見出し画像

日本再生:第2章 生きるために必要な創造力 2.1.生きるとは創造することである



第2章 生きるために必要な創造力


「真の自己」に目覚めた人間は、生きるために何をすればよいのでしょうか?「真の自己」を生きるとは、具体的にどのような生き方(生きる仕方)を指すのでしょうか?わたしたちにとって生きることが最も重要なことであるならば、その具体的な方法や存在様式を知る必要があります。

その答えの一端は、川喜多二郎が提唱した「生きるとは創造することである」という命題の中にあります(参考文献:河喜多二郎『パーティー学 人の創造性を開発する法』(現代教養文庫 495)、1964年、p.91)。この命題は、本書第1章の問いである「いかに生きるべきか」に答えるための重要な第一歩であり、さらなる前進への鍵となります。


それでは次に、生きるために欠かせない「創造力」の意義について、具体的に考察していきましょう。

2.1. 生きるとは創造することである


人間にとって創造力は、極めて重要な能力です。なぜなら、創造力を活用することで、人間は変化する環境に自らの世界観と行動パターンを適応させ、生き残ってきたからです。

人間とは何か、生命とは何か?


人間とは何でしょうか?これまで「道具を創る動物」「言葉を使う動物」「社会的(ポリス的)動物」など、さまざまな表現で特徴づけられてきました。それぞれ人間の本質を捉えていますが、一番初めに語られたのは「道具を創る動物」という特徴です。そして、より普遍的な表現で人間をせ詰めするならば、「人間の特徴は創造することである」と言えるでしょう。

人間にとって、創造することは生き残ることと直結していました。長い人類の歴史の中で、創造力は環境の変化に適応し、問題を解決するための最も重要な能力だったのです。このため、人間は誰もが創造力という潜在能力を持って生れてきます。そして、その潜在能力を活かして、日々新たに直面する課題を解決し、生き残り続けてきたのです。

生きるためには創造力が必要だ!


人間は、太古の昔から創造力を駆使して生き抜いてきました。かつては道具や武器を作り、集団で狩りを行ったり、他の集団と戦ったりしていました。現代では、科学技術や組織改革を通じて高度な社会システムを構築し、長い時間をかけて地球上で生き残ってきたのです。

変化する環境に適応するためには、創造力が必要不可欠でした。人類が今日まで生き残れたのは、まさに人間の創造力の賜物なのです。

人間が生き残るためには、新しい環境に適応し、問題解決のために新しい行動を取る能力が進化の過程で求められてきました。そのような適応行動を可能にするのが、創造力という能力です。創造力は、人間が絶え間なく直面する課題を克服し、進化の道を歩むための原動力だったのです。

未知の状況に適応する創造力 が「心」の進化をもたらした


人間の創造力は、「未知の状況」において自律的で予想外の行動として発現します。そのような未知なる環境への適応行動を可能にする創造力は、脳の高度な機能によって支えられています。

想定外の状況に対応する能力を発達させた脳を通じて、人間を含む生物には「心」が創発したと考えられています。森山徹は『ダンコムシに心はあるか』の中で、「心」とは「内なるわたし」であり、未知の状況で発現される「予想外の行動」は、この「内なるわたし」である「心」によって自律的に選択され、自発的に現れると述べています。

つまり、森山徹によればば、「未知の状況」における「予想外の行動の発現」、すなわち生き残るために不可欠な創造力は、「隠れた脳の活動としての心の働きの現前」であると言えるのです。(参考文献:森山徹、『ダンゴムシに心はあるか』、PHPサイエンスワールド新書、2011)


さらに、創造力を可能にする「心」すなわち「内なるわたし」には、進化の過程で、情緒(feeling)として感じる直感能力が備わり、そこからさらに意識活動、言語能力、そして考える能力へと発達してきたと考えられます。これらすべての能力は、想定外の状況に適応するための「心」の拡張機能として進化してきたのです。

************************
注:現在無料公開中です!この機会に是非お楽しみください!
この記事は缶コーヒー代の100円に設定しています。
ご購入頂ければ、執筆を継続する励みになります。
料金は研究に必要な資料購入に使用させてもらいます。
是非、応援よろしくお願いします。💖
************************


創造力とは何か


それでは、創造力とは一体何でしょうか?その具体的な内容とはどのようなものでしょうか?創造力とは、さまざまなものを新しく組み合わせる能力のことを指します。具体的には、既存のアイデアを新しく組み合わせたり、古いアイデアを新しい視点から見直したりすることです。

