フリーランス ―新しい働き方としてのフリーランスの増加とその保護について―
はじめに
2017年に政府より発表された、テレワークや副業・兼業などの柔軟な働き方を目標とする「働き方改革実行計画」以降、コロナウイルスの影響も相まってフリーランスは急増中です。また、厚生労働省の「フリーランス白書2018」によると、日本国内でも労働人口の6分の1がフリーランスとして働いています。
⚪︎フリーランスとは
フリーランスとは、「業務に応じて企業や団体と自由に契約を交わし働く人」を指します。 フリーランスといえば、雑誌・Web・ゲームなどの制作物に携わるクリエイティブ関係が多いイメージですが、美容師・大工・税理士など多様な職種のフリーランスが存在します。フリーランスは、会社員や団体職員のように組織に属さず、独立してさまざまなプロジェクトに関わり、自らが持つ技術を提供しながら働きます。
ただし、組織に雇用されていないため、労働基準法などの労働法規は適用されず、「最低賃金」「労働時間」「休日」「有給休暇」「労働災害での補償」などの規定の対象外です。
⚪︎フリーランスと個人事業主の違い
フリーランスと個人事業主の違いは、開業届を出しているか否かによります。
個人事業主・・・開業届を出している
フリーランス・・開業届を出していない
個人事業主は、自身の事業を法人ではなく個人で行う者とし、税務署に開業届を提出している人のことを指します。
⚪︎フリーランスとフリーターの違い
フリーターとフリーランスの大きな違いは、働き方にあります。フリーターとは、アルバイトやパートタイムで収入を得る人のことです。つまり、正社員以外の雇用形態で企業に所属する方は、フリーターになります。一方、フリーランスとは、企業に属さず個人のスキルや能力で収益を得る人のことです。フリーランスに明確な定義はなく、そのため、個人のスキルを活用して収益を得る方は、フリーランスに該当します。つまり、フリーターとフリーランスの違いは、雇用されて給料をもらっているか、個人で収益を上げているかの違いになります。
フリーランスで働くことのメリット・デメリット
⚪︎メリット
①自由な働き方ができる
フリーランスは組織に所属しないため、働く時間・場所・休日も自分でコントロールできます。また、多くのフリーランスは出勤する必要がなく、場合によっては暮らす場所を自由に選ぶことも可能です。 特にパソコン一台で完結する仕事の場合は、旅先やカフェでも仕事が可能なため、自由度がさらに増します。
②仕事を自由に選ぶことができる
フリーランスは、依頼された仕事をすべて受ける必要はなく、苦手な仕事は断ったり条件を提示したりと仕事を選ぶことが可能です。一方で会社員や団体職員などの場合は、基本的に組織の目標などに沿って上司から指示された仕事をこなします。気が向かない仕事はやらないという選択ができるのは、フリーランスの大きなメリットでしょう。ただし、仕事を選べる状況を手に入れるためには、技術の高さと相当な努力が必要です。
③技術力があれば高い報酬が期待できる
フリーランスは、自分の裁量で仕事量・仕事内容・報酬をコントロールできます。 一般的な会社員のように給与の伸び率や昇給のタイミングが決められていないので、交渉次第では会社員ではもらえないような報酬をもらうことも可能です。自らの技術力が高まるほど他者との差別化が生まれ、高い報酬を得られる可能性が高まります。
⚪︎デメリット
①収入が不安定になる可能性がある
フリーランスは、サラリーマンや公務員などに比べて収入が不安定になりやすい点がデメリットといえます。 フリーランスは雇用されていないため、固定給や最低賃金などは当然なく、自らが請け負った仕事による報酬で生計を立てなければなりません。 また、取引先との契約が長期間続く保証はなく、取引先の方針や都合により契約を打ち切られる可能性もあります。
フリーランスの実態調査によると、「収入が少ない・安定しない」ことが働く上での障壁となっていると回答した方が、約6割にものぼりました。フリーランスは正社員として雇用される場合とは違い、契約が続く限り一定の報酬が得られる固定給のような仕組みはありません。毎月の収入にも差が出てしまうため、生活の安定が担保されているとはいえないでしょう。
②社会的信用を得にくい
フリーランスは法人ではないため社会的信用が低く、望んだ仕事を受けられない場合があります。また、実績がない場合は、金融機関からの融資も受けづらいことが現実です。 さらに、信用度は会社員に比べても劣るため、「クレジットカード」や「住宅ローン」などの各種審査に通りにくい傾向にあります。
③確定申告や各種保険の手続きを自身で行う必要がある
組織で働いている場合、税金や各種保険などの面倒なことは勤務先が処理してくれます。しかし、フリーランスはそれらすべてを自分で行う必要があります。
フリーランス保護に関するガイドラインと法律
