46「MとRの物語(Aルート)」第三章 9節 ソファーとAKBとポテトチップス
女神よ女神、なぜ食べる。
ポテチとケーキが、おいしいのか。
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「MとRの物語(Aルート)」第三章 9節 ソファーとAKBとポテトチップス
ぜえ、ぜえ、と、自転車を漕ぐRの息が切れ始めた。
Rちゃん、もういいわ、自転車を停めて。
うん……。
さて、これから私達3人での、脳内会議ね。
いや、まだRは家に帰らないといけないし、その後、家事もある。
会議をやるなら、その後だ。
そう? わかったわ。
女神はあっさりと引き下がった。
じゃあ、帰るね。
ああ。
Rは自転車を、自宅に向けて走らせた。その時、Mが心の中で、大きな声を上げた。
おい、何をやってる!!
え!
Rが驚いて、自転車を停めた。
いや、すまない。Rじゃない、神に言ったんだ。
そ、そう?
再び自転車を進める、R。
Mは暗闇にあぐらを組んで座り、腕組みをして、怖い表情で女神をにらんでいる。女神はMの前で、豪華絢爛な着物という姿のままソファーに寝ころび、テレビを見ている。テーブルと、その上のポテトチップスとコーラ、セクシーな発色のナイトランプ、冷蔵庫とその上に、オーブンレンジ。意外と庶民的な品揃え……。
Mさん、あなたもそんな所に座ってないで、こっちに来て。
ソファーはまだあるわよ。ポテトチップスが嫌なら、ケーキも。
女神は、ショートケーキを取り出しほおばった。テーブルの上のリモコンを取り、テレビのチャンネルを切り替えた、歌番で、AKBが歌っていた。
俺は食べ物からは栄養を取れないから、食べる必要はない。
Rと一緒に、コーヒーを飲むくらいだな。
神にとっては、食事は意味がある行為なのか?
ないわ。あなたと同じ。
でも食べることに意味があるの。女は唇と舌で、感じるの。
あなたにはわからないかもしれないわね。
女神は、ペロっと指についたクリームをなめた。いや、Mにはわからないでもなかった。なぜなら、Mの感情は、今Rという入れ物の、女性脳にしばられて変化しているからだ。
そうだな、ケーキはいいから、ソファーだけ使わせてもらおう。
遠慮しないでも、たくさん出せるのに。
女神が今度は、チョコレートケーキを出して、それにかぶりついた。下品な食べ方だが、エロチックで艶めかしい。
食べるというのは、女に与えられた最高の楽しみの一つ。
それを奪われたら絶望する。女は、食べるために生きているの。
な、なるほど……。
Rは自転車での移動と買い物に集中していて、ふたりの会話は聞いていなかった。駐輪場に自転車をとめ、玄関を抜けてエレベーターに乗る。
着いたようね。
うん、もう少し待っててね。
次は食事の支度だな。
うん。
Mは少し不安になる。夏休みが終わり、Rが本を読む時間も減ってしまった上に、幽霊騒ぎと地獄門騒ぎ。いつになればRは執筆を始められるんだ。いや、あんまり俺が焦っちゃだめだ。あくまでRの意志にまかせないと。それにそもそも、俺と神の今回のバトルの内容は、「豊饒の海」第五巻執筆で、あっているんだろうか。あとでそれについても、聞いてみようか。それともそれこそ、ルール違反かな?
女神は黙って、AKBの曲に聞き入っていた。うっとりとしたようなその瞳。そしてMは、女神のその子供のようにキラキラした瞳を、飽きずに眺め続けた。
<つづく>