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リアルタイム連続血糖測定の威力

▼ 文献情報 と 抄録和訳

インスリン治療を受けた糖尿病患者におけるリアルタイム連続血糖測定と血糖コントロールおよび急性代謝イベントとの関連について

Karter, Andrew J., et al. "Association of real-time continuous glucose monitoring with glycemic control and acute metabolic events among patients with insulin-treated diabetes.” JAMA. 2021;325(22):2273-2284.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景] 持続的グルコースモニタリング(CGM)は1型糖尿病患者に推奨されているが、インスリン治療を受けている2型糖尿病患者におけるCGMの観察的エビデンスは不足している。

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▶︎CGMを知らない方はこちらを参照してください

[目的] リアルタイムでCGMを開始した場合の臨床転帰を推定する。

[デザイン,設定,参加者] リアルタイムCGMの開始に伴う転帰の変化について,差動差動分析を用いて探索的なレトロスペクティブコホート研究を行った。北カリフォルニアの統合医療提供システムからケアを受けている、インスリン治療を受けている糖尿病患者(5673人の1型、36 080人の2型)で、血糖値を自己測定しており、CGMの使用歴がない合計41 753人を対象とした。エクスポージャー リアルタイムCGMの開始対非開始(参照群)。

[主なアウトカムと測定法] ベースラインの前12カ月と後12カ月に測定された10のエンドポイント:ヘモグロビンA1c(HbA1c)、低血糖(救急部または病院の利用)、高血糖(救急部または病院の利用)、HbA1cレベルが7%未満、8%未満、9%以上、理由を問わず1回以上の救急部受診、理由を問わず1回以上の入院、外来受診と電話受診の回数。

[結果] リアルタイムCGM開始者は3806名(平均年齢42.4歳[SD、19.9歳]、女性51%、1型91%、2型9%)、非開始者は37 947名(平均年齢63.4歳[SD、13.4歳]、女性49%、1型6%、2型94%)であった。リアルタイムCGMを開始した患者の開始前の平均HbA1cは、非開始者よりも低かったが、リアルタイムCGMを開始した患者は、開始前の低血糖および高血糖の発生率が高かった。平均HbA1cは、リアルタイムCGM開始者では8.17%から7.76%に、非開始者では8.28%から8.19%に低下した(調整後の差延推定値:-0.40%、95%CI、-0.48%から-0.32%、P < 0.001)。低血糖の発生率は、リアルタイムCGMの開始者では5.1%から3.0%に減少し、非開始者では1.9%から2.3%に増加した(差引推定値:-2.7%、95%CI、-4.4%から-1.1%、P = 0.001)。また、HbA1cが7%未満の患者の割合(調整後の差引推定値、9.6%、95%CI、7.1%〜12.2%、P<0.001)、8%未満の患者の割合(調整後の差引推定値、13.1%、95%CI、10.2%〜16.1%、P<0.001)の調整後の純変化量にも、統計的に有意な差がありました。 9%以上(調整後の差引推定値,-7.1%,95%CI,-9.5%から-4.6%,P < 0.001),外来受診回数(調整後の差引推定値,-0.4,95%CI,-0.6から-0.2,P < 0.001)と電話受診回数(調整後の差引推定値,1.1,95%CI,0.8から1.4,P < 0.001)でも差があった.リアルタイムCGMの導入は、高血糖、理由を問わず救急外来を受診すること、理由を問わず入院することのいずれに対しても、統計的に有意な変化とは関連しなかった。

[結論と関連性] このレトロスペクティブコホート研究では,インスリン治療を受けた糖尿病患者が医師によってリアルタイム連続血糖測定を選択された場合,開始されなかった場合と比較して,ヘモグロビンA1cが有意に改善し,低血糖による救急部受診や入院が減少したが,高血糖による救急部受診や入院,あるいは何らかの理由による入院には有意な変化はみられなかった。観察研究のため、結果は選択バイアスの影響を受けている可能性がある。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

まず、泣く子も黙る『JAMA』である。信頼せざるを得ない。その上で、この論文が示す興味深さは2つあると思う。

1つは、モニタリングの威力だ。レコーディングダイエットなるものがある。記録をつけるだけで痩せることができる、というやつだ。人間にとって、客観的にモニタリングされ、それを認識すること自体が、望ましい方向に向かうトリガーとなるえるらしい。身体活動量でも類似の結果が報告されている(【Clinical rehabilitation】Turunen, 2020)。血糖値においても、モニタリングの威力が示されたわけだ。

2つめに、CGMという血糖測定におけるパラダイムシフトだ。これまでの血糖測定は指先に針を刺して、血液から直接的に血糖値を計測していた。時代が変わりつつある。連続的に計測できることで、その「変動性」に着眼することができたり、これまで未開の領域だった部分が切り開かれつつある。そこにも注目していきたい!そして、このCGMを用いたリハビリテーション視点での研究が現時点では多くない。研究におけるゴールドラッシュが起こりうる領域と見ている。