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42「MとRの物語(Aルート)」第三章 5節 アヅマカガミとアマテラス

やってみなくちゃわからない。
それがNHKの「大科学実験」と、サイコライティング。
結果、予想外の所でアイツが出現。さてさて、どうなるやら?

(目次はこちら)

「MとRの物語(Aルート)」第三章 5節 アヅマカガミとアマテラス

Rは振り返った。
その瞬間Mには、ゆらゆらと左右に身体を揺すりながら、
こちらに近づいてくる、白いワンピースを着た、女性の霊が見えた。
その顔はホラー映画のゾンビのように、不吉でおぞましい。

 R、見えるか? そこにいるぞ!

 どこ? 見えない! 後ろに下がればいいの?

 そうだ、後ろだ。いや、目の前だ。自転車に乗れ。漕いでスピードを上げろ!

 うん。

少女が両手を上げ、Rに掴みかかろうとしたとき、自転車は動き出した。間一髪。

 次の角でいったん止まってくれ。

 うん。

Mは監視の目をRの背後にやり、幽霊の動きを観察している。曲がり角に到達したRも自転車を停め、振り返る。

 なにか、白いものが、もやもやーっと……。近づいてくるね。

 見えるか? それだ。俺にはもっとはっきりと見える。
 なぜ今俺達を……。

 だんだんこっちに来るよ。また逃げる?

 いや……。俺の手持ちの能力を使って、消滅させてしまうのが簡単だ。

 消滅? 成仏じゃなくて?

 ああ。成仏とは別物だ。
 成仏させるためには、今は全く、情報が足りない。
 彼女のこの世への執着を解決してやらないといけないんだ。

 逃げたら、だめなの?

 逃げ切れればいいけどね。
 特に負のエネルギーの強い霊の場合は、
 余裕で関東全域を、その探索の範囲としてカバーする。
 つまりR、お前が東京中どこに逃げても、
 この霊は、こうやってじわじわと近づき、やがてお前に追いつく。
 それが嫌なら、消し去ってしまうしかないな。

 消し去ったら、この霊はどうなるの?

 わからない。
 呼び戻す手段がないこともないが、
 このような霊を呼び戻すとなったら、相当なリスクがある。
 成仏も出来ないし、二度とこの世にも戻れないな。

 そうなの……。だったら断る!!

Rは再び自転車をこぎ進め、また次の角で停めて後ろを振り返った。白い霊は、のた、のた、と、向こうの角で揺らめいている。数人の歩行者と、自転車がその霊とすれ違ったが、特に何も起こらなかった。それを見てMとRは、少しほっとした。

 Mさん、手持ちの能力って、どんなものがあるの?

 そうだな……、お前にすべて教えるのは相当なリスクだから、
 今言えるだけ、伝えておこう。
 まず古くより伝わる魔鏡、「吾妻鏡(アヅマカガミ)」より得た能力。
 それは俺が望む対象を、この世ならぬ異空間に転送する能力だ。
 そこでは時は止まるが、思考することは可能。
 必要ならこの世に、呼び戻すことも可能。

 あずまんがかがみ……、便利だね。

 うん、ただし最悪の場合の、隠し技だ。
 俺はあまり人の運命を変えたくはない。時を止めてしまうなどなおさら。

 うん……。他には?

 相手をオーラで攻撃する能力「クサナギ」。
 負のエネルギーで相手を呪う「将門(マサカド)」
 負のエネルギーを帯びた霊には、マサカドは効かない。
 あとは小腹を満たす能力、「大気津(オオゲツ)」
 これは今すぐには無意味だな。
 あとは……。

究極の技、「アマテラス」。Mはその情報をRに伝えるのを一瞬、躊躇したが、それは一瞬だけのことだった。

 究極の浄化魔法、「アマテラス」。
 オーラで相手の負のエネルギーを中和し、強制的に、昇天させる。
 ただし消費するオーラは、相手の負のエネルギーと比較し数倍。
 しかもオーラを消費しきった場合は、その技を使った者も、
 昇天することになる。

 え?

 アマテラスはアヅマカガミよりも危険な技だ。
 俺はその技を習得するのに、死ぬ思いをしたが、使ったことはあまりない。
 ほとんどアヅマカガミに頼りっぱなした。

 ふうん……。
 じゃあ、アヅマカガミで一回どこかに閉じ込めちゃうのが、
 一番安全で、リスクも少ないんだね。

 そうだ。
 俺の心は、半ばアヅマカガミでの時間稼ぎで決まった。
 RがOKしてくれれば、あの霊を異世界に転送するよ。

霊は、ふら、ふら、とこちらに近づいてくる。逃げるか何とかするか。また決断しないと、そろそろ危険だ。

 だが断る!

Rは再び自転車をこいで、次の角まで走った。通行人たちが、怪訝な顔でRを見ている。

 R、そろそろ決断しないと、注目を集め始めてるぞ。

 うん……。

どうしよう、と考え始めるR。その横に、きき、という音を立てて、1台の自転車が停まった。見ると学生服を着た女子高生、その顔にRは見覚えがあった。小説のことで話しかけてくれた、メガネっ子だった。

「あ……」

「Rさん。私の後について来て。大丈夫、私にはMも、霊も見えているから」

「え!!」

猛スピードで走りだす、メガネっ子の自転車。Rは、躊躇しながらもその後を追って、自転車をこぎ出した。

 Mさん、どういうこと?

 わかったよ。たぶんアイツだ。神だ。俺達は何かルールに抵触したかもな。

 ルール……。バトルのルールね。

 うん。

メガネっ子とR。二人の駆る自転車が、暮れ始めた商店街を、さわやかに疾走した。

<つづく>

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