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36「MとRの物語(Aルート)」第二章 13節 父の言葉

乗り越えないといけない悲しみが、人にはある。
その先にはきっと、光が待っている。

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「MとRの物語(Aルート)」第二章 13節 父の言葉

母とMは、椅子に座った。
母親は、ハンドタオルで顔を押さえ、泣きっぱなしだ。
Rは居心地悪そうに、箸を取り上げもぐもぐと食事を続けている。
Rの目にも、涙が浮かんでいる。母親の涙を、見るに堪えないのだ。

 Mさん、お母さんどうしたんだろう。
 なんで泣いてるの?

Rの目からこぼれた涙が、白いご飯の上に、ぽろっと落ちた。

 心配いらない……。
 以前亡くなった、ある人のことを思い出して、泣いてるんだ。
 悲しいんじゃない。うれし涙だ。
 あとで俺は、母親に、ある人の言葉を伝えたいと思う。

 ある人?
 もしかして私のお父さん?

 そうだ……。
 R、お前もいっしょに聞くか?

 うん……。

「お母さん、さっきのRの話には、出てこなかったけど、
 あの世の魂は、すべての記憶を共有しているんだ。
 つまり、あなたの旦那さん、Rの父親の記憶も、俺は持っている。
 彼の最後の思いを、俺なりの言葉であなたに伝えたいんだが、
 いいだろうか?」

顔いっぱいにハンドタオルを押し当てたまま、
こくこく、と母親は頷いた。

Mはゆっくりと、言葉を選びながら、Rの父の最後の思いを語った。
後悔はしている、でも後悔してはいない。
最愛の、妻と娘を守るために死んでいけたことを、
僕は誇りに思っている。これからも二人で、強く生きて欲しい。

母親は、再びこくこく、と頷いた。
Rの眼から、またぽろっと一筋、涙がこぼれた。
Rは椅子から立ち上がり、母親に近づいてその肩を抱いた。
予想外に小さい、母親の肩にRは驚いた。
母の背中に顔をつけて、Rは思った。

 お母さん、ごめんね。大変だったんだね。
 ずっと私を守ってくれて、ありがとう。
 これからは、一緒に生きていこうね。
 私もいるし、Mさんも一緒だよ。
 私が、お母さんを守るからね。

<つづく>

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