フリーランスについては、多様な働き方の拡大、ギグ・エコノミー(インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い、個人で働く就業形態)の拡大による高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などに貢献することが期待されています。
⚪︎フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン
フリーランスに期待が高まる中で、令和2年2月から3月にかけて内閣官房が、関係省庁と連携し、フリーランスの実態を把握するための調査を行いました。その後、調査結果に基づき、政策の方向性について検討がされ、令和3年3月事業者とフリーランスの取引について、独占禁止法や下請法、労働関係法の適用関係を明らかにするとともに、これらの法律に基づく問題行為を明確化するため、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名でガイドラインが作成されました。
⚪︎基本的な考え方
1. フリーランスについて
「フリーランス」とは法令上の用語ではなく、定義は様々であるが、ガイドラインにおける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、 自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指す。
2. 各法律の適用範囲について
独占禁止法は、取引の発注者が事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、事業者とフリーランス全般との取引に適用される。
また、下請法は、取引の発注者が資本金 1,000 万円超の法人の事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用される ことから、一定の事業者とフリーランス全般との取引に適用される。このように、事業者とフリーランス全般との取引には独占禁止法や下請法を広く適用することが可能である。
他方、これらの法律の適用に加えて、フリーランスとして業務を行っていても、実質的に発注事業者の指揮命令を受けて仕事に従事していると判断される場合など、現行法上 「雇用」に該当する場合には、労働関係法令が適用される。この場合において、独占禁止法や下請法上問題となり得る事業者の行為が、労働関係法令で禁止又は義務とされ、あるいは適法なものとして認められている行為類型に該当する場合には、当該労働関係法令が適用され、当該行為については、独占禁止法や下請法上問題としない。
⚪︎フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項
1. 優越的地位の濫用禁止
取り引きの際に発注事業者とフリーランスの間では強者と弱者の関係にあることがあります。その際、優越的な地位にある発注事業者が、その地位を利用してフリーランスに、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることで、公正な競争を阻害する恐れがあります。このような行為は独占禁止法や下請法の規制対象となる場合があります。
2. 発注時の取り引き条件の明確化
発注事業者が、発注条件を明確にする書面を交付しないことは、その時に取り引き条件を明確にすることが困難であるなど、事情がない限りは独占禁止法違反となります。
3. 独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型
1.報酬の支払遅延
2.報酬の減額
3.著しく低い報酬の一方的な決定
4.やり直しの要請
5.一方的な発注取消し
6.役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い
7.役務の成果物の受領拒否
8.役務の成果物の返品
9.不要な商品又は役務の購入・利用強制
10.不当な経済上の利益の提供要請
11.合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務・競業避止義務・専属義務の一方的な設定
12.その他取引条件の一方的な設定・変更・実施
⚪︎仲介事業者が注意すべき事項
発注事業者とフリーランスをマッチングさせる仲介事業者をフリーランスはうまく活用することにより、仕事の機会を獲得、拡大させることができます。しかし、仲介事業者がフリーランスとの取引上優越した地位に立ち、その地位を利用して、フリーランスに対して不利益を与えることも考えられます。
規約の変更による取引条件の一方的な変更も優越的地位の濫用として問題となります。
⚪︎フリーランスへの労働法の適用
