エウレカ カナダに導かれて 第四話
4 イアでの休息
2人にとっては3回目のサントリーニ島。訪れた目的の1つが、
これまで見たことのない景色を時間を気にせず、ゆっくりと見ることだった。
2人が今回泊まったいイアは、新婚旅行の時には夕刻に訪れた。
しかし夕日を眺めた後、すぐフィラに戻ったので、充分その美しさを
堪能できずに終わっていた。また2回目はエマの体力がサントリーニ島に
来るだけでやっとだったので、フィラの町並みをちょっと眺めただけだった。
2回目の旅以降、エマはずいぶん元気になった。お医者さんの話だと
「サントリーニ島にもう一度行きたい。」という一途な気持ちが、彼女の
体力や気力を高めたらしい。
検査の数値だけでは、計り知れないのがが「人の思い」による回復力
かもしれない。
『こうやって眺めの良いレストランの席に座り、時間の経過とともに
刻々と変化する空の色を味わえるのは、なんてぜいたくなことだろう』
魚介の様々なうまみが、じんわりと口に広がるスープを飲みながら、
ヘンリーはそう思った。
彼は、いつも数字ばかりを眺めて、せかせかと仕事をしている。だから、
こんなにゆったりとした時間は、日常では決して味わうことのできない
至福のひとときだった。
エマもオレンジ色からどんどん変化していく夕日の美しさに
息をすることさえ忘れてしまいそうだった。
ヘンリーはエマの体調を気遣い、すべて彼女の歩調に合わせて
くれている。
「でも…」とエマは思う。それではヘンリー自身が、この旅を充分楽しめて
いないことになってしまう。そこでエマは、
「2日目の午後は昼食をとったら、夕方まで別行動をしよう」
とヘンリーに持ちかけた。
2日目のお昼、ヘンリーはワイナリーを訪ねた。サントリーニ島の
固有品種である『アシルティコ』
彼は深みのあるワインをもっと堪能したかったし、勉強している
ギリシャ語がどの程度通じるのかも知りたかったからだ。
一方、ヘンリーと別れたエマは、細い道沿いの土産物や雑貨など、
気になる店をのぞきながら、そぞろ歩きをした。
イアに移動した1日目も店を見て回ったが、ヘンリーが一緒だと
なんとなく時間が気になる。そのため、自分の気が済むまで商品を
手に取って見られなかった。
2人の別行動は良い意味で、興味あることを気ままに楽しむことにつながった。
そして3日目は1度も行ったことのない火山口「ネオカメニ島」へ。
そこでエマは、大地の鼓動をお腹のあたりにズンと感じた。
「私が前より元気になったのも、この土地がもともと持っている
エネルギーを吸収できたからかもしれない」
とエマは、なんとなくそう思った。