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競技復帰 ≠ 元通り:肉離れ後の筋活動-システマティックレビュー

▼ 文献情報 と 抄録和訳

前回の筋損傷を受けた下肢の筋活動と活性化;システマティックレビュー

Presland, Joel D., et al. "Muscle Activity and Activation in Previously Strain-Injured Lower Limbs: A Systematic Review." Sports Medicine 51.11 (2021): 2311-2327.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ Key points
- 筋損傷の既往がある人では、以前のレベルのスポーツ参加に戻ったにもかかわらず、筋力評価の際に筋活動と活性化に違いが見られた。
- 複数のsEMGパラメータと随意的な活性化は、遠心性収縮時に損傷肢で異なることが観察されたが、求心性収縮では違いがないことが多かった。

[背景・目的] 下肢の筋緊張損傷は、ランニングを主体としたスポーツでは非常に多く見られ、損傷再発の危険因子と考えられている。このような再受傷のリスクを高める要因として、過去に筋挫傷を負った肢体の筋活動や活性化の違いが考えられるのではないか。目的は、筋活動や活性化が、対側の非損傷筋や非損傷対照群と比較して、以前に筋損傷を受けた筋で異なるかどうかを調査した文献を系統的にレビューすること。

[方法] SPORTDiscus, MEDLINE Complete, CINAHL, Web of Scienceに掲載されている文献のシステマティックレビューを行った。筋緊張損傷歴のある人の神経筋機能の指標を、損傷した手足と損傷していない対側の手足または対照群と比較したフルテキストの英語論文を対象とした。

[結果] 適格性基準を適用した結果、12件の研究がレビューに含まれました。ベストエビデンス統合により、表面筋電図(sEMG)振幅、統合sEMG振幅、筋間sEMG比、損傷側の随意的な活性化の違いを示唆する中程度から限定的なエビデンスが得られ、その多くは遠心性収縮時のものであった。スプリント評価を利用した研究では、ハムストリングスの損傷歴のある四肢と損傷していない対側の四肢との間で遊脚相後期の大腿二頭筋sEMG振幅を比較した際に、相反する証拠が示された。

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✅ 図. ハムストリングス筋損傷歴のある四肢の、遠心性等速性膝関節屈曲時に収集した筋活動データを、損傷のない対側四肢と比較して、a 大腿二頭筋と b 内側ハムストリングスの筋活動データをフォレストプロット。特に大腿二頭筋において傷害側の活動が低下していた。

[結論] 様々な筋力評価において、損傷した肢と損傷していない肢の間で、筋活動と活性化に違いが見られた。これらの違いを裏付けるエビデンスは、中程度または限定的なものが多く、一般的に遠心性収縮時に観察された。このレビューでは、1件を除いてすべての研究がsEMG振幅の誘導体を利用しており、sEMGだけでは観察できない損傷後の違いを明らかにできる可能性があるため、神経機能を調べるために別の方法を用いた研究をさらに進めることが望まれる。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

覆水盆に返らず。
リハビリテーションとは、元に戻すものではない。
その語源からして、そうである。

✅ リハビリテーションの語源
- re:「再び」
- habilitate(habilitation):ラテン語の「habilis」に由来。「適した」という意味。
- 直訳すると「再び適合させる」ということになる。

リハビリテーションとは、元に戻す(reposit, restore)というより新規の学習である。
損傷後には、身体の構造自体が変わっているから当然といえば当然である。
例えば、股関節骨折後には、時として10度以上の頸体角変化が生じることがあり(Cho, 2017 >>> pubmed)、この場合、「受傷前の動き方が正解にはならなそうだ」、と容易に想像がつく。
脳卒中においてもそうだ。
片側に運動麻痺が生じているのに、完全な左右対称がいいとは限らないだろう。

そして、今回の研究は「肉離れにおいてもそうだ」を明らかにした。
肉離れ後、競技復帰したとしても、筋活動というミクロな部分においては元通りではない。
具体的には、遠心性収縮時の筋活動が弱くなっていた。
だが、ここで考えなければいけないのは、以下のことである。

受傷前への再帰が善か、今の構造に応じた新最適があるか?

上記で述べたような理論から考えても、
個人的な信条に照らしても、
僕は「新最適」の存在を支持している。

そして、そう考えると左右対称度とか、正常との比較の意義とは何だろう。
程度問題かな、と思っている。
ある値(閾値)より大きく左右非対称になると、流石に問題。でも、その範囲内であれば、ミクロな構造的な違いに応じた多様性があったほうがむしろいい、というような。
法律の外は流石にダメ、でも、その中は自由、多様性があった方がいい、というような感じだろうか。
リハビリテーション哲学にまで行ってしまったが、突き詰めて考えてみるのも面白い。

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