フリーランスは見かけ上、雇用関係になくても、労働者性が認められる場合があります。その場合、労働関係法の保護を受けます。
労働基準法において「労働者」にあたるかどうかは以下のような項目を判断し、総合的に判断されます。
1.許諾の自由がないか
2.業務遂行上の指揮監督があるか
3.拘束性があるか
4.「指揮監督下の労働」であるか
5.「使用従属性」が認められるか
です。
以下のような事例に当てはまる人は労働者と言える場合があります。(この場合に当てはまったとしても必ずしも労働者と言えるわけではありません。)
・発注者からの仕事は病気などの特別な理由がないと断れない
・発注者から、通常予定されている仕事の他に、契約や予定にない業務も命令されたり頼まれたりする
・始業や終業の時間が決まっており、始業に遅れると「遅刻」とみなされ報酬が減らされる
・運送経路や方法、出発時間といった、業務の遂行に関することは、全部発注者から指示され、管理されている
・報酬は「時間あたりいくら」で決まっている
・受けた仕事をするのに非常に時間がかかるため、他の発注者の仕事を受ける余裕がない
などです。
このような事例に当てはまり、労働者とみなされる場合は労働基準法が適用されます。
⚪︎フリーランス新法
令和5年4月28日に可決された法律であり、施行は令和6年の秋頃までにされる予定です。フリーランスの取引を適正化し、安定した労働環境を整備するため、事業発注者に業務委託の遵守などを求める法律です。
この法律で保護する対象者は「特定受託事業者」であり、フリーランスです。この「特定受託事業者」とは、①個人であり、従業員を使用しない者②法人であり、代表者以外の役員が存在せず、従業員を使用しない者。①②いずれかに当てはまる者です。
ただし、従業員を雇っている場合でも、短期的かつ一時的な雇用であれば、従業員はいないものとみなされ、「特定受託事業者」となります。
⚪︎内容
取引の適正化
・契約条件を書面またはメールで明記すること
・60日以内に報酬を支払うこと(再委託の場合は支払いを受けた日から30日以内)
・次のような、フリーランスの利益を損なう不当な扱いを禁止すること
1. フリーランス側の責めに帰すべき理由のない成果物の受領拒否
2. フリーランス側の責めに帰すべき理由のない報酬の減額
3. フリーランス側の責めに帰すべき理由のない成果物などの返品
4. 相場に比べて著しく低い報酬の不当な決定
5. 正当な理由のない指定商品の購入または役務の利用の強制
6. 委託する事業者のために、金銭、役務そのほかの経済上の利益の提供を要請すること
7. フリーランス側の責めに帰すべき理由のない給付内容の変更、またはやり直しの要請
就業環境の整備
・広告などで募集する場合には正確かつ最新のものにすること
・育児介護等と両立して業務委託に係る業務を行えるよう、申し出に応じて必要な配慮をすること
・ハラスメント等に係る相談対応等必要な環境を作ること
・契約を中途解除する際には遅くても30日前に事前予告すること
⚪︎違反した場合の対応
公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができます。
その後、命令違反および検査拒否等に対して50万円以下の罰金が特定業務委託事業者に科されます(法人両罰規定)
⚪︎問題点
適用範囲がかなり狭く、独占禁止法や下請法がベースとなっており、経済法の側面を持っています。しかし、労働法と経済法は本来、相反するものです。そのため、今後のフリーランス保護の方向性に関して不安視する声があります。また、政策決定時、三者構成原則に基づき、立場的にフリーランス保護を、諸手を挙げて是としないような利害関係者(大企業の経営者等)を呼んで政策決定されたことを問題視する人もいます。
近年になって、議論されるようになった分野であり、フリーランスの交渉力が弱いなど、問題はいまだ山積みです。フリーランスとしての立場は依然弱く、さらなる環境や法整備が重要だと思います。
クラウドワーカー(例:ウーバーイーツ配達員)としての働き方
コロナ禍の影響もあり、『ウーバーイーツ配達員』のようなインターネット上のプラットフォームを介して業務を受注し、報酬を受け取る「クラウドワーカー」として働くフリーランスが爆発的に増加しています。クラウドワーク、クラウドワーカーとはどのようなものなのでしょうか。
⚪︎クラウドワーク・クラウドワーカーとは
⚪︎クラウドワーク・クラウドワーカーとは
クラウドワークは、下記に示すクラウドソーシングを通じて案件を受注し、その成果に応じて報酬を受け取る働き方のことです。また、そういった働き方をしている人のことをクラウドワーカーと言います。
⚪︎クラウドソーシングとは
クラウドソーシングとは、企業がインターネット上のウェブサイト(プラットフォーム)を使って、不特定多数の外部労働力を外部委託という形で利用することです。
参考として、クラウドソーシングについての総務省の記事をのせておきます。
