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57「MとRの物語(Aルート)」第四章 1節 文芸部

新章突入。でも、いうほど新展開でもない。
なぜならこれは、純文学だから。
でもこの後、2節、3節あたりでは、エンタメ風のシーンとなる予定。
そこで多くの真事実が判明する、ことになるはず……。

(目次はこちら)


「豊饒の海・第三巻 暁の寺」を読了したRは、白いカバーをかけた第四巻をカバンに入れ、学校へ向かった。教室に入り、席についてそのページを開くと、すぐに文芸部のメガネっ子が近づいて来て、Rに言った。

「Rさん、三巻読み終えたんだね! しかもこんなに早く! すごいね!」
「えへへ。三巻はシンプルだし、いいアドバイザーもいるからね」
「アドバイザー?」
「うん」
「それって、もしかして文芸部の男子?」
「え、違うよ」
「そう……。それも気になるけど、ちょっと相談があるの」

相談? Rはちらっと、正面の壁の時計を見た。予鈴まであと10分。

「大丈夫、要件は簡単に伝えるから。ちょっとね、相談があってね、今日のお昼休み、お弁当をもって屋上に来てもらえる? 一緒に昼食を食べながら、相談したいことがあるの」

「お弁当? 私お昼はいつもセブン(ピーーー)で買ったおにぎり2個を食べてるんだけど……」

「うん、それならおにぎりを持って、お昼休みに屋上に。いい?」

「うん、わかったよ!」

Rは右手の親指を、メガネっ子に向けて、強く突き出した。メガネっ子はくすっと笑い、よろしくね、と言って去って行った。RはMに言った。

 なんだろうね相談って……。

 まあ、……これまでの流れから考えれば、文芸部への勧誘だろうが……。
 なぜわざわざ屋上でなのかは気になるな。

 うん……。あ、それより今は四巻だね。

 いや……。四巻に興味を持ってくれるのはうれしいけど、
 そろそろRも、将来について考えないとね。
 就職か、進学か、それとも別の道を進むのか。
 四巻と同じくらい、そういう自分の未来にも、注意を払って欲しいな。

 Mさん……、それ、もしかしてお母さんに頼まれていってる?

Rは心の中でMに接触を試み、その真意を探ろうとした。

 い、いや、Rの母親に頼まれてたのは事実だけど、
 俺もそう思ってる。Rの人生は、Rが決めないといけないからね。

 うん、それはそうだね、わかった、考えてみるよ。

色々Mと話をしているうちに、予鈴が鳴った。Rはふう、とため息をついて、本を閉じ、カバンにしまった。

 午前中の授業が終わり、お昼休みになった。

「じゃあ、先に行ってるね」、メガネっ子が弁当と思われる、小さな水色の手提げを持って、Rに手を振り、教室を出て行った。Rはカバンから白く半透明なコンビニの袋を取り出し、屋上に向かう。途中、階段の横の自動販売機でホットのお茶を買い、コンビニ袋に入れた。屋上に出ると、ラブラブなアベック(死語)や、男子グループ、女子グループなどが、そこかしこでお弁当をつついていた。「うわあ」、とRは心の中で声をあげた。幼い頃からずっと一人だったRは、そういう雰囲気が大の苦手だったのだ。

「Rさん、こっち!」

日の当たらない隅っこに、メガネっ子と、図書館の男子が立っていた。

「ごめんね、こんな場所しか取れなくて」メガネっ子が頭をかきながら言った。
「しょうがないよ、俺達ここに来るのなんて初めてだし」図書館の男子だ。
「ちょっと狭いけど、ここで。ホントにごめんね」

ひゅう、と通り過ぎる風が少し寒い。Rはおにぎりをほおばり、お茶をぐび、と飲んで、はあぁ、と息を吐いた。

「お前、おいしそうにお茶飲むんだな」男子が笑った。
「そう? まあ、おいしいけど」Rが答えた。

「Rさん、相談なんだけどね、この人からあなたの書いた小説を見せてもらったの。内容についての好みは、読む人それぞれなんだけど、私はRさんの書いた小説を、面白いと思ったし、よくできてると思って、それでね、秋の文芸部発行の部誌に、Rさんの作品を掲載したいと思ってるんだけど、どう?」

Rは一瞬、冷や汗をかきそうになったが、かろうじてそれをごまかした。

「え? 部誌って、文芸部の人しか駄目なんじゃないの? それに、ページ数も限られてるでしょ? 駄目だよ。私より文芸部の人の作品を、のっけてあげなよ」

「大丈夫。秋の部誌は、芸術の秋に発刊する特大号だから、ページ数にもかなり余裕があるし、むしろ、持込みの原稿が足りなくて、困っているくらい。だからよかったら、Rさんの作品もぜひって、お願いしたいの」

「ふうーん、そうなんだ……」

 Mさん、どうしよう?

 この少年に渡した小説というと、確か「リバティー・リーブス」だったな。
 Rさえよければ俺は構わないよ。あれはRの作品だと思ってるから。

おにぎりを、追加で2くち3くちほおばって、Rは答えた。

「うん……。OKだよ」

「ありがとう!! こういう乾いた感じのショートショート、私大好きなの!」

「だよね、そう思ってたよ俺は」

「あの……、これを書いた後、もう一作品書いたんだけど……、それも見てもらってもいいかな?」

「ほう、新作か」

「うん、見てみたいな」

「確か、教室のカバンに入ってるはずだから、あとで教室に帰れば見れるよ」

「じゃあ、昼食が終わったら見に行ってみる?」

「うん、見たい見たい!」

3人は、お喋りしながらゆっくり昼食を食べた後、Rとメガネっ子の教室に向かった。

「あった! でもクシャクシャ……」
「読めれば大丈夫、読ませてね」
「うん」

小説のタイトルは、「白い魔女の世界」。まだ見ぬ、あの世の「女神」を空想して書いた作品だ。今書いたらきっとこういう作品にはならないかもしれない、とRは思う。空想の中の女神と、実際の女神は、それほどかけ離れていたから。

「ちょっと短めだけど、私は大好き。これも使わせてもらっていい?」
「うん! ページが空いてたら穴埋めに使って」

メガネっ子はそのあと、Rを文芸部に誘った。「部長もあなたに、文芸部に入って欲しがってるから」、とメガネっ子は言った。「部長?」Rが首をかしげると、図書館の男子が、Rに向かって開いた手を差し出して言った。「そう、俺が文芸部の部長だ。今からだと半年もいっしょにいられないかもしれないし、就職活動やあれこれで、難しい事はいっぱいあるかもしれないけど、俺達はRと、一緒に文芸部の活動をしてみたい。俺達と一緒に、いい思い出を作ろう!」

部長、という肩書がつくと、頼りないと思っていたこの男子にも、ちょっとした貫禄がついたように、Rには思えた。考えるまでもない。Rは男子の手を握った。

「うん、よろしく!」

<つづく>

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