親密さの鍵は唾液の共有:「同じ釜の飯を食った仲」は実在した
📖 文献情報 と 抄録和訳
親密さの初期概念:若いヒトは唾液の共有を利用して親密な関係を推論する
Thomas, Ashley J., et al. "Early concepts of intimacy: young humans use saliva sharing to infer close relationships." Science 375.6578 (2022): 311-315.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 人間社会全体において、人々は強い愛着、義務、相互対応性を特徴とする「濃い」関係を形成している。濃厚な関係にある人々は、食器を共有したり、キスをしたり、唾液を共有するような特徴的な相互作用を行う。
[方法 & 結果] 我々は、子供、幼児、乳児が、唾液を共有する(他の肯定的な社会的相互作用とは対照的に)二人組は明確な関係を持っていると推測することを発見した。
✅ 大きく3つの実験
(1) 子どもは、唾液の共有は核家族で行われると予想している:漫画の人物同士の相互作用を提示。幼児は、食器の共有や同じ食品をなめることは核家族内で起こるが、おもちゃの共有や分割できる食品は友人関係や家族内で等しく起こると予測した。
(2) 幼児と乳児は、唾液を共有する人々は苦痛の中で互いに反応し合うと予期している:女優と人形が唾液の共有をする場面やボール遊び(非唾液の共有)する場面を観察し、子どもがどちらを早く・長く見るかを観察。食物および唾液を共有した女優の方を早く、長く見た。
(3) 親は、唾液の共有が子供の社会環境における関係の厚みを示す有効な手がかりであることを確認:親たちは、子どもがさまざまな関係の人と積極的な社会的相互作用(遊ぶ、読む、抱きしめるなど)をすることに快適さを示したが、唾液を共有する相互作用(食器の共有、同じカップで飲む、顔にキスするなど)は、参加者が濃いと評価した関係でのみ快適さを示した。
[結論] このように、特徴的な相互作用を利用して人間関係のカテゴリーを推測する能力は、明示的に教えなくても、人生の早い時期に出現する。このため、若い人間は、家族内外の親密な関係を迅速に識別することができる。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
「俺たち、同じ釜の飯を食った仲だもんな」
✅ 同じ釜の飯を食うの意味
- 同じ共同体が同じものを食べることで、同体としての帰属意識を持つこと。
- あるいはそれを強化すること。
これが、実際にあったという話。
確かに、食事を交換したり、顔にキスをしたり(日本人はあまりしないだろう)、ジュースを回し飲みしたりする間柄は、親密と思える。
だが、矢印は一方向ではない、「認知的不協和理論」をご存知だろうか。
超簡易にいえば、「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しい」ということ。
親密だから唾液の交換をするのではなく、「私、いまこの人と唾液を共有した。ということはこの人と親密なんだ」という唾液の共有が親密さに及ぼす影響もあると思われる。
言いたいことは、もうお分かりだろう。
そう、Covid-19である。
コロナ禍以降、何が制限されたって「唾液の共有」である。
黙食、ソーシャルディスタンス、マスク、マスク、マスク・・・。
それは、家族内であっても、そうだ。
娘が、「パパ、この飴(なめかけ)なめていいよ」と差し出した飴。
コロナ禍より前なら、なんのためらいなく、なめていた飴。
でも、いまは違う。なめないか、なめる前に躊躇のフェーズがある。
そこに、岐路がある。
強化されていたはずの親密さが、強化されなくなったわけだ。
Covid-19は、人間のもつ根本的な仕組みを使って、僕らの絆を分断しにきているのかもしれない。
でも、そんな今だからこそ!
他にできること、これを考えたい。
「唾液の共有をもっとしましょう!」は、今できることではない、残念だけれど。
だから、たとえば、
- 目を逸らさずにしっかり正面からアイコンタクトをとるとか、
- ながら作業でなく、腹の底を相手に向け全集中で相手の話を聞くとか
- 「真に愛のある言葉かけとは?」、について考えてみるとか、
- ふと、感謝を伝えてみるとか、
- 手書きで手紙を書いてみるとか、
とにかく、親密さを諦めたくはない。
今回知った、人間の親密さの仕組みを「できない理由」にしたくはない。
逆転の発想だ!
制限があるからこそ、競技は面白くなる。
手が使えないからこそ、サッカーは面白い、だろう?
その不自由のおかげで、サッカーの発達可能性が高まるわけだ。
親密さを深めることに対して、「唾液の共有」は使えない。ルールが変わったのだ。
だからこそ、いま、親密さや絆をどう繋ぐかが面白い。
無理にでもそう思い、その信念に基づいた行動を取れ。
すると、だんだん、ほんとうにそういう自分になってゆけるから。
“Fake it, until you make it.”
そうなるまで、そうであるふりをせよ
Amy Cuddy
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