「クラウドソーシングとは不特定の人(クラウド=群衆)に業務を外部委託(アウトソーシング)するという意味の造語であり、発注者がインターネット上のウェブサイトで受注者を公募し、仕事を発注することができる働き方の仕組みで欧米等を中心に普及が進んでいる。発注者はおもに一般的な企業であり、プラットフォームとなるマッチングサイトにアウトソーシングしたい業務を公募し、受注側は業務内容や得られる収入、求められるスキル等の条件を見ながら、自分が受注したい業務に応募する仕組みが一般的である。発注される業務や成果のやり取り、お互いの連絡等は基本的にインターネット経由で行われるため、受注者側は自分の空いた時間で自宅等にて業務を行う場合も多く、時間や場所に囚われない働き方ができるメリットがある。(総務省の平成26年版 情報通信白書より)」
日本におけるクラウドワークの現状について詳しく知りたい方は中小企業庁「 日本国内におけるクラウドソーシングの現状」をご覧ください。
クラウドワーカー保護に関する労働法上の課題
⚪︎クラウドワーカーとして働くフリーランスを労働法で保護できるか
では、フリーランスを保護するにあたって、労働法で保護することは可能なのでしょうか。我が国のクラウドワーカーの大部分はウーバーイーツ配達員のような就労形態をとっているため、ウーバーイーツ配達員を例にとってその保護に関して考えていきます。現在ウーバーイーツ配達員は東京都労働委員会によって、労働組合法上の労働者とされています。一方で、労働基準法上、労働契約法上の労働者とは認められていません。しかし、「アマゾン配達員として働くフリーランスに労災が認定された」ことを考えると、近い将来認められる可能性は高いといえます。
⚪︎ウーバーイーツ配達員は労動組合法上の労働者
東京都労働委員会は、令和4年11月25日、ウーバーイーツの配達パートナー(配達員)の労組法上の労働者性を認め、日本においてウーバーイーツ事業を運営するウーバー・イーツ・ジャパンと、同社の委託を受けて配達パートナーの登録手続や教育、サポート等の業務を行うウーバー・ジャパンに対し、配達パートナーらが組織するウーバーイーツユニオンが申し入れた団体交渉に誠実に応じること等を命じました。デジタルプラットフォームを通じた新しい働き方の下、プラットフォームを運営する事業者との間で労組法上の労働者性が肯定された初めての事例として注目されます。(引用元:労働開発研究会「ウーバーイーツ配達パートナーの労働法上の労働者性」 五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子)
⚪︎アマゾン配達員として働くフリーランスに労災認定
2023年10月4日に「アマゾン」の配達を行うフリーランスのドライバーが配達中にけがをしたことについて、労働基準監督署から労災として認定されたというネット記事が出ました。(NHK 「アマゾン」配達中にケガ ドライバー労災認定 全国初か)
2022年の9月、配達中に階段で足を滑らし、2メートルほど下の地面に転落して、腰の骨を折るなどのけがを負い、2か月間の自宅療養を余儀なくされました。これについて、男性は労災の申請を行っていましたが、2023年の9月26日に労働基準監督署から労災として認定され、労災保険から50日分の休業補償が給付されることになりました。
労災が認定されるという事実は、同時に労働基準法上の労働者であると認められるという事になります。また、労働基準法上の労働者であれば、最低賃金も補償されるようになります。上記の事例に類似した働き方としてウーバーイーツ配達員が挙げられますが、同様に労災認定され、労働基準法上の労働者と認められる可能性が高いといえるでしょう。
⚪︎ウーバーイーツ(UE)配達員の労働者性検討
ウーバーイーツ(以下UE)配達員は現行法で保護できる可能性があるかもしれません。そこで、UE配達員の労働基準法上の労働者性について考えていきましょう。ここでは、鈴木先生の論文「プラットフォームワーカに対する個別法上の保護」の内容からUE配達員の労働者性を検討します。
※ 以下については、鈴木先生の論文の見解をまとめたものであり、一般的な見解とは必ずしも言えないので、参考程度にご覧ください。
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労基法上の労働者該当性
UE社によると、配達パートナーは「個人事業主」であるとされている。しかし、配達パートナーが、労働法9条にいう「労働者」とされる可能性はかなり高いといえる。労働法9条の労働者にあたるかどうかについて、事実上の実務的基準を提供しているとされる、1985年の労働省労働基準研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」の枠組みをもとに、検討していく。
