ゆかりさんとバトラー #6 洋服の手直し
初めての洋服補正
今朝もゆかりは、早く起きた。今日と明日はジェームスが来ない日。
だから今まで通り遅くまで寝ていてもいいのに、自然と目が覚めて
しまったのだ。
ゆかりは朝の新鮮な空気を取り入れようと、窓を大きく開いた。
すると、春の清々しい風が部屋の中に流れ込んできた。
ゆかりはこの頃、毎日庭を散歩している。朝の庭は今日も
すがすがしく、少しずつジェームスが手入れをしてくれて
いるので、印象が変わってきた。
今朝はバラの蕾をいくつか見つけた。もう5月の後半だから、
花をつける準備をしているのだろう。
ゆかりのお目当てはバジル。昨日松の実を買ったから、今日は初めて
だけどバジルソースを作ってみようかな。この前のパスタが
おいしかったので、ジェームスに尋ねたら、作り方を教えてくれた。
昨夜、ジェームスのベストをほどいてみようと広げてみたが、夜には、
手元がよく見えなかったので、朝食の後、ゆかりは糸を切ってみた。
すると、ゆかりの予想通り、縫いしろが、十分あることがわかったので、
2センチほど広げられることがわかった。裏地を外し、縫い目をほどいて
みて、ゆかりは、作り手の丁寧さと愛情を感じた。
今は量産される洋服が多く、買うのは手頃になったが、捨てられてしまう
ものが多い。それに比べジェームスのベストは生地もよく、職人の技が
感じられた。
本当は、男性の仕立てたものに私が手を入れると手を入れると、なんとなく
かっちりとした印象がなくなる恐れがあるが、ベストだけなので許して
もらおう。
女性も、男性も体重だけではなく、体型の変化がある。私がジェームスの
ベストの直しをしようかと言うと、彼は恥ずかしそうに
「これから運動して痩せます。自分でもお腹を引っ込めないとと
思っていました」
と言ったが、お腹だけではないではない変化をゆかり自身も感じている。
今まで家のことには無頓着だったが、ジェームスが来て、片付けて
くれるとまだ手をつけてないところが気になってくるから不思議だ。
一部が綺麗だと、外の所が目立つのだ。
この間ランチにジェームスが作ってくれた鶏胸肉のソテーは、
美味しくてびっくりした。
ゆかりが、胸肉を焼くとパサパサになってしまう。だから、あまり好き
ではなかった。
ところが、ジェームスの作り方を見ていると、まず、繊維と逆方向に
斜めに反り切りをして、全部の厚さを統一する。次に薄力粉と塩を
入れたビニール袋に切ったばかりの鶏肉を入れて振る。
最後に油をひいたフライパンに肉を並べるのだが、
冷たいフライパンに油をひき、肉を並べる。
いわゆるコールドスタート。
そのため、肉には均一に火が入る。そして味噌だれ(水、味噌、砂糖、みりん)
を煮立て、肉ととからめ、レタスを入れたらすぐ火を止める。
下ごしらえが丁寧なのに比べて、調理時間が短い。火を長く入れる
ことでいつも肉が硬くなっていたとゆかりは気づいた。
いつもおいしいランチをジェームスが作ってくれる。だが、それは
特別な材料や普段使わない調味料も使っているわけではない。
いつもゆかりが日常的に使っていたものばかり。
ゆかりのこだわりとしては、唯一【出来合いのものは極力使わない】
だから『美味しくなくても仕方がない』と考えていたが、ジェームスの
料理で、それは考え違いだと言うことがわかった。もともとおいしいものが
好きなゆかりは料理に少し興味が出てきた。
お昼にいかとトマトのジェノベーゼを食べ、その後彼女は珍しく自分の
洋服を片付けた。『もう全く着ないものは、処分の部屋に移そう』
いろいろ見ているうちに洋裁を習い始めたときに、縫った綿の
ワンピースが出てきた。
裏地がないから家で着るのには向いている。綿100%といっても、様々な
ものがあるからと母が生地を選んでくれたことを思い出した。
〜モチーフは、パリの街角〜
おしゃれなカフェテラスもある。私はフランスに行った事はないが
きっと素敵なところだろう。
来週ジェームスがアフタヌーンティーを用意してくれるときに、
このワンピースをリメイクして、着てみよう。若い頃はあまり
似合わなかったが、今の私にはちょうどいいかもしれない。