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想像したことって本当に起こるのだろうか。

ふと、自分のことを考える。
気づけば36歳になってしまった。
しまった?って言うのもなんか変な感じがする。

なんだかどうしてもおかしく感じて、仕事を辞めた。

この違和感はなんなんだろうってずっと考えてた。

36歳って言うのに何かが引っかかる。

それで思い出した。

大学生の時、しきりに考えて、そうして友人たちにも言っていた
自分の言葉。

大学で文学を専攻したってのもあって、
当時は中原中也、アルチュール・ランボー、太宰治なんかに傾倒していた。

作家、演劇人になりたくて、卒業制作として一人芝居を作った。
その時の自分で書いて、自分で言った台詞を思い出す。

「中也は30で、ランボーは37で死んだ。僕はそれを超えて生きる意味がわからない。その先に何が待っていると言うのだろうか」

というものだ。
ずっと忘れていたが、僕は30歳になる時に演劇を離れて就職した。
それで違和感を感じて退職する。37歳になる手前で。

よく、思考は現実化するって自己啓発系の本で見る。
読んでいるときは、ああ、そうなんだ。せっかくなら良いことを考えよう、イメージしようくらいに思って終わっていた。

でも、本当なのかもしれない。
気づいた時、ハッとした。
15、6年前に書いた言葉が今の僕を作っている気がしてならない。
ああ、それでその後はなんと書いていたのだろう?
気になって、クローゼットの奥にしまってあった箱を取り出した。
埃をかぶっているメモリースティックをパソコンにさす。


(舞台中央にマネキンが立っている。その首のロープが結んであって、その片方は下手の役者の首に繋がれている)

 いや、待たせちゃって、本当にごめん。君も座って。本当に最近寒いよね。春が来る前って寒くなるんだよな。僕らが喧嘩したのって、ちょうどこの冬が始まることだったよね。あの時、お前俺に話す暇なんて与えないでさ。一人で話を進めちゃって困ったよ。まあ、おかげでお前の気持ちわかったけどさ。さて、今日は俺が話す番だな。いやとても嬉しいよ。常々話したいと思っていたんだ。
お前さ、何が好きなんだっけ。ああ、アップルパイだったな。シナモンたっぷりのな。それがあれば満足かい?他には何もいらない?俺がアップルパイを好きかどうかなんてどうでもいいんだよ。とるに足らないことさ。それよりも問題なのは君がアップルパイだけあれば満足かどうかなんだよ。もし、満足するのなら話は終わりだ。だから、満足しないと仮定しよう。もし満足しないとしたら、そのアップルパイでは決して満たされない部分を他の何かで埋め合わせないといけなくなる。もちろんそれは、アップルパイの量を多くすれば済む話じゃない。君はそれを何で埋め合わせる?その話をしたいんだ。
つまり、君のことをもっと知りたいってことさ。
君は本が好きだったね。ランボウや中原中也の詩を、一人でいるときについつい口に出るのは、彼らの言葉なのを知っている。詩とは不思議なものだね。先人たちの感じた寂しさを言葉を媒介として、己の寂しさと同一化する。
ぽっかり空いた、僕の宇宙。天才たちの残した魂の言葉。
だけど満たされない。痛みを和らげてくれる代わりに、時間がないことを思い出させる。
急がなくちゃ、急がなくちゃ!誰かに追われる夢を見た時に感じるあの緊迫感。
夢は覚めれば終わりだが、これはそれと違う。一時間に数回、心臓がドキリとして目の焦点が定まらなくて、呼吸が浅くなる。もう他のことは考えられなくて、捨ててしまいたい!つまり詩によって意識したことになる。
さて、それを満たすのは何だろうか?それを探す旅に出るかい?NY、ロンドン、パリ、東京。どこだって構わない。旅は終わらないんだから。いっそのこと月にでも言ってしまおうか。僕らはまだ火星や木星の春がどんなだか知らないもの。きっと僕らの知らない時間が流れているんだろうなあ。ああ、そうしたらこの悩みも消える。ねえ、そうだろう?僕らは蝶になって月の上をひらひら飛び交うんだよ。
つまり、言い換えるなら・・・。言い換えるなら・・・。

やっぱりいけないことなんだ。口に出してしまったら、この世界は崩れてく。ああ、他に言いようがないものか。僕はアップルパイでは満たされない。何が必要か気づいてしまったんだ。同じようになればいいのに。彼もそれに気づいてしまえばいいのに。
実のところ時間がないんだ。僕は知っているの。彼が心から欲していること。死ぬことだよ。そう、彼は死が全てを満たしてくれるって考えている。間違っているよね?

