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芽吹くものと枯れて行くもの

2024年大雪
掛け軸: 山雲海月の情が語られ尽くす
花:  まだつぼみの初嵐と 橙に色づいたヤマボウシの葉  その上に ちょこんと顔を出す嵯峨菊

本日の先生のお言葉

芽吹くものと枯れていくもの
今の時期は、こういう取り合わせで活けるらしいのよ


先生は卯年で、御歳84歳。
お耳が明らかに遠くなられ
立ち座りにも苦しそうなご様子
長時間の稽古ではお疲れが見て取れ
指導の場面での物忘れが増えたのは、ここ5年くらいのことだと思う。


それまでは、年齢やボケを自虐的に口にしながらも、茶道に対しては一切妥協することなく、完璧を貫かれていた先生だった。
しかし、ここ数年で少しずつ、少しずつ老いと向き合い、何かを受け入れ、新たな境地に立たれているような 
わずかだが おだやかに 美しい変化をまとわれるようになった。


茶道は一子相伝。
相伝稽古は、師から弟子へ口伝で受け継がれていくものだと、先生はよく口にされる。


20年近く稽古を積んでいる私だが、なかなか上達しない怠け者である。だが、繰り返し先生の言葉に触れ、その教えは徐々に体に染み込んできた。


点前の手順や道具の名前、由緒などは、調べれば書物に記されている
しかし日々の稽古で伝え聞いてきた教えの数々は、ネットで検索しようと、文献に当たろうと、何処にも見つけることが出来ない。
あの季節 あの場面で あの時感じた想いと共に
私自身の言葉で記録しておきたい。
誰かに伝え、つなげていきたいと思うようになった。





子どもの頃通っていたキリスト教の学校では聖書をよく読んだ
聖書ではたいていイエスキリストと弟子が旅をする中で起こった出来事が書かれている
私は当時、物語を読むのが大好きな本の虫だったが
聖書の福音は物語にしては起承転結もなく オチもなく 結論として何が言いたいのかもさっぱり伝わってこない。
これが本当に世界のベストセラー・・・?
と 子供心に不思議に思っていた



時が経ち、今ならわかる 弟子たちの気持ち


もれなく書き記し ただただ伝えたかったのだ
崇高なる我が師の一挙手一投足を。


わかるよヨハネ。そうだよねマタイ。





大河ドラマ『ひかる君へ』で注目を浴びたファーストサマーウイカ演じる清少納言が描いた『枕草子』は、中宮定子への究極の推し活だという解釈を読んで、なるほどなと思ってはいたが
私は推し活というものをしたことがなかったから いまいち腹落ちはしていなかった。



だがその気持ち、今ならわかる。


私の先生への想いも、推し活に近いものがあるのだろう。


先生の素敵さを 皆んなに伝えたい
洒落の真髄を
品格とはなんたるかを


自分のことでもないのに 胸を張って 広めたくなる

嗚呼 この気持ちこそ 推し活かな




芽吹くものと枯れていくもの


二つが対比される時、私はどこか枯れていくものにより美しさを感じてしまう。


稽古を始めて20年近く。
先生の言葉を少しでも多く書き留めたいと思い、ようやく真摯に稽古に向き合おうと腰を上げた私。

遅咲の 芽吹こうとする 初嵐

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