人間の脳は常に自動的に新しいニューロンの結びつきを生み出しています。既存のニューロンが新しく生成されたニューロンと結合し、新たなネットワークを形成するプロセスが繰り返されているのです。この脳機能の特性から生まれる創造的な活動が、創造力の本質と言えるでしょう。つまり、創造力とは人間の心にとってとても自然な活動なのです。

イノベーションとは、既存の要素やアイデアの「新しい組み合わせ」によって生まれます。個人の中でさまざまなアイデアや知識が新しく結びつくことで、イノベーションが創造されるのです。それまでバラバラに存在していた要素を結合し、統合することで新たな創造が生まれるのです。

創造的な行為の必要条件


川喜田二郎は、先に紹介した著書『パーティー学』の中で、創造的な行為の必要条件として、次の三つを挙げています。

  1. 自発的な行為であること
    自律性の条件を満たし、自分自身の内的な意思から行動が生まれること。

  2. モデルがないこと(前例がないこと)
    新しい発見や発明であり、これまでに存在しなかった方法やアイデアを見つけ出すこと。

  3. お遊びではないこと
    生きるために必要な切実な行為であり、真剣勝負であること。

これを言い換えると、創造性とは、自発的かつ自律的に、新しい方法を発見・発明し、アイデアを組み合わせることで、生きるために真剣に取り組む姿勢そのものを意味します。

このように考えると、創造性は「しかたある」という生きる姿勢(行動パターン)そのものを指すのではないかと気づくはずです。つまり、生きることと創造することは同値、すなわち同じ意味を持つと言えるのではないでしょうか。もしそうであるならば、「生きることは創造することである」という命題が成り立つと同時に、「創造することは生きることである」という命題もまた成立するのです。

そして、創造することが生きることを意味するのであれば、「しかたある」人生こそが健全な生き方であり、すなわち善い人生を自己実現へと導くものだという結論に達します。

「学習」とは創造行為です


学習は創造行為の一種です。「学習」とは、学び、身に付けること、すなわち得た知識や技能を実際に自分のものとすることを意味します。ただ知識を記憶するだけでは、それが実生活や行動に活かされなければ、「学習」とは呼べません。単に知識を増やすだけで、自分の生き方や人生に変化をもたらさない場合、それは「勉強」にとどまります。

一方で、学習は知識を身に付けることで自分を成長させます。このため、学習とは自己創造の過程そのものであると言えるでしょう。学習を通じて、人は自らを新しく創造し、自分の存在の仕方をより良い方向へと変えることが可能になるのです。

「勉強」とは勤勉を強いること


「勉強」とは、受験や学校での成績向上を目的とした行為であり、勤勉を強いられることがその中心にあります。試験や受験のためにテクニックを詰め込む行為が主で、勉強が直接的に生き方を良い方向へ変えるとは限りません。

さらに場合によっては、勉強が悪い方向へ作用することもあります。例えば、親の期待に応えるための承認欲求を満たす目的で「偽りの自己」を生きるために勉強するケースがそれに当たります。この場合、「良い学校、良い大学、良い会社、良い出世街道」といった外的な目標を追求することが優先され、内面的な成長や自己実現が置き去りにされてしまいます。

「やりがい」を感じるのは「勉強」ではなく「学習」


「勉強」と「学習」のどちらに、より大きな遣り甲斐(やりがい)を感じるでしょうか?「勉強」は勤勉と強制を意味し、「学習」は自律と成長を意味します。やりがいを感じるのは、創造と結びついている「学習」であり、「勉強」ではありません。

「勉強」は、他の多くの文化遺伝子と同様に、社会秩序を維持するための手段にすぎません。「勉強」の成果に基づいて行われるランク付けは、個人に社会での自分の立場を確認させる役割を果たします。このようにして、外発的な圧力やランク付けによる内面化されたプレッシャーを通じて、社会秩序が維持される仕組みとなっています。

一方で、「学習」の目的は、人として成長し、「真の自己」を実現して生きることにあります。学習を通じて得られる「やりがい」は、自己成長の実感や新たな可能性の発見に根ざしています。

人間は「学習」を通じて成長する


人間の成長において、「学習」の核心は「フィードバック・メカニズム」にあると考えられます。日々の経験を通じたフィードバックを受け取り、新しい知識やスキルを学び、適応することで、それを自己の成長に結びつけていく過程こそが、学習の本質です。このプロセスを通じて、人間は自己を更新し続け、新たな可能性を切り開いていきます。

学習は連続的なプロセスです。今日の経験から何かを学び、その知見をもとに明日新たな行動を起こします。そして、明日の行動が新しい経験を生み出し、その経験を通じて得た学びが明後日の自分を形成するのです。この繰り返しによって、人間は成長し続けていくのです。