同報告では、①仕事の依頼への諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督、③時間的・場所的拘束性、④代替性、⑤報酬の算定・支払方法を主要な判断要素としつつ、⑥機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性、⑦専属性などを補足的な判断要素として提唱している。
① 仕事の依頼への諾否の自由の有無について
配達リクエストに必ず応じなければならないわけではない。しかし、応答率が低いとUEパートナーセンターから呼び出しを受けたり、アカウント停止処分を受けたりする可能性がある。また、配達リクエストを承諾するか判断する時間が短いことも「諾否の自由」を制約していると捉えられる。
② 業務遂行上の指揮監督の有無について
配達業務の具体的内容がUEアルゴリズムによって詳細に指示される。業務遂行における配達パートナーの裁量の余地はないため、単なる個人事業主に対する配達業務の依頼の内容を超えた極めて詳細なものであり、指揮監督されているといえる。また、配達パートナーが注文主や飲食店から評価される立場にあり、評価が悪くなると配達リクエストが来なくなること、アプリが利用停止になることがある。これも間接的な業務遂行過程での管理と捉えられる。
③ 時間的・場所的拘束性について
アプリをONにしない限り、時間的・場所的拘束性はない。そしてアプリをONにするかどうかは、配達パートナーの自由である。しかし、配達パートナーが配達リクエストを受けた後は、UEはリアルタイムで配達パートナーの位置とその者への連絡手段を注文主と飲食店に提供していることから、配達パートナーは監視下にあるといえる。そして、配達が予定より遅れた場合、低評価を付けられる可能性があるため、配達リクエストを受けた後の時間的・場所的拘束性は極めて高い。
④ 労務提供の代替性の有無
配達パートナーとして登録する際には、携帯電話番号と運転免許証、マイナンバーカード等のIDカードおよび顔写真が必要となる。そして配達業務中は常に登録された携帯電話を用いて配達を受けることになるため、労務を他人に代替させることは難しく、労務提供の代替性はほぼないと言える。
⑤ 報酬の算定・支払方法
詳細は不明であるが、UEによると、配達にかかった時間と距離を中心に算出されるとある。配達に要した時間も報酬の算定基礎となっているため、単純な成果報酬ではなく、報酬の労務対価性が無いとまでは言えない。
以上を統合すると、現在の実務上の基準に照らしてみると、少なくともアプリをONにしている間は、配達パートナーが労働基準法上の労働者と評価することが可能である。ただし、これはUEに限ったものであるため、他のUber型クラウドワーク全般で労働基準法上の労働者性が肯定されるかはケースバイケースである。
では、アプリをOFFにしている場合の労働者性はどうなっているのだろうか。アプリをOFFにしている間についても、労働契約関係が存続していると考えることはできるのだろうか。結論から言えば、その場合についても、アカウント登録している期間中は、全体として労働契約が存続していると考えるべきである。
アプリをONにする自由、労働時期を決定する自由が完全に配達パートナー側にあるため、アプリをオフにしている間労働契約の存在を認めることができないのでは、という反論が想定されるだろう。しかし、一般の労働契約においても就労の時期は使用者によって一方的に決められているわけではない。アルバイトであれば、たとえば週2日など、あらかじめ労働契約によって枠組みが合意されており、その枠の範囲内で使用者が指揮命令しているに過ぎない。これに照らせば、配達パートナーがアプリをONにしたときにUEによる具体的な指揮命令権が発生することが合意されている労働契約と見ることは十分に可能と思われる。以上より、配達パートナーがアプリをONするかいなかにかかわらず、アカウント登録をしている全期間について、労働契約が存在していると考えるべきである。
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以上が「日本労働法学会誌 2022年5月 『プラットフォームワーカーに対する個別法上の法的保護』」での鈴木先生の見解を簡単にまとめたものになります。省略してしまっている部分も多いので、詳細は論文を読んでみてください。アマゾン配達員が労災認定された件も併せて考えれば、UE配達員が労働基準法上の労働者と認められる可能性は高いといえるでしょう。そして、認められれば、UE配達員が抱えていた、不透明な賃金算定法、突発的なアカウント停止などの問題点が解決することになりそうです。
※参考(労働法の特徴と各労働法における相対的な労働者の定義の違い)
労働法の特徴
