「雲の上」
雲の上。僕はそこから地上を眺めていた。変わりゆく街並み。変わりゆく人の生活。それらを見るのが好きだからだ。
僕が地上にいたのはもう何百年も昔になるが、地上の様子は気になるものだ。中でも気になるのは自分の子孫についてだ。
先日。新しい子孫が生まれた。かなり血縁は離れているはずだが、それでも息子の面影を感じる。
「直接、見に行けばいいのに」
ここで出会った友達が絡んできた。
「馬鹿言うなよ。向こう側にも僕らを認識できるやつは何人かいる」
「そっか。そういやお前さんは転生しないの? 徳積みまくったんだから人間確定だろ?」
「でも。転生したらこいつらのこと見れなくなっちまう」
僕にとっての楽しみは地上世界を見ることだ。それ以外、特にない。今、地上に戻りたいとは特に思っていないのだ。
「俺、実はさ。明日、転生するんだ」
友人の告白に思わず、目を見開いた。
「本当か? でもどうして?」
「俺はお前と違って独り身で一生を終えた。徳積みまくったからここにいるんだけどさ。それでもお前さんを見ているとな」
友人が照れ臭そうに人差し指でこめかみを掻いた。
「なあ、やっぱり家族っていいか?」
「おう! 最高だ!」
はっきりと言える。山あり谷ありあったが、あの日々が楽しくないわけがない。
「そっか」
友人が白い歯を見せて、にこやかに笑った。次の日、友人は地上に転生した。
僕は今でも子孫達と友人の行く末を見守っている。