エウレカ 私は見つけた 第2話
2 絶景と呼ばれる島
遠くから目を凝らすと、だんだん白い家が、斜面にへばりつくように立っているのが見えてくる。夢にまで見たサントリーニ島までもう少しだ。
船から降りると、人々は、ケーブルカーやロバで一斉に丘の上を目指す。
白いしっくいで塗られた建物。それとは対照的に光るコバルトブルーの海。
ある人は、それを奇跡のように美しいと言う。ロドリゴは、それをきれいだと思うが、生まれた時からずっとここにいて、他の土地を知らない。だから、みんなにとってはため息の出るようなそれらの絶景も、彼には見慣れたいつもの風景に過ぎなかった。
今日も、ロドリゴは、ロバのランドルを引いて家を出た。彼が、自分のロバを久しぶりによく見ると、首が細くなり、毛のつやは光を失ってきている。
時々坂道で重たいお客さんを乗せた時、足がふらつきかける。俺の綱で何とか立て直しをしているが…。『俺もお前もずいぶんこの2 、3年で歳をとったなぁ』
毎日、船着き場で「ドンキー」と声をかけ、お客さんを運ぶ。来る日も来る日も同じことの繰り返しだった。特にここ数年は観光客がほとんど来なくて、収入源が絶たれた。観光面に大きく頼って生活しているため、島の住民たちは途方にくれてしまった。
ロドリゴのところは、庭でいくばくかの野菜を作り、妻のミケーネが刺繍で小物を作って販売した。俺は荷物運びなど、頼まれる仕事は何でも引き受けた。
いつ終わるのかわからない観光の低迷は、もともとあまり開放的でない彼の性格をますます偏屈なものへと変えていった。
今日も、仕事仲間のアントニスが、
「ロドリゴさん、おはよう」何の屈託もなく挨拶をしてきた。その明るさが彼にはまぶしく、同時にまた少しいらっとして、ロドリゴはうなずいたのみだった。
でも、アントニスは、ロドリゴがなんとなくほのめかす距離感に気づかず、話を続けた。
「ロドリゴさんの綱さばきは、名人級ですね。僕に教えてくれませんか?
お客さんをなるべく快適に運びたいので」
それを聞いて、ロドリゴは憤りを感じた。
『どこまで厚かましい奴なんだ。今でもたくさんの人を乗せているのに。あの人なつっこい笑顔で声をかけられたら、お客さんはアントニスのロバを選ぶ。それなのに、俺の技まで聞き出そうとするなんて…なんて厚かましいやつなんだ。
この技は30年の経験でやっと俺が身に付けたもの。そうやすやすと、教えてたまるものか』
今度は、アントニスの問いかけをロドリゴは完全に無視して、そっぽを向いた。