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秋深し…

カウンターに両肘をついて、ぼんやりと画面に映し出される当選結果を見ている70代くらいの女性。
数百枚の宝くじを機械にかけている店員は、待ち時間の間を埋めようと、話しかけてみる。
『たくさん買っていただいて〜ありがとうございます』
『いっぱいあるでしょ〜ごめんね〜』
『いえいえ、とんでもない!ありがとうございます』
『あのねぇ、、私、当たるから』
突如、ドクターXの大門未知子の名ゼリフ。〝私、失敗しないので!!〟ばりに言ってきた。
『えっ?あ、あ〜そうなんですか〜 へぇ〜』
そこへ、同じような年代の女性客がやって来ると大門は、お客さんに向けて、
『ごめんなさいね、いっぱい調べてもらってるから、ちょっと時間かかっちゃうんだけど』
『大丈夫ですよ〜』と後から来たお客さんは、優しくそう言ってくれた。
ホッ。。こんなとき、あからさまに舌打ちをしたり、イライラを隠さない人なんかだと、たちまち空気が悪くなる。優しい人でよかった。
『私当たるの』
何回も宝くじに当たったことがあるというこのお方は、ジャンボシーズンになると、親類や友達に、買ってきて!と頼まれるという。
『最高が、大昔に1億5千万で、それから……』過去の当選金額を教えてくれた。
(そんな人いるんだぁ…)驚くばかりである。
聞いている私は、アホの子のように『へぇ〜、へぇ〜』ばかりを連発していた。
次のお客さんも、いつしか話しに加わって、
『どちらで買うの?』なんて質問している。

3等が当たった!!
『うわぁーーすごい!当たってますよ!』
『ねっ!当たるでしょ。そうなの、私当たるから!今回はたくさんだわ。前回は10万円だったから』
とくに嬉しがるふうもなく、平然と言った。
(大門すごいよぉぉぉ!)
次のお客さんの方が目を丸くして、口に手を当ててフリーズしている。
『あやからせて〜!あやかりた〜い!』私は窓口から手を出して、自分に向けてパタパタ仰いだ。
大門がようやく、クスクスっと笑い出したところで、次のお客さんが
『すごい!握手!握手して!』と言ったので、私も続いて、
『私も〜!私とも握手して〜!』と言って、ガシッと握手してもらった。
清算を終えて、トレーをお客さんの方へ。
私が、『もう一回握手して〜』というと、次のお客さんも
『私も!私も!』2人で2回ずつの握手。
『あったかーい!いやぁ〜ん、あったかい手ですね〜』なんてはしゃぐ私たちに、照れくさそうにしていた大門が行ってしまうと、
『あんな人も世の中にはいるのね〜』
『ほんとに!すごいですよね〜!』

『ではでは、お客様も当たりますように。』
『お姉さんも、当たりますように。』
『ありがとうございます。』
『ありがとうございます。』最後、なぜか二人で頭を深々と下げてお別れをした。

駅の階段で、厚底靴を履いていたお嬢ちゃんがコケた。(そりゃそーでしょ、そんなの履いてスマホ見ながら歩いてたらそうなっちゃうでしょ)少し離れてから振り向くと、お嬢ちゃんは階段にへたりこみ、靴は脱げ、足首を押さえていた。ミニスカートが捲れ、パンツが見えてしまっているのさえ、(あーらら)なんて頭の中で言っていた自分を猛烈に反省する。
駆け寄って、大丈夫ですか?とか言うべきだった?
そんな日頃の行いが大事なのかも!
いゃ、そんなことは関係ないなぁ…当たる人は当たるんでしょ〜
そんなことを思いながら、うどんを啜る。
秋深し…隣の人のうどんが、なにうどんか気になる夜。
あれはなに?あんかけ…?
食欲だけは旺盛なタマミーヌ。
またの名は、モグミーヌ。スマホの中の写真は食べものば〜っかり。



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