脳卒中リハは『予定説』ではない。治療による改善と遺伝的要因の関連
📖 文献情報 と 抄録和訳
脳卒中後のリハビリテーション治療に対する反応と遺伝的要因
Cramer, Steven C., et al. "Genetic Factors, Brain Atrophy, and Response to Rehabilitation Therapy After Stroke." Neurorehabilitation and Neural Repair (2021): 15459683211062899.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 脳卒中後のリハビリテーション治療に対する患者の反応には大きな差がある。我々は,脳卒中後の脳萎縮は遺伝的要因によって説明されると考え,また,遺伝的要因が脳卒中後の脳萎縮と関連していると考えた.
[方法] 第3相ICARE試験では、運動器リハビリテーション療法に対する反応を調べた。216人のICARE登録者において、BDNF val66metおよびApoE ε4多型の有無についてDNAを分析した。多型の有無と12カ月間の運動状態の変化(Wolf Motor Function Test, WMFT)を調べた。また、神経画像データも評価した(n=127)。
[結果] 被験者は61±13歳(平均±SD)で、脳卒中後43±22日で登録され、19.7%がBDNF val66metキャリア、29.8%がApoE ε4キャリアであった。各多型のキャリア状態は,ベースラインでも12か月間の追跡調査でもWMFTと関連しなかった.脳卒中後5±11日の神経画像では,BDNF val66met多型キャリアは非キャリアに比べ脳萎縮の程度が1.34倍大きかった(P=0.01).ApoE ε4多型保有者では脳卒中発症年齢が4.6歳若かった(P=0.02).
[結論] BDNFのval66met多型とApoE ε4多型のいずれも、リハビリテーション療法に対する反応の被験者間の差異を説明しなかった。BDNFのval66met多型はベースライン時の脳萎縮と関連しており,健常者と同様,エンドフェノタイプであることが示唆された.ApoE ε4多型は脳卒中発症年齢の低さと関連し,アルツハイマー病における所見と類似しており,共通の生物学的特徴があることが示唆された.遺伝子の関連は、脳卒中後の転帰の生物学を理解する上で有用な洞察を与える。
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予定説という考え方をご存知だろうか?
✅ 予定説とは?
- 聖書からジャン・カルヴァンによって提唱されたキリスト教の神学思想。
- 神の救済にあずかる者と滅びに至る者が予め決められているとする。
🌍 参考サイト >>> wiki. https://ja.wikipedia.org/wiki/予定説
すなわち、予定説とは、「運命はそもそも、自分ではない何者かによって定められていて、自分がそれに何か影響を及ぼせることはない、というスタンスのこと」。と解釈して話を進める。
予定説を信じることは、逃避主義を生む。
「リハビリをしたところで『自分は変わらない・変われない』と信じているため、頑張る気が起こらない。」
逆の考え方がある。
「生長マインド」という考え方だ。
✅ 生長マインドとは?
- 生長マインドとは、自らの生長を信じきる心
- 生長マインドは、全員に、生まれつき備わっている(子どもは、将来自分が何者かになる、いまより生長することを信頼している)
生長マインドを信頼することは、この瞬間のエネルギーを生む。
「リハビリを頑張ることで『自分はきっと良くなる。変われる。』と信じているため、いま、頑張ろうと思える」
生長マインドとは、未来への信頼。
信用ではなく、信頼。
✅ 信用と信頼
■ 信用:条件つきの「信」
例. 銀行でお金を借りようとしたとき、なにかしらの担保が必要になる。銀行は、その担保の価値に対して「それではこれだけお貸ししましょう」と、貸し出し金額を算出する。「あなたが返済してくれるのなら貸す」「あなたが返済可能な分だけ貸す」という態度は、信用。
■ 信頼:無条件の「信」
例. だれかを信じるときに、いっさいの条件をつけないこと。たとえ信用に足るだけの客観的根拠がなくても、信じきる態度。
【岸見一郎 & 古賀史健】嫌われる勇気
今回の論文は、脳卒中リハビリテーションにおいて、その改善は予定説ではない、ということを明らかにした。すなわち、遺伝的要因という、自分ではどうしようもない因子がリハビリの改善を決めているのではない、と。
これは、すべての患者、すべてのセラピスト、そして拡大解釈して、すべての人類に勇気を与える結果だ。
この結果は、次のように言っている。
大丈夫。
成長の舵は、あなたが握っている。
あなたは、無条件に自分の成長を信じていい。
運命よそこをどけ、俺が通る。
マイケルジョーダン
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