今回お伝えしたい旅話は過去にもお話しした回の少し深掘り。

秋のナポリに、仕事で出張に行く事になったがせっかくのイタリアを仕事だけで終わらせるのは非常に勿体無い。そういうことで東の方に一時間ほど走った所にあるイルピーニャ地方に週末遊びに行った。ワインの名産地であること以外何も日本人には知られていない地方です。わざわざ行く人なんか聞いた事ない。

その中でもモンテマラーノの村という所に宿をとった。イタリア人の同僚数人にこのことを伝えるも『お前なんでまたそんなとこに行くんだ』と好奇の目で見られる。


睨んでくる猫、法王の元避暑地のガンドルフォ城にて


宿は某サイトで予約して当日までの間に宿主とは英語でやりとりをしていたのだが現地に着くなり怪しい兆候が。宿主のおじさんが英語を喋ってくれない、いやこの人は喋れない!

これまで連絡してたの誰だよ、と気になるのだがもう一人お友達のおじさんが同行していたので、このおじさんが通訳してくれるのかと思いきや、この人もイタリア語の嵐(ホント、何しに来たんだよこの人)。後で知ったのだが友達のおじさんはたまたまバーで一緒に飲んでいて面白そうだからついてきたと。

でも良いのです、とても優しくてお茶目な方達です。久しぶりにこんな心が温まる良い人に出会いました。英語を喋れる事を前提にする僕たちの奢りですので。

カンパニア州のモンテマラーノ村(Montemarano)には他の地方にはない謝肉祭の祝い方があるのだが村人はこの伝統をとても大切にしているしここに来なかったら知り得なかった素敵なこと

おじさま達の説明では村で英語が喋れるのはセニョーラマリア。バーを経営しているマダム。困ったことがあればこの人に相談すること!街で唯一、日曜日に開いてエスプレッソを出しているお店でもあり、翌朝に来店することに。セニョーラマリアは南アフリカに長く住んでいたらしく、とても流暢な英語で敬愛溢れる様に話かけてくれた。彼女の作るエスプレッソもそんな彼女に似て優しい味がしたのを今でも思い出す。そんな感じにくつろいでいる僕たちを物珍しい目で常連客が見ていたのも印象的だった。排他的なそれではなく、喋りかけたいけれど何を言えばいいのかがわからない、痒いところに届きそうで届かない、そんな空気が流れていた。

山、葡萄畑、村、一つ一つの村には違う文化があって違う誇りがある

村を降りた中規模の街のスーパーで干し肉のお買い物に行ったのですがここも英語が通じませんでした。こいつら言葉通じねぇよで終わるのではなくしっかり助けてくれようとするのがイタリア田舎のお決まりのパターン。

裏から、俺に任せろと言わんばかりのお茶目で大柄な20歳くらいのお兄さんが出てきたが、彼とも意思疎通を取れずじまい。事態は収拾がつかずに同僚が喋れるからと次から次へと、シフト入っている人全員かと思うくらい精肉部門のスタッフが出てきてしまいました(結局誰も喋れませんでした)。さらに上司を呼ぶだのと大ごとに。どれが地元で作られたのか聞きたかっただけです、ごめんなさい。

こんな英語が通じないと連呼して嫌味を言っているわけではなく、何を強調したいかというと言語が通じない相手に親身になって助けようとする他愛に溢れた人が沢山いたと言う事、そう皆んな素敵なのだ。イタリア語を喋れない僕たちのせいなのです。


ローマ時代の遺物が生活の一部


魅力は他にもある、もちろん食べ物。フラッと寄った肉屋で購入したパンチェッタが異常に美味しい。そして肉屋のおじさんとおばさんはその事を誇りに思っていた、「僕たちが作ったのだから」と。結局は人情にコロッといってしまう。

そんなパンチェッタはトマトソースと一緒にパスタに和えたらもうご馳走になる。他の野菜やら肉の品質が恐ろしく高い。それにワイン、旅をしていない最高の状態で現地の郷土料理を楽しむ事は、どの高級レストランでも表現できない「味」だった。これは「僕たちのワインだよ」と紹介してくれた白ワインのフィアーノ・ディアヴェッリーノにタウラージ・アリアニコを飲むたびにこの旅の記憶が蘇る。


友人のそばを離れたくない犬


イタリアの田舎の村には一つ一つにこの様なストーリーがあり、ネットやガイドブックなんかにはまず載っていない。そもそも体験なんていうものは頭で事前に理解するものでもない。

最終日の村を出る朝、セニョーラマリアの作るエスプレッソを楽しんでいると彼女がふと言う「聞きたかったのだけど、なんでこの村を訪れてくれたの?」。僕たちは返信に苦しみ、返したのが「理由は特にないよ、強いて言えばお気に入りのワイナリーに近かったからかな」。「そう、でもこんな田舎に来てくれて嬉しい、また会いましょうね。エスプレッソはウチでもつからナポリへの道がら気をつけるのよ」と彼女は僕たちを送り出してくれた。

#忘れられない旅

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