
44「MとRの物語(Aルート)」第三章 7節 地獄門
書き上げて一回ボツにしたものを、少し手直しして採用。
いいものに仕上がった、気がします。
悔しいけど、やっぱり推敲って大事なんだなー、と再認識。
(目次はこちら)
「MとRの物語(Aルート)」第三章 7節 地獄門
女神はメガネを光らせ、ニヤリと笑った。彼女が選んだカードは「レッドカード」。それは時を停止させる、チート技だ。このフィールドにおいて女神はいわば「ゲームマスター」。ルールなんていくらでも書き換えることが出来るのだ。「レッドカード」も、今作ったばかりの新カードだ。
なに? 身体が……。
オホホホホw
時を止められてはさすがのMと言えど、何もできまい。
また蛇の快楽で、白目をむかせてやろうか。
メガネっ子の右手に、赤い光がゆらりと走った。その手をゆっくりとあげると、赤い目を光らせた、黒く太い蛇が、その手を伝い、大きな口を開いてMを威嚇した。Rの脳裏に、忘れかけていた強い快楽の記憶が蘇った。それはRの心の闇の自己破壊欲求を、呼び覚ました。
あ、あ、あははははwwww
アハハハハハハハwwwww
おい、R……、しっかりしろ……。
Rの胸元で、何か強い光がはじけるのを女神は見た。
む? なんだこの光は……。
Rの上着の前がはだけ、その中に、赤黒い空間が口を開いていた。そしてそこから赤い強烈な光線が、周囲に照射された。女神は右手からみついていた蛇を消した。だが、Rの胸に開いた亀裂は消えることはなく、どころか、ゆっくりと大きくなっていく。Rはその下腹から、上は左顎までが赤黒く切り裂かれ、そこからギラギラとしたオーラを放っていた。驚いた表情のまま停止したRの顔を、亀裂はゆっくりと、じわりじわりと浸食する。
アハハハハ!! アハハハハハハ!!!
Mよ。Rはどうしたのだ! この裂け目はなんだ!
何か策はないのか。
……。
考えられるのは一つしかない。それは魔界への扉、地獄門だ。だがこんなに簡単に、地獄の門は開くものなのか、とMは戦慄しながら、神に言った。
恐らくこれは、地獄門。神よ、あの技は使えるか?
あの技?
平安時代に、俺が開いた地獄門をお前が封じた技だ!
ああ……、あれか。使える。
メガネっ子は再び手を高く上げた。その指を空に向け、「裏鬼門(うらきもん)!」、と叫んだ。Rの周囲に、稲妻のような青いオーラが現れ、赤黒い亀裂と青い稲妻は、白い火花を散らしながら互いに浸食し合う。亀裂はすでに、Rの左目を引き裂いている。痛みはないようで、Rはまだ心の中で笑い続けていた。
おい、時を進ませてくれないかな。Rを眠らせてみるよ。
ホントだなM。騙(だま)しは無しだぞ?
ああ。
神は「レッドカード」を解除することで、停止していた時を進ませた。同時に、MがRに駆け寄りながら、手持ちのカードの1枚を発動させる。
「八塩折(ヤシオリ)!」
ヤシオリとは遠い遠い時代に、ヤマタノオロチを昏倒させたという強い酒の名称である。その名を持つこの技は、睡眠効果、催眠効果、弱い催淫効果などを与えることが出来る。今Mは、ヤシオリを使って強めの眠りをRに与えた。Rは一瞬にして意識を失い、その場に崩れた。Mはそれをしっかりと抱き止めた。さらに、Rの顔に開いた黒い亀裂に手を近づけたが、そこから漏れるおぞましい気を感じ、慌ててひっこめた。
Rの唇が、ひく、ひく、と歪む。それは苦痛によるものなのか快楽なのか。身体はこわばり、ときおり大きくびくっと痙攣する。
駄目か……、違うのか。この穴は地獄門ではないのか?
メガネっ子がMとRに近寄り、無表情にRを見つめていたが、ほう、とつぶやいて微笑んだ。Rの顔の亀裂が、急速に小さくなり始めたのだ。
やった。消えていくぞ!
MはほっとしてRの頬をなで、強く抱きしめた。Rの亀裂はもう消えていた。
ほほう、ホントに地獄門だったのだな。
そんなものを人間が開くとは……。この娘は一体……。
わからん……。何か俺達の知らない、新しい事象が起こっているようだ。
だが原因はわかっている。 お前がRに与えた快楽が中毒となり、
Rに強いストレスを与えた。それが扉出現のきっかけなのは、間違いない。
もうRの前では、黒蛇は使うな。いいな?
わかった。しょうがないな。
あ、Rちゃんを、眠りから覚ましてあげないと。
メガネっ子はRに向けて手を広げ、その手をさっと払った。Rの体内の穢れを祓い、眠りを誘発する毒を消したのだ。Rが身じろぎをし、目を開いた。
「Mさん……、私……、どうしたの?」
Rは身体をMから離し、起き上がってスカートについた土をはらった。Mも立ちあがり、神社の入口に目をやった。それに気づいた女神は、Mに言った。
あの娘ならもう、図書室に帰したわよ。
帰したって……。あの霊もお前が操っていたのか。
そうよ。おほほほww
まあ、それなら話は早いな。
あの霊を成仏させてやってくれないかな。
このままだとあの霊のせいで、図書室のPCが使えないんだ。
そうなの? どうしようかしら?
再びメガネっ子の眼鏡が、キラ……、と光った。その唇が、妖しく微笑んだ。