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58「MとRの物語(Aルート)」第四章 2節 竜の秘密(1)

昨日の夜書き上げ、即投稿しようとしたんだけれど、
あまりにもとげとげしく感じたために、一晩寝かせてリライト。

(目次はこちら)

授業が終り、自転車で帰宅するR。そこでRが、Mの異変に気付いた。

 Mさん……。どうしたの? 何かピリピリしてるけど。
 何か怒ってるの? 文芸部のこと?

 いや……。大丈夫、文芸部には賛成だよ。
 気になっているのは、この空、この大気だ……。

 空、大気?

Rは堤防の脇の小道で、自転車を止め、空を見上げた。
青く澄んだ空に、細かい雲が、ちぎれそうになりながら、なびいている。
その動きが、少し速いように感じた。

 あ、ピリピリしてるのは、Mさんじゃなくて、
 この空気なんだね。

 ああ、たぶん……。
 何か巨大なものが動いている……、気がするが、
 それが何なのかまでは、俺にもわからない。

 そうなんだ……。

不吉な予感を覚えた二人であったが、その夜は何事もなく過ぎていきつつあった。Rとその母との挨拶を終えたMは、二人が寝たのを確認して、ベランダに出た。巨大な月が美しく輝いている。その月のこちら側を、細い雲が白い生き物のようにうねり、異様な速さで通り過ぎていく。大気の緊張感は、まだ続いている。

その時……。

「M……」

「ああ……」

いつの間にかベランダの向う、地上から数メートルの高さに、女神が浮かんでいた。

「こうやって、夜二人で会うのは、平安のあの頃以来ですね」
「あの井戸でか。そうだったな」

「神よ、この緊張感の原因はお前なのか?」
「ええ……。私が寝た子を起こしてしまったから」
「寝た子、……例の太古の竜か……」
「そう」
「一人で無茶なことをしたもんだな」

ふっと女神は微笑み、ベランダに向かって空中を移動し、Mの隣に立った。巨大な月を眺めながら女神は言う。

「すばらしい月ね。でも実際は、乾いた砂の惑星」

Mは女神をちらっと見た。その言葉の真意を、計り兼ねるように。

「M。私は地下にもぐり、相を移動して、あの竜に会ってきました。その際のビジョンを、あなたに見せることが出来るけど、見たい?」

「ああ、……しかしなぜそう聞くんだ。共闘を誓った今の俺の答えは、見る一択のはずだが?」

「そうね、そうだった」

女神悲しそうに微笑んだ。

「では私が竜と会うまでのビジョンを、あなたに見せてあげます。そこにあなたにとっての、救いがありますように」

女神はMに近づき、Mの額に自らの額を押し当てた。その瞬間、Mの脳裏に怒涛のように女神の記憶、「ビジョン」が流れ込んできた。それは地球の内部に向かって高速に落下する、女神の姿だった。

<つづく>

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