労働法は、その適用対象かどうかが、「労働者」と認められるか否かできまる。つまり、「労働者」と認められれば保護が受けられるが、労働者でないと判断されれば、その保護が一切受けられなくなる。1か0かといった二分法的な特徴があります。
各労働法における相対的な労働者の定義の違い
さて、少しややこしいのですが、労働者の概念は各法律によって異なっていて、適用される法規の違いにより、大きく3つに分けられます。労働基準法の「労働者」、労働契約法の「労働者」、労働組合法の「労働者」です。
労働組合法上の労働者であるからといって、労働基準法上の労働者ではないこともよくあります。それは、労働組合法の「労働者」の定義と労働基準法の「労働者」の定義が異なるからです。
労働者性の詳細な判断基準が気になる方は以下をご覧ください。
厚生労働省「労働者について」
厚生労働省 令和4年度労使関係セミナー「労働者概念——労働者性の問題例,その判断ポイント——」
⚪︎クラウドワーカーの保護に関する課題
クラウドワーカーは「労働者」と「非労働者」の中間に位置する就業者と捉えることができます。しかし現在、ほとんどのクラウドワーカーは「非労働者」と判断される状況にあり、労働法の保護を受けることができません。そこで「労働者」と「非労働者」の中間に位置するような就業者を、どうにかして労働法で保護できないかということが、今、活発に議論されています。そして、「UE配達員は労働法で保護できるようになるだろう。」とのことでしたが、その他のUE配達員に類似したクラウドワークが「労働者」認定されるか否かという事はケースバイケースでした。そのような労働者認定されるか曖昧であったり、労働者認定されなかったりするようなクラウドワーカーたちをどう保護していくかという事が課題となっています。
では、今後どのようにクラウドワーカーを保護していくべきなのでしょうか。法整備の方向性が模索されていますが、かなり難航しているようです。クラウドワークは業種によってかなり内容が異なるため、それを統一的に規制するのが非常に難しいようです。
(参考:連合総研レポート 2021年5月号 No.366 DIO 「クラウドワークをめぐる約款的規制の意義と課題」鈴木俊晴)
法整備の方向性
ここからは、今後の法整備の方向性について紹介したいと思います。
その前にここまでの内容を軽くまとめると、2023年4月、フリーランスを対象にした初めての法律である「フリーランス新法」が成立しました。フリーランス新法では、独占禁止法や下請法(いわゆる競争法)で規制されている内容と、労働法的な内容がミックスされています。しかし、新法の内容だけではフリーランスを保護するには不十分という声も多く見られます。
この現状を踏まえて、今後の方向性について3パターンに分けて説明します。
⚪︎フリーランス保護の拡充
まず一つ目は、「フリーランス保護の拡充」です。
プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会が公表している「フリーランス白書 2022」によると、働き方全般に関して7割程度の人が満足と回答しており、保護の必要はないと言えるかもしれません。その一方で、フードデリバリー配達員が不満に思っていることの第1位は「社会的地位」、第2位は「収入」。フリーランス全体だと第1位は「収入」、第2位は「社会的地位」となっています。このように、約3割〜4割の人が収入に対して不満を抱いていることから、解決するべき問題もあることが伺えます。
収入に関して、フリーランス新法では、一定期間以上契約関係が継続している場合に著しく低い報酬額を不当に定めることが禁止されていますが、最低賃金のように具体的な金額では定められていません。そもそも単発契約の場合にはこの規制も適用されません。そのため最低報酬額を定めるべきという意見がありますが、一方で様々な業界の様々な仕事に対して一律に最低報酬額を定めることは現実的ではないという意見もあります。
⚪︎労働者概念の再検討
二つ目は、「労働者概念の再検討」です。
前述の通り、フリーランスは一般的に労働者性が認められませんが、その判断は働き方の実態に基づいて行われます。つまり、業務委託契約を結んでいる場合でも(フリーランスであっても)、働き方の実態から「労働者」であると認められれば、様々な保護を受けることができるのです。労働者であるかの判断は使用従属性(指示を受けながら仕事をしているかなど)によりますが、フリーランスとして働く人が増えてきた現在、フリーランスとしての働き方と既存の労働者概念をどのように折り合わせるかが問題となっています。また、フリーランス新法は競争法と労働法という対象・目的が異なる法律の要素を組み込んでおり、この二つの関係性を明確にしていくことも合わせて検討する必要があります。
労働者概念の再検討のアプローチは大きく以下の3つです。
労働者概念の拡張
既存の労働者の判断基準である「使用従属性」から「経済的従属性」へと基準を拡大する。第3のカテゴリーの創設
