「お前、最近無理しているだろ」を心拍数が教えてくれる
▼ 文献情報 と 抄録和訳
機能的に無理をしているアスリートの副交感神経の過活動を検出するための心拍数ベースの指標;メタアナリシス
Manresa‐Rocamora, Agustín, et al. "Heart rate‐based indices to detect parasympathetic hyperactivity in functionally overreached athletes. A meta‐analysis." Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports (2021).
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 機能的にオーバーリーチ(F-OR)状態にある持久力トレーニング選手の副交感神経系(PNS)の変化を追跡するための心拍数(HR)由来の指標の感度に関する研究では、曖昧な結果が得られている。明確でないのは、方法論の不一致の結果であると考えられる。そこで、本システマティックレビューおよびメタアナリシスの目的は、(a) F-OR選手と非F-OR選手のPNS変調を検出するための安静時および運動後の迷走神経関連HR変動(HRV)およびHR回復(HRR)指標の感度を決定すること、および(b) F-OR選手のPNS亢進を検出するためのHRベースの指標の感度に対する方法論的要因の影響を調査することであった。
[方法] 2020年5月までのCENTRAL,Scopus,PubMed,Embase,Web of Scienceを,男性および女性の持久力トレーニングを行ったアスリート,過負荷トレーニング期間を実施した対照研究および非対照研究,安静時および運動後,過負荷トレーニング期間の前後で測定したPNS変調度という用語で検索した。トレーニングによる疲労状態(F-OR選手と非OR選手)に基づいて、各アウトカム指標について標準化平均差(SMD)のランダム効果モデルを推定し、F-OR選手のPNS過活動を検出するための方法論上の問題の影響をサブグループ分析により評価した。プール解析の結果、安静時迷走神経関連HRV指標は、F-OR選手のPNS亢進を検出せず(SMD+ = -0.01; 95%信頼区間[CI] = -0.51, 0.50)、非OR選手との統計的な差(P = 0.600)は見られなかった(SMD+ = 0.15; 95% CI = -0.14, 0.45)。しかし、HRVパラメータに基づくサブグループ分析では、F-OR選手の週間平均HRVが中程度の統計的増加を示したが(SMD+ = 0.81; 95% CI = 0.35, 1.26)、単独のHRV値は統計的有意性に達しなかった(SMD+ = -0.45; 95% CI = -0.96, 0.06)。F-OR選手ではHRR指標が中程度で統計的に有意に増加し(SMD+ = 0.65; 95% CI = 0.44, 0.87)、非OR選手では変化がなく(SMD+ = 0.10; 95% CI = -0.15, 0.34)、F-OR選手と非OR選手の間で統計的に有意な差があることが確認された(P < .001)。
[結論] 運動後の迷走神経関連のHRV指標については、データが不十分でメタ分析ができなかった。今回の結果は、方法論的な要因を考慮すると、HRベースの指標はF-ORにおけるPNS変調の増加に敏感であることを示している。
▼ So What?:何が面白いと感じたか?
先日のウェアラブルセンサーの進化と合わせて考えると、少し未来が見えてくる。
「お前、最近無理しているだろ」をウェアラブルセンサーが感知し、自動的に教えてくれる。そうすると、生活環境や行動を見直し、改善を図る。または、治療者・指導者が患者・被指導者が無理をしていることに気づき、対応する。
無理していることに、往々にして本人は気づきにくい。応用範囲は広く、患者の治療、上司-部下の指導・職場環境、etc…。今回はアスリートが対象だが、今後は、さらに多種多様な対象に、さまざまな心理指標をアンカーにした研究が進んでいく領域かもしれない。