学習とは単に知識を得ることではありません。それは経験を通じて自らを新たに創り出し、成長し続けるための過程なのです。この学びと成長のサイクルこそが、人間を進化させ、豊かな人生をもたらす鍵と言えるでしょう。

人間の成長は「科学的発見の論理」と同じ


人間の学習過程は、科学的発見のプロセスと多くの共通点を持っています。(参考文献:Karl Popper, The Logic of Scientific Discovery (Routledge Classics) , Routledge, 2002)

(参考文献: カール・ポパー(著)、大内儀一(翻訳)、森博(翻訳)、『科学的発見の論理 (上&下)』 、 ‎ 恒星社厚生閣、1971年)


科学的発見と学習を通じた人間の成長には、未知を探索し、知識を深化させるという本質的な共通点が存在します。以下に、両者の類似性を具体的に説明します。

1. 問題意識からの出発

科学的発見は、疑問や問題を解決しようとするところから始まります。「なぜこうなるのか」「どうしてこれが起こるのか」と問いを立て、それに答える仮説を構築します。同様に、人間の学習も疑問や必要性からスタートします。たとえば、新しいスキルを身につけたい、課題を克服したいという動機が成長のきっかけとなります。

2. 仮説と試行錯誤

科学は、仮説を立て、それを検証する実験や観察を行います。その過程で誤りを見つけ、修正を繰り返すことが新しい知識や発見につながります。人間の学習も同様に、挑戦と失敗を繰り返しながら進みます。スポーツや楽器の練習などでは、間違いを重ねながら少しずつ上達していきます。

3. 既存知識の活用と統合

科学的発見は、既存の理論や知識を基盤にして行われます。アインシュタインの相対性理論がニュートン力学を基礎にしつつその限界を超えたように、人間の学習も過去の知識や経験を応用し、新たな理解やスキルを生み出します。この既存知識の統合と発展は、成長の重要な要素です。

4. 予期せぬ発見と創造性

科学は計画的に進むこともありますが、偶然の発見や予期しなかった結果が進歩をもたらすことがあります。たとえば、ペニシリンの発見は偶然の産物でした。人間の成長も同様で、予期せぬ出来事や偶然の経験から多くを学びます。新しい人との出会いや困難の克服が学びと成長のきっかけとなることが多いのです。

5. 批判的検証と反省

科学の進歩は、結果を批判的に評価し、再現性を確かめることで成り立ちます。他者からの批判や自己反省が欠かせません。人間の成長も、自分の行動や結果を振り返り、他者のフィードバックを受け入れることで促進されます。この批判的検証と反省が成長の原動力となります。

6. プロセスの継続性と未完性

科学には終わりがありません。一つの答えが新たな疑問を生み、未知の領域の探索が続きます。人間の成長も同様で、学び続けることが必要です。新しい挑戦が次々と現れ、それを通じて人生を通じた成長が続きます。

まとめると、科学的発見と人間の学習・成長は、未知への挑戦、試行錯誤、既存知識の活用、偶然の発見、批判的検証、そして継続性という共通の要素を持っています。これらのプロセスを理解することで、学習や成長に対する取り組み方をより深く捉えることができるでしょう。科学が進化をもたらすように、学習は人間に自己実現の道を開く鍵となるのです。

創造力を通じた個人の成長には喜びの感情が伴う


科学的発見のプロセスと人間の成長過程の類似性は、未知への探求心、試行錯誤を通じた学び、既存の知識の活用、偶然の発見、批判的な反省、そして継続的な進歩にあります。どちらも、固定的なゴールではなく、常に進化し続ける過程に本質的な価値があります。この視点から、科学の発展も個人の成長も、同じメカニズムに基づいて進展していると考えられます。

科学的発見に不可欠な創造性は、人間の成長にも重要な役割を果たします。「学習」を通じて創造力を発揮する過程では、自然に「やりがい」という喜びの感情が伴います。これは、生存に必要な能力が発揮される行為には喜びを伴うように進化してきたという進化論的な視点から見ると、極めて自然なことです。生命はその適応能力を最大限に引き出すために、必要な行動に喜びの感情を結びつけてきたのです。

結論として、人間は学習を通じて創造力を発揮し、その結果としてやりがいや喜びを感じるように進化してきたと考えられます。この進化的メカニズムこそが、創造力と個人の成長を結びつける鍵であり、学びを通じた成長をさらに促進する原動力となっているのです。

注: 下記の記事は自己紹介です。これからもよろしきお願いします。




いいなと思ったら応援しよう!

HS🎈
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!