「労働者」と「非労働者」の間に新たなカテゴリーをつくり、独自の保護ルールを定める。労働者推定
雇用関係を示す指標が一部でも存在する場合に労働者であることを推定する。
しかし、ただフリーランスを保護するために労働者と同等の保護を適用すると、フリーランスの良さを打ち消すことになりかねません。フリーランスという働き方は、働き手にとって時間的な自由さや裁量の大きさなどの魅力があり、これが高い満足度につながっています。また、企業としても最低賃金など労働法で定められている内容を守る必要がなく、負担が非常に軽くなります。現在では、新しい働き方のメリットとフリーランスの保護のバランスを図るために議論が行われています。
⚪︎業界ガイドラインの策定
三つ目は、「業界ガイドラインの策定」です。
上記の二つではどの程度保護をするのかを産業横断的に決めることが非常に困難であることから、業界ごとの自主的なガイドラインによって規制を行う方法が考えられています。実際、2022年にはフードデリバリー協会が「フードデリバリー配達員の就業環境整備に関するガイドライン」を策定しています。その内容は国のつくった「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を参考にしたものです。このように、国のガイドラインや法律をベースに、業界が自主的にガイドラインを策定することで、業界の特徴に合わせた規制を行えることが最大のメリットです。ただし、ガイドラインに賛同していない企業には効力が及ばないことや、規制を本当に遵守させることができるのかなど、実効性の部分については大きな疑問が残ります。
企業やフリーランスが意識すべきこと
以上のように、フリーランスに関する制度は出来立てほやほやであり、今なお議論が重ねられている真っ最中です。このような状況で、企業やフリーランスは何に気を付ければいいのでしょうか。
⚪︎企業側
まず企業側としては、現時点で既にある厚生労働省のガイドラインやフリーランス新法についてきちんと理解をしておくことが必要となります。これは法令に違反しないために必要な最低限の対応です。その上で、政策の進展を待っているだけではなく、自主的に制度の構築を行うことが良いのではないでしょうか。現在の法制度では足りていない、フリーランスが不満と思っている部分を自主的に解消していくことで、フリーランスに選ばれやすくなり企業優位性を高めることにつながるからです。また、業界全体でガイドラインを策定することは、業界全体の経済的発展にもつながります。このように、市場の原理の中でお互いが対等な関係を築けるように環境を整備することが大切です。
⚪︎フリーランス側
フリーランス側としては、まずは自分が何の保護を受けることができるのか確認することが大切です。つまり、自分の働き方が労働者として保護される可能性はないのか、フリーランス新法によって保護される対象なのかなど、自分の立ち位置を確認しましょう。そして、自分の立ち位置ではどのようなトラブルに巻き込まれる可能性があるのかを考えて、万が一トラブルに遭遇した場合には「フリーランス・トラブル110番」といった相談ができる窓口を利用しましょう。また、クラウドワークなど自分で契約する企業を選びやすい場合には、就業条件を確認・比較し、不満があったら企業を変更することが自分の身を守ることにつながるかもしれません。
参考文献
・特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料
・フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ |厚生労働省
・フリーランスとして安心して働ける環境を 整備するためのガイドライン 令和3年3月26日 内閣官房 公正取引委員会 中小企業庁 厚生労働省
・フリーランスと労働者の境界はどこか 企業側が知っておきたい「フリーランスガイドライン」の概要とNG事例 | HRbase PRO
・中小企業庁「 日本国内におけるクラウドソーシングの現状」
・労働開発研究会「ウーバーイーツ配達パートナーの労働法上の労働者性」 五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子)
・連合総研レポート 2021年5月号 No.366 DIO 「クラウドワークをめぐる約款的規制の意義と課題」鈴木俊晴
・日本労働法学会誌 2022年5月 『プラットフォームワーカーに対する個別法上の法的保護』鈴木俊晴
・NHKニュース 「アマゾン」配達中にケガ ドライバー労災認定 全国初か
・厚生労働省「労働者について」
・厚生労働省 令和4年度労使関係セミナー「労働者概念——労働者性の問題例,その判断ポイント——」
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