アルチュール・ランボーは21で詩を捨てて37で死に、中原中也は30でこの世を去る。彼は言うんだ。
俺は何歳まで生きる?ランボウが書かなくなった年をとうに超え、中也が生きた年までもう少し。俺は中也をこえて生きたいとは思わない。その先に何があるという?

彼はその考えに囚われて離れない。でも僕は彼を救ってあげられない。その先に何があるのか、僕らに何が必要なのか知っていても、教えてあげられないんだ。ああ、だってそのまま言葉にしても伝わないもの。それのためには言葉は足りず、僕は不器用すぎる。

うん、でもさ。なんていうかな。君と話をすることはとっても幸せだよ。君は本当にポーカーフェイスだね。はじまった時から顔色ひとつ変わらない。心の中では何か考えているんだろう?僕なんかにはわからない何か素敵なことをさ。
はやく春が来ないかな。ほら、あそこの通りなんか桜が咲いたらきれいだよ。月に桜は咲くのかな。一体何色に見えるんだろう。ここと同じように花は散ってしまうのかな。言い換えれば・・・。
火星の桜は茶色で、木星の桜は黄色。月の桜はいろんな星の桜の影を咲かせるのかな。影の花を僕らは求めているのかもしれないね。ねえ、月に行こうよ。言い換えるなら・・・。言い換えるなら・・・。

ああ、誰が知っていようか。空に浮かぶ月は映し絵だと。淡い光に包まれて、ほわりと浮かぶあの月は。
ああ、誰が見たというのか。生きる月を。ゆらゆら漂い、瞬きを忘れない。生きる月を!
言葉にしたら死んでしまう。声なんて枯れてしまえばいいのに。どちらにしろ僕は言うことはできないんだから。
言葉にならなかった言葉が真実。
声にならなかった声だけが語る。
僕はいつも彼と一緒。

なんで僕らは会えないんだろう。一緒にいるのに。声が届いているのは知っている。僕だって、君の話を聞いてたもの。それでも同時に目覚めることはない。夜と朝の、全てが交差する間。まばたきの一瞬を盗んで君に触れる。それは永遠に、時計に閉じ込める。幾億もの砂の粒。ほら、君が見たがっていた、時のかたまり。
・・・君に会いたい。君の声が聞きたいよ。こんなにも近くにいるのに、こんなにも君を知っているのに。ああ、でもこうして月へ行く話をしている。叶わないって知っているけど、君と一緒に何処かへ行こうと思うことだけで満たされる。話をしながら待っているよ。僕が眠りについて、君が目覚めるのを。そっと、ここに座って待っているよ。言い換えるなら・・・。別の言葉で言うのなら・・・。

君が作った月のオアシス。それは砂漠だった。
あるのは何かに見立てたオモチャばかり。なんの導もないけれど、
蝶は飛んでいるのです。月の反射をその体に浴びて、
蝶は飛んでいるのです。
静かな静かな宵の中、ひっそり囁きながら、影に沈む君を探します。
きっと見つけてあげるから!きっとその手にとまるから!
気まぐれ太陽、風を起こし、ひらひら蝶を弄ぶ。
ちょっぴり冷たいキャンディバーの、
タワーに羽があたっても、蝶は探しているのです。
鳥も花もいない中。薄い体に力を込めて。
優しく砂をみつめます。
きっと見つけてあげるから!きっとその手にとまるから!
眠りを待つ子どもが問う。これは誰の夢?
これは蝶の夢。
蝶になれなかった蛹の夢。

(Fly me to the moonが流れる)


昔、これを書いた僕は何を感じて書いていたのだろう。
その答えに、今の僕はなっているのだろうか。
これから先は語られていない。
僕はやっとモラトリアムから抜け出して
生きていくのだろうか。
ちょっぴりの不安と、大きな喜びを持って
進んでいこう、と思います。

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