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前段『はみだし小刀術』 一振

小文太は大工だった。過去形なのはやめてしまったからである。

彼は元々大工頭の家に生まれた。
15で大工として1人前になったとされるが、仕事の腕は伝わっていない。日記にはハタチで棟梁になったと書かれているが、前後の記述にはこの頃父、祖父が健在であるゆえ書かれた部分があるのでおそらくは見栄っ張りな彼の嘘だろう…。

やたらと大口な日記である。
この界隈で俺ほどモテる奴はいないだの…昨日近くの茶屋で逆ナンされただの…聞いてもないのに書かれている。彼の名誉の為、記録しておくが日記の大半は武術に関する出来事や技のことについて多く書かれている。
時々食べ物のことや参拝したお寺や邂逅したり会ったりした人物など、彼を取り巻く環境や日常についても簡単に書かれている。
雑記帳な日記は3冊雑な綴じ方で残されており、突然始まって突然終わっている。古い大工道具の整理をしようと祖父家の木箱を開けたら、底に隠すように入れてあった。錆び付いたノミやノコギリに巻かれていたページもあった。

雑な性格は先祖譲りであるとするならば、彼の自慢げな雑記帳日記を元に彼の性格や日常を想像を加え、読み解いて見るのも面白いかもしれないと構想した。
ただ私は彼の直系の子孫ではなく、彼の何番目か上の兄の係累である。そのうえ、私の父は大工家の純養子となったので全く血の繋がりはなく、家族的思想のみを祖父から受け継いだだけであることを記しておきたい。なぜなら非常に表現し難い人物であると残された文から、考えるからである。

これをもってこの後の物語の前段とする。


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