74「MとRの物語(Aルート)」第五章 6節 冬の記念文集
残念ながら私自身は、文芸部に所属したことはないけど、
所属できてたらよかったなー、うえーい、とか空想しながら執筆。
今回は「マイルストーン(?)」的な役割のシーンなので、
少し短めです。
学校での授業は相変わらず退屈だったけれど、Rはあくびを我慢して、理解しようとがんばった。一時限目が終わった所で、文芸部のメガネっ子がRの机の上に、一冊の本を置いた。白地に金で、「冬の記念文集」と書かれていた。
「え、これって……」
「Rさんの作品も掲載させてもらった部誌。本当は秋に出そうと思ってたんだけど、ちょっと遅れちゃったから、冬の記念文集にしちゃったの」
「そうなんだね。いいタイトルだと思う。ありがとう」
ペラペラ、と数ページめくったRは、驚きの声を上げた。
「これ……、私の書いた小説が、一番最初に!」
「うん、タイトルが冬だからこっちがいいと思って、白い魔女の世界をトップにしたの。この文集を暗示する、いい作品だと思う」
Rはうれしくて泣きそうになった。だが教室で、みんなの前で泣くわけにはいかない。必死で涙をこらえようとするRの表情を見て、メガネっ子がくすっと笑い、続けて言った。
「これで文芸部員としての、思い出が出来たかな? 次は3月までに、卒業記念の文集を作るからまたよろしくね、Rさん」
Rは文集を胸に抱いて席を立ち、ぺこぺこと何度も頭を下げながらお礼を言った。
「こちらこそありがとう。ほんとにありがとう。これからもよろしくね」
メガネっ子は笑顔でお辞儀をして、席に戻って行った。
よかったな、R。
うん……、びっくりだよ。
こんな素敵な文集のトップに掲載なんてされちゃって、
これから注目されちゃわないかな?
大丈夫じゃないかな。
文芸に興味を持つものなんて、人類のほんの一部。
注目されるとしても、そんな一部の人間からだけだろう。
俺もそうだったよ。
俺が学生の頃は大人達から絶賛されていた。
同級生は、なぜお前なんだと、嫉妬していたよ。
ふうん、嫉妬も怖いね。
嫉妬……、それはRがこれまで、誰からも受けたことがない感情だった。感情を押し殺し、石のようにすごしてきた高校生活。そのため誰も、Rに興味を持たず、Rは、誰の攻撃対象にもならず、過ごしてこられたのかもしれない。こんな不幸な私に嫉妬する人なんて、いるのかな? そんな感情を向けられた私は、どう感じるのかな? と、Rは少し暗い気持ちになりかけたが、胸に抱いていた文集の表紙を再び見つめて、うっとりとなった。
でも嫉妬されるようになったら一人前、だね。
その通りだ。
二時限目開始の予鈴が鳴った。Rは白い文集をリュックにそっとしまった。これは私の、三つ目の宝物だ、とRは思った。