本気で宇宙に行くための調査:宇宙飛行による筋骨格への影響
▼ 文献情報 と 抄録和訳
宇宙飛行が筋骨格系の健康に及ぼす影響:システマティックレビューとメタアナリシス、惑星間移動のための考慮事項
Comfort, Paul, et al. "Effects of spaceflight on musculoskeletal health: a systematic review and meta-analysis, considerations for interplanetary travel." Sports Medicine (2021): 1-18.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar
✅ キーポイント
- 長期宇宙飛行中の既存の運動対策では、微小重力(μG)が下半身の筋機能および筋量に及ぼす悪影響を除去するには不十分である。
- 既存のコンカレント・トレーニング(レジスタンス・トレーニングと中強度の有酸素トレーニングを同一セッションで行うこと)は、μGが筋肉系に与える影響を悪化させる干渉効果をもたらす可能性がある。
- 宇宙飛行士が抵抗運動で使用すると報告されている負荷は、一般的に長時間の宇宙飛行中に筋機能を維持するには不十分である。安全な惑星間飛行のためには、このような筋肉量と機能の低下を解消することが不可欠である。
[背景] 今後数十年にわたって惑星間飛行を成功させるためには,宇宙飛行の期間が長くなることを考慮して,筋骨格系の劣化を最小限に抑えるための対策を可能な限り効果的に行うことが不可欠である。そこで,このレビューの目的は,長期宇宙飛行中の筋骨格系の衰えの程度を明らかにし,既存の対策を強化するための可能な方法を提案することである。
[方法] PubMed,Ovid,Scopus の各データベースを用いて文献検索を行った。5541 件の研究が確認されたが,重複しているものは除外し,次のような組み入れ基準を適用した。(1)宇宙飛行前後における筋力,筋肉量,骨密度の測定値のグループ平均値および標準偏差が報告されている(または,電子メールで要求された際に対応する著者から提供されている),(2)運動をベースとした対策が含まれている,(3)研究の対象者が人間である,(4)筋機能が評価されている,(5)模擬宇宙飛行ではなく宇宙飛行が行われている。研究の二次解析にはHedges's g effect sizeが含まれ、研究間の差はrandom-effects modelを用いて推定した。
[結果] 合計11件の研究がメタアナリシスに含れた。宇宙飛行により、大腿骨(ヘッジスg=-0.49[-0.69~-0.28]),転子(ヘッジスg=-0.53[-0.77~-0.29]),腰骨部(ヘッジスg=-0.48[-0.73~-])のBMDがわずかに減少した。ただし下肢の力の生成(ヘッジg = − 1.75 [− 2.50〜– 0.99])および下肢の筋肉サイズ(ヘッジg = − 1.98 [− 2.72〜– 1.23)])が大幅に減少した。
[結論] 現在の運動対策では,長期宇宙飛行中のBMDの減少は小さい。これは,乗組員が報告した低~中程度の負荷と,同時トレーニングに伴う干渉効果に起因するものと考えられる。報告されているトレーニング方法に変更を加えることで、長期宇宙飛行による筋肉系への悪影響に対するより効果的な対策となるかどうかを判断するために、より高負荷のレジスタンス運動や高強度インターバルトレーニングの使用を検討することが推奨される。
▼ So What?:何が面白いと感じたか?
これまで、宇宙飛行による人体への影響を調査した研究は、「無重力ではこんな感じの影響があるので、ベッドレストだと・・・」のような無重力という極端な環境で生じた事実を地球上で生かすというニュアンスのものが多かった。
しかし、この研究は違かった。
ガチで宇宙飛行が筋骨格へ与える影響を調査、トレーニング方法を検討している。
そこに地球上で・・・、というような考察は少ない。
宇宙飛行の、宇宙飛行による、宇宙飛行のための研究
A study of spaceflight, by spaceflight, for spaceflight.
近い将来、僕たちは、普通に惑星間移動をしているかもしれない。
もしかしたら、そこに理学療法士がいて、「宇宙飛行中加算がつくらしいよ♪」みたいなことだって、ありえる。
日常だって、変わるだろう。「明日から1週間宇宙だよ。地球の患者の申し送り、業務後にいいかな?」という感じで。
飛躍したイメージかもしれない。だが、近づいていることは確かだ。
少なくも、そのための準備が進んでいる、本気でそのことを考えている人々がいることは知っておきたい。
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